少し違う心持ちで鍛錬をしました
リーザは、昨日俺やレオが何をしていたかは知らないはずだが、自分のために何かをしていたのだろうとは、感じているみたいだ。
その辺りは人間とは違う、獣人としての鋭さなのかもしれない。
まぁ、レオと相談して尻尾で楽しんでもらおうというのは、リーザなりに労っているつもりなのかもな。
もしかすると、昨夜寂しい思いをさせた事による仕返しとか、悪戯の可能性もあるが……ここは素直に受け取っておこう。
息苦しいという事はなかったが、さすがに、尻尾を顔に乗せるのはどうかと思うけどな。
リーザが嬉しそうだから、それで良しとしておこう。
……俺、甘いかなぁ?
「……うー……パパ!」
「おっと。どうしたんだ、リーザ?」
「昨日、ライラお姉さんもいてくれたけど、パパやママがいなくて、寂しかったの……」
「そうか……ごめんな? これからは、できるだけ一緒にいるようにするから」
「うん……」
尻尾の事を楽しそうに言っていたリーザだが、俺の顔を見ていると、すぐに泣きそうな顔になり、まだ体を起こしただけの俺に飛び付いて来た。
そこには、昨夜一緒にいられなかった事への寂しさがいっぱい詰まってる様子だ。
リーザのためと考えて行動したが、それでも寂しい思いをさせて、泣かせたんじゃ本末転倒だ。
これからはできるだけリーザと一緒にいる事を心に決め、抱き着いているリーザの頭を耳と一緒に優しく撫でてやった。
うん、リーザに対する自分が甘過ぎかと思ったが、これは無理だ。
甘やかしてやる事しか、俺にはできそうにないな……娘を持った父親ってのは、こういう心境なのかもしれない。
そういえば、身近に二人の娘を持ってる父親がいたか……。
いや、エッケンハルトさんは、なんとなく参考にならないな。
あの人、クレアさんに責められると弱いからなぁ。
将来自分があぁなる可能性を、頭を振って否定し、リーザをできる限り甘やかす事に決めた。
一緒に寝ないと寂しがる娘なんて、甘やかす以外に俺にはできそうにない。
……レオ……じっとりした目でみるんじゃない。
仕方ないじゃないか……。
「おはようございます」
「ワフ!」
「おはよーございます!」
「おはようございます、タクミ様、レオ様、リーザ様」
リーザに甘いだの、レオが俺を変な目で見ているだのといった事を全て無視して、朝の支度を終えて食堂へ。
朝の支度といっても、既に時間は昼に近く、今日は皆で朝食を取る事はできなかった。
食堂に入ると、俺達用の料理を用意してくれてるゲルダさんと数人のメイドさん達。
その人達に挨拶をしつつ、遅い朝食のような、早い昼食のような食事を済ませる。
今日も、美味しい料理をありがとうございます、ヘレーナさん。
その後は、渋るレオを風呂に入れて綺麗にした後、裏庭で『雑草栽培』を使って、不足気味になった薬草の補充や、簡易薬草畑の様子を見たり、研究のために追加で薬草を作ったり、ラクトスへ卸す薬草を作る。
ちなみに、リーザはレオを風呂に入れている間、ライラさんとゲルダさんに頼んだ。
ライラさん、遅くまで起きてたのに疲れを見せないなぁ……リーザやレオの世話をするのが楽しくて、疲れないって言ってたが。
風呂から上がったレオは、リーザも協力してライラさんにタオルでしっかり拭かれてた。
それとクレアさん達は、昨日の事もあってスラムへの対応があるため、忙しいらしく、昼食もそれぞれの部屋で取っているようだ。
昼食や勉強を終えた、ティルラちゃんやシェリーと合流し、そこからはレオによるシェリーダイエット特訓の開始。
まぁ、俺やティルラちゃんは、剣の鍛錬だけどな。
ディームと戦った事で、自分の未熟さを実感して、いつもよりさらに鍛錬に打ち込む。
その間も、昨日と同じようにレオはシェリーやリーザと一緒に裏庭を延々と走ってた。
ずっと走ってて疲れないリーザも気になったが……シェリーのダイエットって、ただ走るだけでいいのかな?
フェンリルとして戦う方法を教えるとか、しないのだろうか。
まぁ、その辺りの事は、俺が考えるよりレオに任せた方がいいのかもしれないな。
単純なダイエットなら、ある程度考えられるが……フェンリルや魔物に関する事だからな……効果的なダイエット法や戦闘法なんて、俺が考え付くわけもない。
剣の腕も、まだまだ未熟だしな。
「タクミさん、今日は一段と厳しく剣の鍛錬をしてましたね?」
「そうかな? ……そうかもしれないね」
剣の鍛錬をしている途中、小休止をして水を飲んだり、汗を拭いている時に、ふとティルラちゃんから言われた。
ティルラちゃんは俺とレオが昨日、スラムへ乗り込んだ事を知らないようで、鍛錬に打ち込む理由がわからず、不思議そうだ。
「まぁ、ちょっと色々あってね。少しでも強くなろうと思ったんだ」
「そうなんですね。それは良い事だと思います!」
ティルラちゃんは、理由が思い当たらなくても、強くなる事は良い事だと楽しそうに頷いてくれた。
俺が鍛錬に打ち込む理由は簡単だ。
リーザの事とも言えるが、単純に昨日ディームと戦った時、少し危ない場面があったからだ。
元々、ディームを倒しに行ったわけではないし、最終的に捕まえられたので問題はないんだが、それでも刀を抜いて意表を突かなくてはいけなかった事。
もしあのまま押し切られてたら、怪我をしてただろう事を考えると、もう少ししっかりと剣を扱えるようになりたいと思った。
結局、最後はレオが取り押さえてたしな……。
油断してディームから先に攻撃させたとか、色々考える事はあるが、第一に自分が強くなれれば、リーザをもっと守ってやれるのではないかと思った。
とはいっても、いつもより鍛錬に打ち込むくらいで、力を追い求める……という事まではしないように気を付けよう。
……それだけを追い求めたら、ろくな結果にならないと言うのは、よくある話だしな。
それに、エッケンハルトさんという達人が近くにいて、悔しいという気持ちが沸いてこない俺は、誰よりも強くなる! なんて考えはあわないだろうしな。
「タクミ様、ティルラお嬢様。やってますね?」
「ん? フィリップさん?」
「フィリップさん、どうしたのですか?」
小休止も終わり、またティルラちゃんと二人で剣の鍛錬をしている所に、声をかけられた。
声の主は、護衛兵士であるフィリップさんだ。
護衛が必要な時以外は、屋敷の警備をしているはずで、裏庭にはあまり来る事がなかったのに……珍しい。
それとは別に、やっぱりまだレオに追いかけられるように走り通しの、シェリーとリーザは大丈夫なのかと少し心配。
リーザはまだまだ笑顔で走ってて、無尽蔵の体力かと思えるほどだが、そろそろシェリーの方がばてて来てるようにも見える。
ダイエットが必要だからといって、やり過ぎはあまりよくない気がするが……まぁ、なんとかなるか。
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