ディームは中々尻尾を掴ませてくれませんでした
「ここは、寝泊まりするような場所じゃなく、監視するための場所なのか?」
歩いて来た廊下や、窓の周辺以外は埃が厚く降り積もり、誰かが触ったような形跡はない。
窓からは雨が入り込んでいるが、それだけだ。
人が寝たりするのに相応しいとは思えない。
「何か、手掛かりとかはないか……?」
ディームの持ち物でもあれば……と思い周囲を捜索しては見たが、あるのは埃の積もった物ばかり。
さすがに、それらのどれかがディームの持ち物だったとしても、厚い埃が乗っている時点で、匂いが残ってるとは思えない。
ずっと身に付けていた服とかならまだしも、食器類とかくらいしか見当たらないしな。
「何もなし……か。仕方ない、出よう」
ここには手掛かりが何もないと結論付けて、外へ出る。
ディームは用心深いようだから、すぐに何か見つかるとは思ってなかったが……もう少し何かあっても良いんじゃないかなぁ……?
「ワフ、ワフ」
「お待たせ、レオ。何もなかったよ……」
「ワフワフ」
「そうだな、気落ちしてても仕方ない。次に行こう」
建物を出て、レオが鳴きながら近づいて来るのに対し、何も見つからなかったと報告。
期待はしていなかったが、レオからは気落ちしているように見えたんだろう。
鼻を寄せて俺を元気づけるように鳴くレオに、気を取り直して次の場所を目指す。
もう一度、濡れない場所で地図を広げて確認。
今いる場所から近い場所に行く事を決め、道順を確認して移動を開始。
感覚強化の薬草があるおかげで、篝火なんかの照明がなくても、地図がよく見えるな。
「さて、次はこの建物か……」
「ワフ」
二つ目の建物は、先程の場所から10分程度歩いた場所にあった。
外観は他の建物と同じで、人が管理しているようには見えず、誰も住んでいないようだ。
レオにも確認したが、やはり中から人の気配は感じられない。
ここも外れ……かな?
ともあれ、一応念のために確認をしようと、先程と同じようにレオには隠れてもらい、中へ入る。
入り口の扉はやはり鍵はかかっておらず、すんなり開く。
開ける時は左手、右手は外套の下でいつでも剣を抜けるようにしている。
さすがに、最初から剣を抜いていたりはしないが。
こんな街中の建物に罠があるとかはあまり考えられないが、スラムであり、ディームは警戒心が強いと聞いているから、一応だ。
まぁ、本当に何か罠が仕掛けられてたら、なんの知識もない俺が対処できるかは微妙だが……。
建物の中は、特に気になる物はない。
一つ目の場所よりも、厚く埃が積もっているように見える。
少なくとも、月単位で使われていないように思える。
こういった捜査というか、調査の知識はほとんどないが、少なくとも数センチ埃が積もって薄くなってる場所もないのだから、使われていないと考えるのが当然かな。
ここでは、全ての窓が完全に板を打ち付けられていて、外を見られるような場所はなかった。
以前はもしかしたら、ディームがいた事もあったのかもしれないが、今は完全に打ち捨てられているようだ。
「ワフワフ」
「お待たせ、レオ。やっぱりここも何もなかったよ」
建物の中を調べ終わり、レオと合流して報告。
すぐに結果が出るとは思っていなかったが、それでも二か所連続で何も成果が出ないのは堪える。
こういうことは、地道な調査で空振りが多い事を気にしてはいけないんだろうが、俺はそれに慣れてるわけじゃないからな。
ともかく、気を取り直してセバスチャンさんに教えられた最後の場所へ向かおう。
……今度こそ、何かわかる物があればいいんだが……というより、本人がいてもいいんだけどな。
最後に到着した場所は、先程までの場所からは結構離れている所だ。
地図で確認してみると、ラクトスの北東の端に位置するようだ。
しばらく歩いてその場所に辿り着く。
移動は少し速足だった。
焦っているとは思いたくないが、初めての事で、しかも成果が出ていないので無意識のうちに移動を速めていたようだ。
恐らくだが、ここに至って多少なりとも住人に見られているせいもあるかもしれない。
スラムだけあって、雨が降っているにも関わらず、ちらほらとだが人を見かける。
昼間に賑わっている大通りとは逆だな。
すれ違う人間は、雨に濡れる事も気にせず移動していたり、見覚えのない俺やレオを見て怪訝そうな顔をしていたが、それを気にする余裕はない。
できるだけ見られたくなかったが、街中だし、隠密行動の仕方を習っているわけでもないから仕方ない。
そもあれ、軽く深呼吸して、目の前の建物を見上げる。
「……ここも、か……」
「ワフゥ……」
その建物は、他の建物と変わった様子は見られない。
感覚の強化された状態で、耳を澄ましたりして中の様子を窺うが、誰かがいるような音や気配もない。
レオも同じ意見のようで、溜め息を吐くように小さく鳴いた後項垂れた。
「まぁでも、中を調べない事にはな……。レオ、悪いけど……」
「ワフ」
レオの声をかけ、さっきまでと同じように何とか建物の隙間に入って隠れてもらう。
細い路地ばかりで、レオが入れそうにない隙間ばかりだったが、まれにすっぽり収まるくらいの場所があって良かった。
歩いてそこを通るには細すぎるが、身を潜めるくらいはなんとかできている。
レオが隠れたのを見届け、改めて最後の建物に入る。
……今度こそ、何か手がかりがあってくれれば……。
「……他の場所よりも、埃が少ない?」
建物の中は、家具もほとんどなく、先程までと同じように生活感は感じられない。
だが、これまでと違うのは、ほとんど埃が積もっていなかった事だ。
とは言え、さすがに隅の方には埃が溜まってるが……丁寧に掃除をしたりしないからだろう。
わざわざ定期的に居場所を変えるのに、行った先々で掃除をするとは思えないしな。
先程までとの違いに、少しの期待感を持って建物の中を調べる。
ほとんど埃が積もっていないが、やはり足を引きずるようにして歩く。
埃はなくとも、全身ずぶ濡れだからな……濡れた足跡が付いてしまうからだ。
色々と考えて用心しているが、素人考えなので的外れだったりするかもしれない
まぁ、それを今気にするのは止めておこう。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。