最後の決め手はレオでした
簡単に真っ二つというわけでもなく、振り切った刀は、ディームの腹を少しだけ斬る事ができた。
痛みか衝撃か、俺を押し込もうとしていたディームが、数歩後ろに下がった。
その瞬間。
「ワフ」
「ぐふ……」
俺の後ろからレオが動き、力の抜ける鳴き声をしながら、両前足をディームの頭へ。
大きなレオが圧し掛かったために、重さに耐えられなかったディームはそのまま、地面へ押しつぶされた。
……意識を失ってたりはしてなさそうだが、動く事はできないみたいだな。
押し潰される時、持っていた剣を放していた。
「……レオ……助かった」
「ワフワフ」
ディームは、正面からレオに押しつぶされ、背中を地面に付けている。
大きなレオの両足で、顔や肩、胸あたりまで踏みつけているため、足をバタバタさせてても、手を動かす事はできないみたいだ。
腹が見えるため、俺が刀を使って斬った部分がよく見えるが……血が出てはいても、あまり深くは切れてなかったようだ。
薄皮一枚というわけでもないが、致命傷でもなく、相手の動きを痛み以外で止める程でもない……というくらいか……まぁ、利き腕ではない左手で振ったという事もあるんだろう。
多分、レオが動かなかったら、また攻撃されてただろうな……両手は痺れてるし、次は危なかったかもしれない。
まぁ、深く斬ってはらわたが……とかだったり、正当防衛であっても、人を殺してしまったりする事がなくて良かったとも思う。
さすがに、以前の倫理観を大事にしてるわけじゃないが、殺さなくて済むなら、それに越した事はないしな。
ディームは捕まえて、エッケンハルトさんやセバスチャンさんが、色々聞き出さなきゃいけない相手だし。
やっぱり、刀を持って来て正解だったな……。
左手で抜けたのは、いつも剣を下げている腰の左側ではなく、右側に下げていたからだ。
通常、剣や刀は利き腕の逆側に下げるのが当然だ……抜きやすくするためだな。
俺は二刀流というわけでもないが、念のために持って来ただけなので、いつも使ってる剣は抜きやすいように左側で、刀は剣を抜く時の邪魔にならないよう右側に下げていた。
おかげで、左手で刀を抜けたわけだが、あの時右手を放してたら思うように力が入らず、刀を抜く時間を稼げなかっただろうと思う。
今回の事を想定してたなんて事は一切ない……何が役に立つかわからないなぁ。
「レオ、もう少しそのまま、押さえつけておいてくれ」
「ワフ!」
「ぐ……ぐ……」
レオに押さえつけられたディームを見ながら、そのまま維持する事を頼んで、抜いていた剣と刀を収める。
足の下で、苦しそうな声を出してるが、全身の重さで足を乗せてるわけでもなさそうなので、圧死する事はないだろう。
多少どころか、かなり息苦しいとは思うがな。
「ふぅ……もっと鍛錬しないとな……」
ディームが動けない事を見届けて、一息つく。
短時間で終わった戦闘だったが、振ってる雨が、上がった体温に心地良い。
「さて……えっと、名前はわからないけど、協力してくれるか?」
「え?」
少しだけ体を落ち着かせて、少年達の方へ体を向けて問いかける。
俺の言葉に、少年達はまだ混乱してるようで、何を言ってるのかわからないといった様子だ。
いきなりレオが襲撃してきて、目の前で戦闘が行われたりと、自分達が助かったのかすらわかってないのかもしれない。
まぁ、仕方ないか。
「えっと、怪我はないだろ? 蹴られてたけど、動けない程じゃないと思う。まぁ、無理はしなくていいけどな。とにかく、こいつらを捕まえるのに協力してくれ。さすがに、俺一人じゃ手に余るからな」
「え……でも……」
レオが昏倒させた男は、ディームを除いて四人。
ディームはあのままレオに任せてればいいが、他の男達がいつ目を覚ますかわからない。
念のため、今のうちに動けないように捕まえておく必要がある。
起きても、レオが暴れればすぐに動けなくなるだろうが……何度も暴れるのもな。
男達を捕まえるのに、俺一人だと時間がかかるため、少年達に協力を頼む。
少年達は、少しずつ落ち着いて、何を言われているのか理解して来ているようだが、男達を捕まえるのを躊躇しているようだ。
まぁ、今までディーム側だったから、急に捕まえると言っても動けないか。
「ワフ」
「「「「っ!」」」」
「お?」
ディームを押さえつけたままのレオが軽く鳴くと、少年達の背筋が伸び、てきぱきと動き始めた。
もしかして、レオを怖がってるのかな?
助けてくれた相手なのに……と思わなくもないが、背後からディーム達に襲い掛かり、軽々と弾き飛ばしてるのを見てるから、怖がるのも無理はない、か。
この際だから、少年達が協力してくれるのに有効だと思っておこう。
「これ……」
「お、ありがとうな」
少年の一人が、どこからか持ってきたのは、少しくたびれた感のある荒縄だ。
男達を縛るためには丁度いい。
持って来てくれた少年に感謝をしつつ、それを受け取って、他の少年達と協力して、未だ意識を失っている状態の男達を縛って行く。
昏倒してぐったりしてるから、移動させたりするのは少し苦労したが、俺一人じゃなかったのでなんとかなった。
ディームを除いて、四人の男達を拘束し、先程まで少年達が集められてた場所に転がす。
雨にうたれたままだが、ディームの協力者だし、特に問題ないだろう。
多分、悪くても風邪をひくくらいだ。
……もし、捕まえられた後で風邪をひいたら、薬草を高値で売る……という考えが一瞬浮かんだが、あくどい商売はアンネさんの父親のようになってしまう可能性があるので、すぐに否定した。
そもそも、捕まってたら自由に使えるお金なんかないか……。
「……俺達は、どうなる……んですか?」
「別に無理して丁寧に喋る必要はないぞ? 俺は特に偉い人間じゃないからな。……ふむ、君達か……」
男達四人を縛って転がし終わると、少年達が俺の前に畏まった様子で並んだ。
そのうちの一人……やっぱりリーザをイジメてた少年の一人が、恐る恐る窺いを立てるといった感じで俺に聞いて来た。
いや、窺ってるのはレオの方か。
少年達をどうするか……どうしよう、何も考えてない……。
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