ティルラちゃんは寝坊したようでした
「昼や夜もいいけど、朝の空気もいいだろう?」
「うん。――そういえば、お爺ちゃんが言ってた」
「うん?」
「朝の光は、生きるために必要な光だって。だから、お爺ちゃんは朝早く起きるし、暗い夜は早く寝るんだって! 体一杯に光を浴びて、今日も一日頑張る力を貰うって言ってた!」
「そうかぁ、レインドルフさんがそう言ってたのか」
レインドルフさんの事だからか、嬉しそうに話すリーザは、太陽の光を反射して眩しく見える。
茶色い耳や尻尾の毛も、金色に輝いてるようにすら見える。
もしかしたら、レインドルフさんの言う頑張る力の出る光っていうのは、リーザのこの姿なのかもしれないな……。
レオの毛も銀色に輝いてるし、この姿を見るだけでも、朝早く起きて外に出てきた甲斐があると言える。
「よーし、今日も一日……いや、森に行くのか。だったら……森へ行っても頑張るぞー!」
「リーザも頑張るー!」
「ワフー!」
少しずつ角度を上げる太陽に向かい、日の光とリーザやレオの輝くように反射する毛の光を浴びながら、元気よく声を上げる。
朝だからというのもあるが、大きめの声を出すというのは気持ちいいからな。
リーザやレオも、俺を真似して声を上げて、皆で笑い合った。
朝食までの時間、そうやって深呼吸したりのんびりしたりとして過ごし、活力を養う事に費やした。
早く起きたリーザが、時間を持て余さないよう、思い付きで裏庭に出たが……悪くないどころか、かなり楽しんでもらえたようだな。
楽しそうに笑うリーザを見れたから、簡易薬草畑を見張ってくれてる執事さんやメイドさんに笑われていた事は、気にならない。
悪い意味で笑っていたのではなく、微笑ましいものを見るような、朗らかな笑いだったから、問題はないしな。
声を出した後は、疲れない程度に体を動かしたりもした。
簡単に、俺が覚えてる限りでのラジオ体操程度だけどな。
さすがにレオは、真似できる動きではなかったために見ているだけだったが、リーザは楽しそうに体を動かしていた。
やっぱり、体を動かすのが好きなんだなぁ……獣人だからというのもありそうだ。
俺も、朝から久しぶりに新鮮な空気を吸って、ラジオ体操の真似事をして、気分も爽快だった――。
「そういえば、タクミさん。先程外からリーザちゃんの声が聞こえた気がしたのですけど、何かなさっていたのですか?」
「確かにそうだな。レオ様や、タクミ殿の声も聞こえた気もするな。おかげで、薬草に頼らずに起きられたが……」
「えぇっと……とりあえず、すみません……」
裏庭でリーザやレオと気持ち良く過ごした後、朝食の席にてクレアさんやエッケンハルトさんに、不思議そうに声が聞こえたと聞かれてしまった。
アンネさんに至っては、安眠が阻害されたと、こちらをジト目で見ている。
どうやら、さすがに大きな声を出すのはやり過ぎだったらしい……いくら早く目が覚めて、明るくなってる時間とはいえ、皆の安眠を阻害するのはいけないな。
今度からは気を付けよう……。
エッケンハルトさんだけは、安眠妨害というより、寝坊する事を防げたようなので、結果オーライなのかもしれないけどな。
「お待たせしました!」
「遅かったのね、ティルラ。朝食も食べないで、大丈夫?」
「お腹も減っていないので、平気です!」
朝食も終わり、食後のティータイムをのんびりと過ごした後、森への準備を終えて玄関ホールで集合。
その頃になって、ようやくティルラちゃんが姿を現した。
どうやらティルラちゃんは、いよいよ森へ行くという事で、緊張して昨夜はよく眠れなかったようだ。
寝付けなかった事はリーザと同じだが、ティルラちゃんの場合は、朝早く起きる事もなく、寝坊してしまった。
寝るのが遅くなった分、起きるのも遅くなった形だな。
おかげで朝食の時間に起きてくる事はなく、メイドさん達に呼び掛けられても中々起きなかったらしい。
朝食抜きは気になる所だが、リーザのように遅く寝て早く起きるという、単純に寝不足になるよりはマシかな。
セバスチャンさんが話しているクレアさんとティルラちゃんから離れて、ヘレーナさんに何事かを言い、食べ物を用意してもらっているから、移動中か休憩中に食べればなんとかなるだろうしな。
「よし、皆集まったな。では、出発するとしよう」
玄関ホールに集まった集団を見渡し、準備を終えているのを確認した後、エッケンハルトさんが皆に声をかける。
森へ行くメンバーは、俺とリーザ、レオとシェリー、エッケンハルトさんとクレアさんに、ティルラちゃんとアンネさん。
さらに、使用人として、セバスチャンさんを含めた執事さんが三人に、メイドさんがライラさんを含めて三人。
護衛さんとして、フィリップさんとニコラさんとヨハンナさんに加えて、さらに五人の合計八人。
護衛さんが予定より多い気がしたが、二人程は森の入り口で馬を屋敷へ戻す役割となっている。
今回は前回と違い、人数が多いので使う馬が多いのもあって、森の入り口で見ているのではなく、俺達が森へ入った後屋敷へと戻すらしい。
数が増えると、世話が大変だからな。
移動に使った馬を屋敷へ戻した後、別の馬を森へ連れて来て、待機させるとの事だ。
その時に、別の使用人さんや護衛さんも一緒に来て、世話をする事となっている。
そうする事で、馬や護衛さん、使用人さん達の手間を分散させるという事のようだな。
「それじゃ、薬草畑の方はお願いします。――ミリナちゃんも、ニックによろしく」
「畏まりました、お任せ下さい」
「はい、師匠! 私も畑を見ますので、安心して行ってきて下さい!」
ゲルダさんを含めた、使用人さん達に簡易薬草畑の事を頼み、前もって作っていた薬草を渡しているミリナちゃんに、ニックへの対応を任せる。
カレスさんの店には、足りなくなった薬草を卸さないといけないからな。
もし作っておいた薬草が足りなかった場合は、畑の方から摘み取ってもいい事になっている。
まぁ、『雑草栽培』で状態変化ができないため、店で売れるような処置をしないといけないが、日頃扱っている薬草ならば、ミリナちゃんがわかるはずだからな――。
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