我慢するリーザを慰めました
「怒ってもダメで、泣いても、謝ってもダメだった。痛い事をして来る人達は、それも面白がってるようだったから……だから、せめて泣かないように、お爺ちゃんに私は大丈夫だよって、教えたかったから……ずっと、泣くのだけは我慢してたんだよ……」
「リーザ……」
「リーザちゃん……」
「リーザ様……」
「ワフ……」
リーザを拾ったお爺さんがいたから、最初のうちは特に酷い事はされていなかった。
けど、そのお爺さんが亡くなったから、庇う人は誰もいなくなり、獣人という事で目立ってしまうリーザはイジメられ始めた。
お爺さんがいつ亡くなったのかわからないが、リーザにとってその地獄とも言える時間は、凄く長い時間だったんだろう。
目に涙を溜めながら、泣き出さないように歯を噛みしめて、顔を上げたリーザは無理矢理笑った。
それを近くで見ている俺だけでなく、クレアさんやライラさん、レオもリーザを呼ぶだけで何も言葉が浮かばない。
どれだけの事をされて来たのか……リーザを助けた時の状況で大体想像ができる……もしかしたら、もっと酷い事をされてた事もあるのかもしれないが。
ともあれ、最初にあった時に傷だらけで、衣服も泥だらけだったリーザ。
この子に俺は、どれだけの事をしてあげられるんだろうか……?
「……リーザちゃん!」
「きゃっ! ……クレアお姉ちゃん?」
感極まったのか、リーザの過去を想像して、動けない俺やライラさんの代わりに、クレアさんが突然リーザへ抱き着いた。
いや、抱き着いたと言うより、抱き締めた……だな。
いきなりの事に、リーザは驚いた様子だが、決して嫌がってはいない。
「リーザちゃん、頑張ったわね。これからは、もう誰も、リーザちゃんを傷付けさせないわ! お爺さんにも、頑張ったって……リーザちゃんは本当に頑張ったんだって、胸を張っていいのよ!」
「……クレア……お姉ちゃん。私、頑張ったのかな? お爺ちゃんにも褒めてもらえるかな?」
「もちろんよ! もしリーザちゃんが頑張ってないと言う人がいたら、私が代わりに怒ってあげるわ! リーザちゃんが我慢する事はないの。これからは、笑って過ごしましょう?」
「ふぇ……そう……なんだ。リーザ、頑張ったんだぁ。痛かったけど、ほんとに、ほんとに頑張れたんだ……ふぇぇぇぇぇ!」
「うんうん、今は泣いてもいいのよ。頑張った分、いっぱい泣いて、いっぱい笑いましょう?」
「ふぇぇぇ……うん、リーザ……笑っていたい。楽しい事いっぱいしたい……ふぇぇぇぇぇ!」
クレアさんが抱き締め、リーザの頭を撫でながらゆっくりと、言い聞かせるようにリーザが頑張ったんだと認める。
リーザの中で、今まで我慢していた何かが弾けたように、目からはとめどなく涙が溢れ、声を上げて泣き出した。
育ててくれたお爺さんのために、自分が我慢して泣かないようにする事で、心配されないようにしていたのかもしれないな。
七歳程度の女の子が、泣くのを我慢して、痛い事をされても我慢して……それはどれだけ辛い事なんだろう。
俺には想像する事しかできないが、子供がそこまでの我慢をしなきゃいけないというのは、間違っているという事だけは、はっきりとわかる。
リーザには、これからは楽しい事がいっぱいだと、笑顔で過ごしてくれるよう、考えて行かなきゃな。
我慢なんて、させたくない。
「うぐ……ひっく……」
「落ち着いた?」
「うん……ごめんなさい」
「いいのよ。泣きたい時には泣いて、笑いたい時には笑うの。リーザちゃんは、もう我慢したり、遠慮したりはしなくていいんだからね?」
「……うん、ありがとう。クレアお姉ちゃん」
しばらく、声を出して泣き続けたリーザ。
その間ずっと、涙で服が濡れるのも構わず、クレアさんが抱き締め続けていた。
俺やライラさんも、時折リーザを慰めるように頭を撫でたりもして、ようやく落ち着いたようだ。
レオだけは、まだ仰向けのままで、降参ポーズだが……。
リーザが片手でずっと、レオの毛を掴んでいたから、動けなかったんだろうな。
「パパも、ごめんなさい。せっかく新しい服を買ってくれたのに……汚しちゃった……」
「そんな事、気にしなくていいんだ。もしその服が着られなくなったら、新しい服を買ってやるからな! まぁ、これからリーザはどんどん成長するんだから、すぐに新しい服は必要だしね」
涙も止まり、ゆっくりとクレアさんから離れたリーザが、俺の方に向き直って謝る。
リーザの服には流れた血が付いていて、時間が経って乾いたのか、シミになっている部分がちらほらと見かけられた。
けど、それはリーザのせいじゃないし、服を汚したくらいで怒ったりはしない。
血の汚れは落としにくいだろうが、気になるようなら新しい服を買えばいいだけだ……幸い、薬草のおかげでお金はあるしな。
そんな事くらいで、リーザが遠慮したり謝ったりしなくてもいいんだ。
例えば、ティルラちゃんと遊んで泥だらけになったって、笑って抱き締め、俺も一緒に汚れてやりたい。
そして、洗ってくれてるライラさん達に、一緒に謝ろう。
「うん……パパもママも、クレアお姉ちゃんもライラお姉さんも、ありがとう」
「ふふ、タクミさんにいっぱい、可愛い服を買ってもらわないとね?」
「私も、一緒に可愛い服を選ばせて頂きますね」
「うん!」
俺の言いたい事の全部じゃないが、多少は伝わったようで、頷いてくれたリーザは、泣いていた顔を一転させ、笑顔で皆にお礼を言った。
クレアさんもライラさんも、そんなリーザに笑顔で応えた。
「ワフ、ワフワフ」
「きゃふっ! ママー!」
「ふふふ、レオ様も、リーザちゃんに大丈夫と伝えてるようですね」
「はい、そうですね」
ようやくリーザがレオの毛から手を離したことで、体をひっくり返し、仰向けから伏せの体勢になる。
そこから顔を寄せ、泣いていた跡を消して慰めるように、リーザの顔を舐め始めた。
クレアさんはそんな様子を見て、目を細めて笑う。
皆笑顔になり、和やかな雰囲気になったのはいいんだが……。
以前リーザが、夢を見て泣いていた時と同じように、レオが舐めているという事は……こうなるよなぁ……。
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