『雑草栽培』の事をハンネスさんに伝えました
「確かに、薬草を作ると言っても、量ができる事はあまり想像できないな。そもそも、自ら育てようとする事が、この国では異例だ。ほとんど、自生している薬草を取って来るばかりだからな。……タクミ殿、セバスチャン?」
「大丈夫です。ハンネスさんは村長なので、正しく知っておく必要があるでしょう」
「私も同じくです。元々、情報は共有する事で、話は付いていましたから。問題ないでしょう」
「うむ」
「?」
当然出て来ると思われた疑問に対し、エッケンハルトさんが頷いて肯定しつつ、俺やセバスチャンさんに目配せする。
それを受けて、俺も頷きながらハンネスさんに教える事を承諾し、セバスチャンさんも同意してくれた。
ハンネスさんは、目配せしたエッケンハルトさんや、頷く俺達を見て首を傾げている。
何を教えるかと言うのは、俺のギフト……『雑草栽培』の事だ。
ランジ村で薬草を作るのだから、村長であるハンネスさんには伝えておかないと不誠実だし、薬草畑が上手く行くかどうかも判断できない。
雇う人たちには、俺が『雑草栽培』を使って薬草を作る場面を見る事が多いため、ある程度は教えるつもりだが、それはハンネスさんも同じ。
通常では考えられない方法で薬草を作るのだから、教えておかないといくら信用されているといっても、いずれ不信感が募ってしまうかもしれないからな。
まぁ、このあたりは元々エッケンハルトさんとも話していたし、わざわざ俺やセバスチャンさんを確認したりしなくてもいい事だ。
多分、パフォーマンスというか、重要な情報を扱う……と見せるためなんだろうと思う。
「実はな、タクミ殿には特殊な能力が備わっている」
「特殊な能力……ですか?」
「うむ。聞いた事はないか? ギフト、という能力を」
「ギフト……神からの贈り物と言われる能力……でしたか。はい、私も長く生きていますので、話くらいは聞いた事があります。見た事はないので、噂話に過ぎないと思っていたのですが……まさかそれが?」
「そうだ。タクミ殿にはギフトの能力がある。そして、そのギフトは薬草を作る事ができるというものでな? おかげで、薬草の種類や育つ環境に左右されず、しかも数を作る事ができる」
「薬草を作るギフト……それは本当なのですか? いえ、確かに村に持って来られたラモギは多く、数日で集められるとは思えない数でした。それに確かあの時……足りなかったら言ってくれとも……」
「そうなのか?」
「はい、確かに言いました。村の人達のほとんどが病に罹っていたので……人数は聞いていましたが、効きが悪かったり、実際に必要な数が少なくて足りないなんて事がないように、ですね」
少し多めに、ラモギを作って村に向かったが、それでも足りるかはわからなかった。
ハンネスさんが村を離れている間に、別の人が病に罹ったりしてるかもしれなかったしな。
それに、咳き込む症状があるため、乾燥して粉末になっているラモギを飲み込めず、いくつか無駄にしてしまう事も考えてた。
まぁ、結局は俺の杞憂で、皆水と一緒にしっかりラモギを飲んで、病が治ってくれたんだけどな。
「そうか。すぐには信じられないのも無理はないが……タクミ殿はいつでもどこでも、薬草を作り出す事ができる。そのおかげで、今回の疫病騒ぎはすぐにおさまってくれた。……もし、タクミ殿の協力がなければ、という事は考えたくないな」
正確には、薬草じゃなく雑草……だけどな。
品種改良など、人の手が入っていない植物を作り出せる。
あと、どれだけの数を一度に作れば限界があるのかは、まだよくわかってないが、能力を使い過ぎると突然倒れてしまうという事もあるから、それだけに頼るのはちょっと危険だ。
だからこその薬草畑なんだが。
あと、俺が協力しなかったら……というエッケンハルトさんの言葉も、大袈裟じゃないかもしれない。
病ですぐに死ぬような、重い症状ではなかったにせよ、体力の少ない人は危ないし、当然病に臥せっていたら働けない。
あのままラモギが行き渡らず、病が蔓延したままだったら、ラクトスやその周辺の村々はどうなっていたのか……人が相手ではない分、対処も難しいしな。
それこそ、スラムにいたディームが、周辺のスラムも巻き込んで武力蜂起した方が、対処もしやすく被害も少なかっただろうなぁ。
どちらも、起こらないに越した事はないけどな。
「そう、ですか。ギフトが本当にあるとは……。いえ、公爵様方やタクミ様がそう仰られるのなら、そうなのでしょう。実際に、多くのラモギを用意して下さり、村は救われましたから」
「ありがとうございます」
「そうか、信じてくれるか。まぁ、信じなくとも、タクミ殿に実演してもらえば信じざるを得ないんだがな」
ハンネスさんは、余程俺と公爵家を信頼してくれてるらしい。
今まで噂話と考え、実際にあるとは思っていなかった能力の事を、すんなり信じると言ってくれた。
ありがたい事だ。
人に信じてもらう以上、裏切らないよう頑張らないとな……と、薬草畑への意欲が沸いてくる。
あと、エッケンハルトさんが言ってるのは、初めて会った時に実演した事だろう。
クレアさんやセバスチャンさんもいた事で、既にほとんど信じられていたかもしれないが、実際に見た方が手っ取り早いと、『雑草栽培』を使って見せた。
あの時は……薬草を卸す契約とかもあったから、見せる事も重要だったしな。
「それは、見てもよろしいものなのですか?」
「ん? あぁ、構わんぞ。ギフトは誰かに見られたからといって、なくなるものでもない。あまり広める事はして欲しくないが、見るくらいなら構わんだろう。なぁ、タクミ殿?」
「そうですね。実際に見てもらった方が、理解も早いかもしれません。ですが、それをどうしてエッケンハルトさんが言うんですか?」
「はっはっは! 私とタクミ殿の仲ではないか!」
どんな仲なんだろう?
まぁお世話になってるし、エッケンハルトさんが代わりに許可を出したからって、怒る程でもない。
見てはいけないなんて、鶴の恩返しのような能力でもないしな。
エッケンハルトさんの言うように、広めてしまったら俺が狙われる事も考えられるから、そこは注意して欲しいが……俺は鶴になって飛び去ったりはしない。
レオに乗って走り去るかもしれないが、それは危険な時の最終手段だな――。
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