男達が開けた場所に集まっていました
気配の感じる場所へ、レオも通れる建物の隙間を通って、抜ける直前で立ち止まる。
その先は、元々建物があったが取り除かれたのか、二、三軒分の広さでぽっかりと広場のようになっていた。
リーザを発見したところよりも、少し広いが、雨ざらしにされている木の柱がいくつか見えるのは、撤去されてそれ程時間が経っていないからだろうか……。
その広場の奥、ラクトスの外壁を向いて、数人の男達が集まっていた。
軽く頭の中で、地図を思い出しながら考えると、ラクトスの中央から真北の場所。
街の端だった。
こんな場所で何をしているんだ……?
こちらから見える人物は、全て壁に向かって立っているし……ここで休もうなんて考えているようには見えない。
「レオ、俺の後ろに……」
「ワフ……」
小声で、感覚強化されているレオにだけ聞こえるように言って、少し下がってもらう。
俺は、建物の間に身を潜め、できるだけ向こうから見つからないようにする。
雨も降ってるし、深夜で視界も悪い。
多分、向こうからは俺達の事は見えないだろう……レオとか、暗闇と同化するように黒く見えるしな。
「お前ら、わかってるんだろうな?」
俺とレオの視線の先、集まった男立ちのうち、真ん中にいた男が声を上げる。
それは、壁に向かって言っているようで、少し奇妙だ。
誰かと話すにしても、壁に向かって話すなんてそうないだろう……。
「ん……あれは、確か……」
目を凝らして見てみると、立っている男達の隙間から、壁の方に数人の人間がいるのが見えた。
その数人は、壁ではなくこちらを向いており、背中を壁に付けて男達との間に挟まれているようだ。
あの人達を囲んでる……のか?
そう思い、さらによく見てみると、囲まれている数人はなんとなく見覚えがある。
いや、数人というか、そのうち二人だな。
さすがに感覚強化があっても、はっきりとは見えないが……以前リーザをイジメていた少年達と背格好が似ている気がする。
まぁ、違うかもしれないが……ついさっき見たマルク君とも近い身長だから、もしかするかもしれない。
だけど、なんでその子達が囲まれているんだ……?
何か他にも得られる情報はないかと、周囲に視線を巡らせながら、耳を澄ませる。
「てめぇらがしっかりしねぇから、あいつが逃げちまったじゃねぇか! あ? しかも、マルクまで捕まりやがって……余計な事を……おとなしくスラムの中にいればいいのによぉ!」
「……ごめんなさい」
どうやら、少年達を囲んでいるのは五人。
男達はそれぞれ、ナイフのような物を持って、脅しているようだ。
少年達の方は、囲んでる男達に隠れてはっきりと確認できないが、気配から恐らく四人……かな。
マルク君の事を知ってるって事は、何か関係があるかもしれない。
「あぁ!? ごめんで済む問題じゃねぇんだよ! マルクが捕まった。てぇ事は、もしかしたら俺の事が漏れた可能性もあるからなぁ!」
「……マルクは、裏切ったりしない……しません」
「わっかんねぇだろうが!? あいつが喧嘩を売った相手の事知ってんのか、あぁ!?」
「……わかりません」
「公爵家だぞ、公爵家……たく、よりにもよって公爵家に保護されやがって、あの獣人が……そんな相手に喧嘩を売ったんだ、ただじゃすまないだろうがよぉ! 処刑されるとでも言われれば、口を割るよなぁ、あぁ!?」
「……こ、公爵家……」
「今更震えたって、遅ぇんだよっ!」
「ぐっ!」
「ワフ!?」
「待て、レオ!」
男達のうち、リーダー格と見られる男が、少年を責めるように叫び続ける。
それを聞いていると、どうやらあの男達はディーム本人か、それとも関係者である事は間違いないだろう。
獣人……リーザの事を知ってるようだし、公爵家の事も知ってるようだしな。
責められている少年達の方は、公爵家がどうというのは知らなかったらしいが、リーダー格の男に言われて初めて知ったようで、離れて見ていてもわかるくらい体を震わせた。
それを見た男が、少年達のうち声を出した一人を足で思いっきり蹴った。
お腹に蹴りを受け、くぐもった声を出す少年に、レオが反応して飛び出そうとしたが、すかさず声を出して止めた。
レオも俺も、できる限り声は小さくしており、感覚強化のおかげで聞き取れるくらいだ。
雨が降ってて良かった……じゃなかったら、向こうにも聞こえてたかもしれない。
「……クゥーン」
「かわいそうだが、もう少しだけ待ってくれ……どういう事になってるのか知りたい。……さすがに、持っているナイフを使おうとしたら、飛び出すけどな」
「……ワフ」
レオがどうして助けないのか、俺に問いかけるように鳴くが、俺自身歯を食いしばって我慢するように言う。
正直、少年達はリーザをイジメていた子達なのは間違ないし、思う所がないわけじゃない。
けど、それでもあぁして柄の悪い男達に囲まれ、責め立てられているのはかわいそうだ。
レオもそれは同じようだし、特に子供好きなレオからすれば、我慢できないんだろう。
飛び出すのであれば、もう少し状況を見極めてからにしたい。
ほぼほぼあのリーダー格の男がディームだと確信してるが、証拠がない。
もし違って、別の場所にディームがいる場合……色々と不味い事になるかもしれないしな。
仕方なく頷いて、おとなしくなってくれたレオから視線を外し、また集まっている男達の方へ意識を向ける。
少年達を囲んでるのは、それぞれガタイのいい男達だ。
その中で、真ん中にいて少年達を責めているリーダー格の男が一番がっしりしていた。
雨に降られているのも気にかけず、スキンヘッドにしている頭や、上半身裸の背中には、何かが書かれていそうな雰囲気だ。
いや、本当に書かれているのかもな……はっきりとは見えないが、黒い線が体にあるのが見えるし。
「これで、俺の居場所がバレたら、どうしてくれるんだ……あぁ!? ぶっ殺すぞ!」
「そ、そんな……俺達はただ、ディームさんに言われた事をやっただけで……」
「あぁ、言ったさ。けどな、人通りの多い所で石を投げろとまでは言ってねぇよ! なぁ!?」
「へい。ディームさんは、ただあの獣人の子供をいたぶれと言っただけです!」
「逃がさないよう、どこまでも追いかけていたぶれと言っていました。が、あまり人には見られるな……とも……」
「そうだ! それがなんだ!? 獣人を逃しただけでなく、公爵家に向けて喧嘩を売っただと!? 馬鹿野郎どもが! せっかく、レインドルフとか言う忌々しい爺がいなくなってやりやすくなったってのによぉ! これじゃ、公爵家が乗り出して来て、またやりづらくなるじゃねぇか!!」
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