リーザの欲しい物を買いました
「確かに、お爺さんの言う通り、お金を大事にするのはいい事だ。けど、これは無駄遣いなんかじゃないぞ? リーザの喜ぶ顔が見たいだけなんだ。それを無駄遣いだなんて、俺は全然思わない。どうだリーザ、俺を喜ばせると思って、遠慮するのをやめないか?」
「パパを喜ばせる……?」
「そうだ。リーザが欲しい物を買って、それで笑顔になってくれたら、俺は嬉しい。リーザは、俺を喜ばせるのは嫌か?」
「ううん、そんな事ない! 私もパパを喜ばせたい!」
「そうか。だったら遠慮はやめて、欲しい物を買えばいい」
ちょっと意地悪な言い方だったかもしれないが、リーザの喜ぶ顔が見られたら、俺自身が嬉しいと言うのは本心だ。
今まで虐げられてきたこの子が、せめてこれからは、楽しく過ごせるようにしたいからな。
リーザの方も、俺を喜ばせたいと言う表情は、本心から言っていると感じて、それだけで嬉しい。
……いかんいかん、これで満足してる場合じゃない。
リーザの買いたい物を買って、この子を喜ばせてあげないとな。
「……ほんとに、いいの?」
「あぁ」
「後で、やっぱりやめとけば良かったとか、思わない?」
「もちろん、思うわけがないよ。それとも、リーザは俺がそんな事を考えたりするように見えるのか?」
「ううん、見えない」
「だったら、大丈夫だ。ほら、リーザ。この鞄、どうだ?」
まだ気後れしている様子のリーザに、こちらを微笑ましく見ていたクレアさんから、持って来ていた商品の鞄を受け取り、リーザに見せる。
「うん……花がついてるのが可愛い」
「欲しいか?」
「……欲しい」
「よし、じゃあこれを買おう!」
「お買い上げ、ありがとうございます」
完全に遠慮がなくなったわけじゃないが、リーザも花の飾りを気に入り、欲しい事を認めてくれた。
頷いたリーザを見た瞬間、すぐに買うと決めて鞄をハインさんに渡す。
ハインさんも、俺とリーザを微笑ましく見てたようで、ニッコリといい笑顔だ……今更ながらに、リーザとのやり取りを見られてた事を思い出した……恥ずかしいな。
「リーザ、偉いぞ」
「にゃふ……うん!」
恥ずかしさを誤魔化しつつ、リーザを褒めるように頭と耳を撫でる。
少し荒っぽくなってしまったが、それでも嬉しそうに笑うリーザは、特別可愛く見えた。
喜びを表すように、尻尾が勢いよく振られており、そちらはクレアさんとライラさん、ハインさんまでもがジッと見ていた。
ヨハンナさんに至っては、手が怪しく蠢いている。
うん、撫でるのは屋敷に帰ってからの方がいいな。
「じゃあ、次はどんなのが欲しいんだ?」
「えっとね……」
遠慮しなくてもいいとわかったリーザは、ハインさんの案内で色々な商品を見て回り、いくつかの品物を買った。
クレアさん達、女性の意見を聞き入れた物もある。
予想通り、女性同士の意見を交わし合う事で、買い物の時間は長くなってしまったが、リーザが嬉しそうだから気にならない。
外で待っているレオやニコラさんには、申し訳ないが。
リーザ一人じゃ抱えきれない程の物を買い、お会計を済ませる。
早速とばかりに、鞄を肩にかけたリーザの鞄には、今し方買った物が詰まっている。
その中には、リーザがいの一番に欲しがった革の水筒も入ってる。
これは、いつレオが魔法で水を作っても、この中に入れられるようにだそうだ。
それだけリーザの中で、レオの作った水が大事な事になっているんだろう。
「それにしても、あれは良かったんでしょうか?」
「そうですね……扱いには気を付けないといけませんが……獣人だからでしょうか?」
鞄を下げて、嬉しさ大爆発とでも表現するしかない様子のリーザは、尻尾や耳をしきりに動かしてる。
それを微笑ましく見ながら、クレアさんと最後にリーザが欲しがった物の事を話す。
会計前、リーザが足を止めたのは、雑貨屋の一部に置いてある武器のコーナー。
その中から、分厚いナイフを見て、目を輝かせてた。
ナイフは、俺が以前買った髭剃り用の小さい物とは違い、十五センチ近くあるナイフだ。
しかも、刀と違い内側に湾曲している部分に刃がついており、少々禍々しい印象だ。
ハインさんに説明をしてもらうと、元々狩猟を目的として作られた物らしく、ククリと呼ばれる武器らしい。
鞘には、さらに小さいナイフを収納したりする事もあるらしいが、ここにあるのはそこまでの物じゃないらしい。
ククリって……ヨーロッパとは違う文化の武器じゃなかったっけ……? グルカナイフとかもその部類だったはずだ。
何故ここにそんな武器が置かれてるのかわからないが、ともかくリーザは水筒と同じくらいの勢いで、ククリを欲しがった。
さっきリーザに遠慮しするなと言った手前、駄目とも言えず買ってしまったんだが、良かったんだろうか?
「獣人というのに、何か理由が?」
「元々、獣人は狩猟を主にして、生活して来た種族だと伝えられています。リーザちゃんは獣人なので……本能のようなものなのでしょうか……」
獣人の血が騒ぐ……とか物騒な事ではないと思いたいが、獣人であるリーザにとって、狩猟用の武器は魅力的だったのかもしれない。
ともかく、むやみに取り出したりしないよう、扱い方には気を付ける必要がありそうだ。
危ない事をしないよう、後でしっかり言い聞かせよう……。
「まだ、少し時間がありますね」
お会計を済ませ、ハインさんにお礼を言って店を出た後、レオやニコラさんと合流する。
リーザは鞄をレオに自慢してる……よっぽど嬉しかったんだな。
持って来ていた懐中時計を見て、時間を確認したが、ハルトンさんの店に服を取りに行くには、まだ少し早い時間のようだ。
リーザを遊ばせるために、孤児院にでも顔を出そうかな?
「パパー! ママがお腹空いたって!」
「ワフワフ!」
「あぁ、そういえばお昼を食べてなかったもんな。おとなしく待ってたようだし、美味しい物を食べさせないとな」
孤児院に行って時間を……と考えていたら、レオと話していたリーザが叫ぶ。
どうやらレオは、お腹が空いたらしい。
主張するように、リーザの後に力強く鳴く……確かに、時間は昼を大分過ぎてるから、空腹になっても仕方ないか。
俺達が店に入った後、ちゃんとおとなしくしてたみたいだし、ご褒美もあげないといけないな。
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