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犯人はスラムで見た人物のようでした



「そうですか……レオ様……いえ、シルバーフェンリルに、人間が敵わないと言われる所以を、垣間見た気がします」

「そうですね。ニコラさんやヨハンナさんのように、訓練をして鍛えている人ですら、動けなかったようですから」


 俺もそうだ……体を鍛えてるとはいえ、ニコラさんやヨハンナさん程じゃないが、ほとんど動く事ができなかった。

 なんとか、少しずつ動いてレオの顔へと移動できたが、一歩一歩が随分重く感じた。

 レオが体に力を溜めるのに、時間をかけてたから、何とか間に合ったが……即座に行動してたら、間に合わなかったな。

 こう考えると、本気でレオが怒ってた事が良かったとも言える。


 オークを倒した時のように、それなりの力とかで対処しようとしてたら、素早く動いてただろうしな。

 ……いや、本気で怒ったから重圧のようなものが発生したのか?

 結果オーライ……という事にしておこう。

 誰にも被害は出なかったんだしな、リーザ以外は。


「それでレオ、石を投げた犯人はわかるか? 投げられる前に気付いてたんだろ?」

「ワフ、ワフワフ」

「そうか……やっぱりな……」

「……」


 レオに石を投げた犯人を聞くと、頷きと共に答えが返って来る。

 それは、俺の予想通りの人物だったようだ。

 リーザにもレオが言った事がわかるから、犯人の事を聞いて、こちらを見上げてた顔を俯け、押し黙ってしまった。


「レオ様は、なんて言ったのですか?」

「えぇと……」


 クレアさんとライラさんに、誰が犯人だったのかを説明する。

 石を投げた人物は、以前スラムでリーザをイジメていた奴の一人だ。

 若い男の声とライラさんが言っていたし、リーザに魔物と叫んだ事、俺が人の輪の中で見かけた顔と一致する。

 スラムにいたあいつらのうち一人が、偶然なのかなんなのか、ハルトンさんの店近くに来ていて、リーザを見かけたから……という事なんだろうと思う。


 以前はレオを見て逃げたのに、今回は近くにいたレオに怯える事なく、リーザへ石を投げるのは、大した根性だと思うが、決して褒める気持ちは沸かない。

 俺も、もしかするとその場にいたら、レオと同じく怒ってたかもしれないな。

 今も犯人に対して怒りを覚えているが、ここで取り乱したりしたらレオやリーザに示しがつかないからな。

 なんとか怒りを鎮めて、冷静になるよう努めた。


「そうですか、スラムの人が……」

「レオもそう言ってますし、実際あの時見かけた人物を、移動する際に見ました。間違いないでしょう。それにしてもレオ、お前ならリーザを庇ったり、連れて逃げられたんじゃないか?」

「ワウゥ……ワフワフ、ワーフ。」


 何々? 人間の敵意は慣れてないからわかりづらかった?

 ……まぁ、日本で人の敵意を向けられる事のない生活をしてたんだから、慣れてなくて当然か。

 人懐っこいし、この世界に来ても、好意的な人が多かったからな……公爵家の力が大きいと思うが。

 魔物はまだしも、人に囲まれながら、その中で一人の人物が向ける敵意に気付いて反応しろ……というのは難しいか。


 しかも今回は、リーザに敵意が向いていたみたいだしな。

 さすがのレオも、自分に向けられた敵意じゃないから、感覚が鋭くても厳しいだろう。


「すまないなレオ、怒ってしまって。レオがリーザを守ろうとして、怒ったんだな。リーザも、レオを止めてくれてありがとう。偉かったぞ?」

「ワフゥ。ワフワフ」

「えへへ……」


 とりあえず、理由がわかった事でレオに怒った事を謝り、仰向けのお腹を片手で撫でながら、もう片方の手で、リーザを褒めるように撫でる。

 怒られない事にホッとした息を吐いたレオは、お腹を撫でられて気持ち良さそうに鳴いた。

 リーザも、褒められて照れたように笑い、空気が和らいだ。


「でもリーザちゃん、そんな事をやって来た相手の事を、怒っていないの? レオ様を止めようとしてくれたのは、助かったけど……」


 レオとリーザを撫で、空気が弛緩したところで、クレアさんからの質問。

 リーザに怒ればよかったとか、やり返せば……なんて物騒な事を考えてるわけではなく、単純に疑問、といった感じだな。

 俺はスラムでの事を直接見て、リーザにも聞いていたから納得できるが、それを知らないクレアさんには不思議に感じるのかもしれない。

 自分が悪いわけではないのに、酷い言葉を投げつけられ、さらには石まで投げられるなんて、怒りが沸いてもおかしくないからな……まったく!


 ……おっと、自分で考えてて俺の方の怒りが沸いてきてしまった。

 敏感なレオが、俺の気配に気付いたのか、プルプルと手足を震わせてる。

 レオに怒ってるわけじゃないからな?

 ともかく、深呼吸をして落ち着こう……。


「うん、私は怒ってないよ。だって、怒ると相手も怒って、キリがないから……」


 顔を俯かせ、スラムでの事を思い出してるのか、悲しそうな声で話すリーザ。

 酷い事をして来た相手が悪い……というのは当然なのだが、そういう相手に限ってこちらが怒って返すと、理不尽に怒ったりもする。

 怒りでさらに怒りを呼び、悪循環を招く……なんて、大袈裟な事になるかはその時次第だが、ほとんどの場合、良い方向にはならない事が多い気がする。


「私が獣人だからって、色々痛い事もされたけど……だからって、怒ったらもっと酷い事されたんだ。だから、じっと我慢しようって思って……我慢してたら、相手が疲れて止めてくれるんだ」

「……そう」


 俯き、涙を堪えるようにして話すリーザに、クレアさんはなんと言葉をかけていいのか、わからないみたいだ。

 ライラさんは絶句し、レオは仰向けになった顔を持ち上げ、リーザを心配するように鼻をスピスピ鳴らしてる。

 リーザにとって、じっと耐えて我慢する事が、早く終わるための一番の最善策だったんだろう。

 助けた時もそうだったし、リーザからも聞いているから、その時の様子が目に浮かぶようだ。


 それでも、あの時もう少し、リーザをイジメてた奴らを懲らしめてやっておけば……。

 いやいや、リーザが言ってるように、怒りで返したら向こうも怒るだけだな。

 レオがいて、俺自身も鍛えているとはいえ、過信は禁物だ。

 下手をすると逆恨みだとかで、リーザにまで危害が加わる可能性もある。

 今回のような事は、起きないに越した事はないはずだ……。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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夫婦で異世界召喚されたので魔王の味方をしたら小さな女の子でした~身体強化(極限)と全魔法反射でのんびり魔界を満喫~


― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……これは焼き払うしか……。 ……いや、ソウジャ無いな……。 噂を流すか! [公爵家の客人にスラムの住人が被害を与えた、  期日までに出頭しない場合、スラムの住人…
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