ディームに家族ごっこと言われてしまいました
「手を縛って……このままだと、後ろ手には縛れそうにないけど……まぁいいか」
ディームの両手を、俺が斬った腹の前に持って来て縛る。
その時に斬った部分をよく見たが、やはり深くは斬れてないようだった。
血は出てるが、手当てをせずに放っておいても、死んだりしない程度だろうな。
その辺りは、衛兵さん達に引き渡してから手当されるだろう。
色々聞き出さないといけないから、そのままにしたりはしないだろうし。
両手両足をそれぞれ縛り、まともに身動きが取れなくなったディーム。
ここに至って、ようやく観念したのか、動きがおとなしくなる……まだ顔を押さえつけられてるせいで、息苦しいのかもしれないが……ふむ。
「念のため、だな」
こういう時、油断して縄を抜けられ、逃げ出したり襲い掛かって来たり……という事を何かで見た覚えがある。
裏社会に生きる男だから、縄抜けくらいもしかしたらできるかもしれないと予想。
俺はできないし、どうやるかはわからないが、油断をするべきじゃない。
「縄に余裕はあるか?」
「あっちにもっとあるよ。荷物とかを運ぶのに使ったらしいんだ」
「持って来てくれるか?」
「うん」
ここに至って、少年達は素直に俺の言う事を聞いてくれるようになってる。
ディームがどうしてもレオに押さえつけられたまま、抜け出せないのを見て、逆らったらいけないと考えているのかもしれないが。
ともかく、荒縄をもっと持ってきてらうように言って、追加を渡される。
荷物を縛るのには、確かに多く使いそうだから、あってもおかしくはないか……何故スラムにあるのかは知らないけどな。
集荷場のようになっていた、街に入ってすぐの馬や馬車を預ける広場では、荷車や荷馬車でよく見かけた。
少年達が持って来てくれた荒縄を使って、ディームをさらに縛る。
二重三重にして、足首だけでなくふくらはぎや膝、太ももまでもきつめに縛った。
両手も、二の腕まで縛ったうえ、少年達に手伝ってもらって、体に幾重も巻きつける。
縄でぐるぐる巻きにされたディームの完成だ。
ミノムシと言う程ではないが、さすがにこれで身動きが取れないだろう。
「よし、そろそろ足をどけていいぞ?」
「ワフワフ」
「くっ! はぁ、はぁ!」
レオに言って、押さえつけていた顔の足もどけてもらう。
ようやく自由に呼吸ができるようになったディームが、酸素を取り込もうと大きく呼吸をした。
……そんなに、息苦しかったのだろうか?
レオの足とか、肉球がプニプニしてそうなんだがなぁ……まぁ、大きいから仕方ないか。
「さて、後はこいつらを衛兵に付き出すだけだが……どうやって運ぼうか……」
「ワフ?」
ディーム一人ならなんとかなるだろうが、男達は全員で五人。
少年達に協力してもらっても、一度に運ぶのは無理そうだ。
時間がかかるが、何度かに分けて運ぼうかと考えていると、レオが「乗せる?」とばかりに背中を向けた。
それも悪くないが……なんとなく、この男達をレオに乗せるのは躊躇われる。
レオに乗ってもいいのは、俺もそうだが、悪い人じゃないと……というのは、俺の勝手な思いだ。
それでもなんとなく嫌な気持ちだな……。
「はぁ……はぁ……てめぇ、一体何者なんだ!? こんな事をして、ただで済むと思うなよ? 俺はこの街以外にも、他のスラムもまとめてるんだ。命を狙われる事になるぞ?」
「あぁ、それはわかってるから、何も言わなくていい」
「なんだと……!?」
ようやくまともに呼吸ができるようになったディームは、喋られるようになった途端、俺に向かって叫んだ。
脅すような事を言ってるが、ディームがラクトス周辺のスラム……裏社会ではある程度大物なのは知ってる。
本人を見ると、割と小物臭が漂ってるし、捕まらないように居場所を変え続けるのは割とその通りのような気もするが……エッケンハルトさんも小物って言ってたような気がするし。
それはともかく、ディームさえいなくなれば、エッケンハルトさん達もスラムに対してやりやすくなるだろう。
トップがいなくなったせいで、色々と混乱するだろうしな。
今まで大々的にディームを捕まえるよう動けなかったのは、治安が悪化する事や、他のスラムで衝突がある事を考えてだったんだろうし。
混乱してる間に調べて、一網打尽とは言わないが、少しずつ悪人を減らしていけるだろう。
その辺りの隙を、セバスチャンさんが見逃すとは思えないしな。
「てめぇ……獣人の子供がどうとか言ってたな。あいつのなんだってんだ!」
「パパだ!」
「ワウ!」
獣人の……リーザのなんだと言われたら、パパと答えるしかあるまい。
また少し調子に乗ってる気はするが、俺の名前やレオの名前を言っていないから、これくらいはいいだろう。
隣で、レオも一緒に鳴いた。
さながら、「ママよ!」とでも言ってるのだろう。
「なんだと……? しかしあいつはスラムに捨てられてた。レインドルフなんていう保護した爺が死んだが……身よりはないはずだ! それに、そっちはともかく、お前は人間だろ!」
俺とレオに言われて、目を白黒させながら叫ぶディーム。
確かに、リーザとは血が繋がってないし、人間と獣人という種族の違いもある。
それでも、確かにリーザが俺やレオを慕ってパパ、ママと呼んでくれるのは間違いないんだ。
「確かに俺は人間だ。それがどうしたってんだ? 人間だから獣人のパパにはなれない。人間だから獣人を迫害しなきゃいけない、なんて事にはならないだろう?」
「……ちっ……そんな家族ごっこをしたところで……獣人なんて人間以下の存在なんだぞ。それを、優越感にでも浸りたいのか? 保護した事で、自分は偉い人間なんだって……」
「家族ごっこ? 優越感?」
俺がはっきりと、リーザとの違いを自覚しながらも正しいと思える事をディームに向かって言う。
顔をしかめて舌打ちしたディームは、俺がやっている事を家族ごっこや、優越感に浸るためにしていると考えたらしい。
自分より弱い子供を保護する事で、自分は優れた人間だと優越感に浸るような人物は、確かにいるかもしれないが……俺はそうじゃないと思いたい。
それに、確かに血が繋がっていないどころか、種族も違う、そのうえママはレオだ。
家族ごっこと言われても仕方ないのかもしれないが……。
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