レオが怒っていた理由を聞きました
「ママは、私が怪我をしたから……だから怒ってたの!」
「……そういえば、なんでリーザは怪我をしてたんだ?」
レオの怒りを鎮める事と、リーザの怪我を治療しなければという事で頭がいっぱいだった。
それが終わると、集まって来た人から離れる事を考えたり、場合によっては人に怪我をさせる可能性があった事で、レオを怒らなければ……と考えて、原因を追究するのを忘れていた。
リーザに言われて冷静になるなんて……俺も結構、頭に血が上っていたのかもしれないな。
「ライラ、どういう事なの?」
「はい……あれは、リーザ様が買ってもらった服を、レオ様に見せていた時です……」
クレアさんは俺と一緒に店の中にいたから、理由を知らない。
俺の代わりに、ライラさんへ聞いてくれた。
ライラさんはリーザと一緒だったし、どういう事があったのか知っているだろうからな。
リーザの方を見ながら、ライラさんが説明を始めてくれる。
「上機嫌な様子で、買ってもらった服をレオ様に見せていました。レオ様の方も、喜んでいたように見えましたね」
店から出たリーザは、新しい服が嬉しくてレオの前で披露していたんだろう。
その様子を思い浮かべると、微笑ましくなる。
「私を始め、ニコラさんやヨハンナさん達もそれを朗らかに眺めていたのですが、急にレオ様が何かを発見したようで、リーザ様とは別の所へ顔を向けたのです」
「そうなのか、レオ?」
「ワフ」
ライラさんの説明の途中で、レオにも一応聞いておく。
まだ仰向けになって、リーザがお腹に抱き着いたまま、頷いたレオ。
もう降伏の恰好じゃなくて、気持ちいいからもっと撫でてと、せがんでるようにも見えるな。
「レオ様がそちらへ顔を向けてすぐ、若い男性の叫び声が聞こえ、それからすぐに石が投げられました」
「叫び声と石ですか……」
「はい。叫び声は、『魔物め!』と言っているようでした。石はリーザ様の方に向かっていて、突然の事に、私やヨハンナさん達は反応が遅れました。そして、幾つかのうちの一つが、リーザ様に当たり……申し訳ありません、怪我をさせてしまったのは、私達がしっかり見ていなかったせいです……」
レオが顔を向けた方から、叫びが聞こえ、そこから石が投げられたんだろう。
魔物と叫んでリーザへ石か……さっき、集まった人の輪を抜ける時に、見かけた顔はもしかして……。
俺が考えている間にも、ライラさんの説明は続き、最後には頭を下げて謝るライラさん。
「いえ、ライラさんが謝る必要はありませんよ。悪いのは、その石を投げた人物ですからね。突然の事なので、仕方ありません」
「それでも、私達は前以て動かなけばいけなかったと考えています。リーザ様だけでなく、タクミ様やクレアお嬢様を守るためにも……」
ライラさんはその時の事を悔いるように、唇を噛みしめ、顔を俯かせる。
まぁ、ライラさんはまだしも、ニコラさんとヨハンナさんという護衛がいたのだから、そういう突発的な事への警戒は必要なのだろうと思う。
ここは日本じゃないんだ、何かしらの理由で狙われたりという事も、あるかもしれないしな。
……日本でも、時折危ない事が突発的に起こる事もあるくらいだ。
「ライラ、顔を上げなさい。今は、過ぎた事を悔いている場合ではないわ。反省は、もちろんしないといけないけどね。その辺りの事は、屋敷に戻ったらするわ」
「はい、クレアお嬢様」
いつものクレアさんよりも、少しきつめの視線をライラさんに向け、顔を上げさせる。
突然の事なんだから、仕方ないと俺は思うが……貴族家やそれに仕える使用人としては、そういう事も必要なのかもしれない。
示しがつかないとか、そういう事かな?
もし罰が与えられるとかだったら、後でクレアさんにお願いして厳しくしないように言っておこう……余計なお世話かもしれないが。
「ともかく、その石を投げた人物というのは?」
「私にはわかりませんでした。声に聞き覚えはありませんでしたし、人に紛れていたので、顔も見れませんでした。それに、その後すぐにレオ様が……」
「あぁ、そこでレオが怒ったんですね」
「ワフ!?」
リーザが石を投げられて、それが当たってしまい、怪我をした。
目の前でそれを見たレオは、石を投げられた事、怪我をした事に怒り、犯人に向かって飛び出そうとしたんだろう。
俺がレオが怒った理由に納得して頷くと、また怒られると思ったのか、レオが鳴き声を上げて体をビクッとさせた。
いやいや、理由はわかったから、とりあえずは怒らないぞ?
「はい。あれはなんと言いますか……急に重苦しい圧が全身に掛かって、ほとんど動けなくなりました……」
ライラさんが、あの時の事を思い出しながらレオへと視線を向た。
それは俺達が、店から出てすぐ感じた圧力と一緒だろう。
あれはなんだったのか……上から押さえつけられてるような、レオから発せられる何かに押されているような……不思議な感覚だった。
恐怖をあまり感じなかったのは、相手がレオだったからだろうと思う。
レオに慣れてない人達は怯えてたから、俺が特殊なのかもしれないが。
ともかく、あれのおかげで周囲の人達はほとんど動く事ができなくなった。
そういえばあの時、レオの毛が仄かに光ってたような気がするな……日差しを反射して、と言うのもあったかもしれないが、今よりも綺麗に輝いていたような気がする。
「レオ、あれはなんだったんだ?」
「ワ、ワフ? ワフワフ……ワッフ」
「えーと……」
俺に聞かれて、まだ怒られると考えていたレオは、一瞬だけ驚き、説明するように鳴いた。
それによると、レオ自身もはっきりとわからず、怒りに任せて全身に力を入れていた……という事らしい。
もしかすると、シルバーフェンリルが全力を出す時に、なにかしらの現象が起こるのかもしれないな……。
魔力とかも、関係するのかもしれない。
まぁ、レオがはっきりと説明できず、わからないという事なら、解明するのは難しいだろう。
レオというか、シルバーフェンリルが怒ったり、全力を出そうとすると、似たような事が起こると考えておこう。
リーザと一緒に、レオが何を話したのか、ライラさんとクレアさんにも説明する。
二人はまだ、はっきりとレオの言っている事を、理解できてないからな。
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