ハンネスさんを見送る時間になりました
「味の方は確かに。ですが、夕食時にも頂いて、今朝はいつもより調子が良い気がしますな」
「ははは、すぐに効果が出るかどうかは人によるみたいですけど……」
ハンネスさんは、薬酒の効果を数回飲んだだけで実感しているらしい。
けど、こういうのってすぐに効果が出る程の物じゃないと思うんだよなぁ……日本でのサプリのイメージが強いせいかもしれないが。
まぁ、プラシーボ効果だったり、そもそもハンネスさんに必要な栄養素が足りていなかった、という事もあるのかもしれないな。
「パパ、次のを始めてもいい?」
「ん、あぁ。そうだな。それじゃ次に取り掛かろう。――ロザリーちゃんは、ミリナちゃんと交代した方がいいかな?」
「……すみません。手伝うと言い出したのは私なのに、あまり役に立てなくて……」
「それはいいんだよ。疲れる作業だからね。リーザは疲れ知らずだからいいとして、なんならミリナちゃんと交代しながらやったっていいんだから。それだけでも、助かるよ。――ね、ミリナちゃん?」
「はい。私一人では、やはり限界があるので……交代で作りましょう!」
「わかりました!」
リーザがまだ薬を作りたそうに声をかけてきたので、次の調合へと取り掛かる。
ロザリーちゃんは、一回目の調合で結構疲れてしまっていたので、ミリナちゃんと交代するように言うと、少し落ち込んだ表情。
でも、女の子がいきなりこの作業をしたんだから、疲れて当然だ。
ある程度回数をこなして、慣れているミリナちゃんでさえ疲れるんだしな。
交代でやるだけでも、ミリナちゃんが助かると言って声をかけ、嬉しそうに頷くロザリーちゃんを、朗らかに見る。
ハンネスさんも、孫が頑張る姿が嬉しいのか、満面の笑顔でそれを見守っている。
やっぱり、孫ってかわいいんだろうなぁ。
俺もそうだが、ハンネスさんといいエッケンハルトさんといい、俺の周囲にいる男性は、娘や孫に甘い人が多いな……いや、ある意味当然なのかもしれないけど。
「馬の準備、完了しました」
「ご苦労様です」
「私共が乗って来た馬のお世話までして下さり、ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
薬の調合が終わり、皆で昼食を頂いた後、ハンネスさんとロザリーちゃんが屋敷を出発する時間になった。
この時間に屋敷を発てば、余裕を持ってラクトスに到着できるし、そこで一泊して村へと帰る事ができる。
ハンネスさん達が乗って来た馬を準備していたヨハンナさんが、セバスチャンさんへ完了の報告。
この屋敷に来るために乗って来た馬は、屋敷の方でしっかり管理していたようで、疲れもなく無事出発できそうだ。
セバスチャンさんを始め、見送りに来たエッケンハルトさんやクレアさんに、深々とお辞儀をするハンネスさんとロザリーちゃん。
「客だからな。それくらいは当然だ。……村に戻ったら、皆への説明や説得など、やる事は多いだろうが、よろしく頼むぞ」
「はい、畏まりましてございます。ランジ村の皆への説明は、お任せ下さい。……タクミ様やレオ様が村へ来ると知れば、誰も反対や異議を唱える者はいないでしょうが……。それどころか、いつ来るのか、歓迎の準備を……と急く者を止める方が大変そうでございますね」
「はっはっは、それならば安心だ!」
「こちら、ロゼワインと薬酒でございます」
「確かに、受け取りました」
エッケンハルトさんと話すハンネスさんだが、俺やレオが行くからって、歓迎するとか大騒ぎに成る程なんだろうか?
確かにランジ村を危機から救ったという自覚はあるが……まぁ、迷惑と思われないのならそれでいいか。
子供に人気だったレオが来るというのが、大きいのかもしれないしな。
話しながら苦笑するハンネスさんに、笑うエッケンハルトさん。
その横から、幾つかの瓶を布で包んだ荷物を渡すセバスチャンさん。
村に戻って、他の人達にロゼワインと薬酒についての説明をするため、現物を持って帰ってもらおうという事だ。
瓶は、大体五百ミリリットル入るくらいの大きさで、それが各種五個ずつの計十個。
結構な荷物になっているが、馬が運んでくれるし、それに……。
「こちらも、準備できました」
声と共に、街へ行く時と同じ装備をした、ニコラさんが玄関から入って来る。
屋敷からランジ村に向かうため、今回はニコラさんが護衛に付くようだ。
ラクトスの街を経由して、街道を進む事が多いため、危険は少ないとハンネスさんは護衛を付けなくとも……と言ったのだが、エッケンハルトさんが念のためと押し切った。
ロゼワインや薬酒を運ぶ、荷物持ちの役目もあるようだ。
移動中は馬が運ぶから大丈夫そうだが、街にいる時なんかはハンネスさんやロザリーちゃんに持たせるのは、重すぎると考えたエッケンハルトさんの配慮だろう。
それならば量を減らせば……と思うが、それを口実に護衛を付けようという目論見もありそうだ。
まぁ、屋敷と村の往復で、村長であり、色々な話をしたハンネスさんにもしもの事があったらいけないからな。
「ロザリーちゃん、またね」
「うん。村に来たら、いっぱい友達紹介するからね!」
「楽しみにしてる!」
「レオ様も、皆また遊べるのを楽しみにしてます!」
「ワフワフ!」
子供達の方も、挨拶をしているようだ。
リーザがロザリーちゃんと仲良くなったようで、村で友達を紹介してくれるという話になっているみたいだな。
屋敷は大人ばかりなので、村に行ってリーザを変な目で見ずに、楽しく遊んでくれる友達ができるのなら、俺としても嬉しい。
レオも、子供達と遊べるのを楽しみにしてるようで、尻尾をブンブン振ってるな。
「あ、そうだ。リーザちゃんがしてるその帽子……私も買えるかな?」
「んーどうだろう? ねぇ、パパ?」
「ん、どうしたんだい?」
「ロザリーちゃんがこの帽子を欲しいみたいなんだけど、買えるのかなって? これは、パパが買ってくれた物だから、あげられないし……」
「そうだなぁ……」
「それでしたら、仕立て屋の方に言っておきますよ」
昨日、リーザを紹介した時に、同じような尻尾と耳が欲しいって言っていたロザリーちゃんだ。
リーザが気に入って、ほとんどいつも被ってるようになった帽子を見て、自分も欲しいと思うようになったんだろう。
この帽子は、リーザのためにハルトンさんが特別用意してくれた物だから、買えるかどうかわからず、悩んでいると、セバスチャンさんから声をかけられた。
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