リーザは遠慮しているようでした
採寸のお願いをして、準備を始めるハルトンさんへ、今日中に買って帰れる服ができるかを聞く。
子供の服とは言え、服を一から作るのは一日で終わるとは思えない。
今日着てる服は仕方ないが、できるなら明日以降のために、今日買って帰りたいからな。
ハルトンさんは少し考えた後、数時間でできると頷いてくれた。
俺がお願いして頭を下げると、しっかり頷いたハルトンさんが店の奥へと声をかけ、女性の店員が出て来た。
その人が採寸のための、メジャーのような物を持ち、リーザの体を計り始める。
さすがにレオがいないため、俺はリーザの採寸が終わるまで隣で待機だ……離れて不安がらせてもいけないからな。
その間に、クレアさんがハルトンさんにもう一人の女性店員を呼んで貰い、その人と何やら話している。
かすかに聞こえた内容は、下着が……とか言っていたから、リーザの下着の事を相談しているんだろう。
男の俺が相談しづらい事だから、ありがたい。
……また大きくなって……とか聞こえたけど、リーザの事だよね? クレアさん自身の事じゃないよね?
「それでは、料金の方は……」
「はい。これで……」
「確かに、頂きました」
クレアさんの話や、リーザの採寸が終わり、仕立てと服の改良をお願いして、支払いになる。
金額は、俺の服を買う時より高かったが、獣人用で特注となるのだから仕方がない。
取り出したお金をハルトンさんに渡し、支払いを済ませた。
「ママー!」
「ワフ」
「ライラさん、ヨハンナさん、レオを見てくれてありがとうございます」
「いえ、レオ様はおとなしくしてくれてましたので」
「色々と触らせてくれましたしね」
ハルトンさんには、また後で改良された服を受け取ると言って、店を出た。
外に出てすぐ、お座りしているレオに抱き着くリーザ。
知らない人に囲まれてたから、レオを見つけて解放感のようなものを感じてるのかもしれない。
俺もそちらに近付き、レオを撫でていたライラさんとヨハンナさんに、お礼を言う。
ライラさんは、もう慣れたものだが、あまりレオと接する機会のないヨハンナさんは、予想以上に嬉しそうだ。
いつもキリッとした釣り目のヨハンナさんが、目尻を下げてるな。
凛々しい雰囲気の人だが、可愛い物が好きなのかもしれない。
「では次は、雑貨屋ですね」
「はい。ハインさんの所ですね」
クレアさんに促され、皆で仕立て屋を離れて雑貨屋へ向かう。
……以前は、ここでニックを含めた、世紀末を彷彿とさせるガラの悪い連中に絡まれたんだったな。
まだ数カ月程度前の事ながら、少し懐かしさすら感じてしまう。
「いらっしゃいませ。お久しぶりでございます、クレア様。タクミ様も」
「久しぶりね、ハイン」
「お久しぶりです、ハインさん」
「……こんにちは」
相変わらず大きな建物を構えている雑貨屋に入り、ハインさんに挨拶をする。
俺の後ろに隠れながら、リーザも挨拶をした。
やっぱり、初めて会う人には、気後れするみたいだな。
大人が相手だし、促さなくてもちゃんと挨拶しているから、激しい人見知りという程ではないんだろうが。
今回店に入ったのは、俺とリーザ以外にクレアさんとライラさん、それとヨハンナさんだ。
ニコラさんは、レオと一緒に外でお留守番。
一緒に来た女性達が全員来たのは、女の子の物を見るのに、女性が多い方がいいと思ったからだ。
こういうのは、意見が多い方がいいからな……買い物が長くなるという危険性もあるが。
「本日は、どのような御用で?」
「今日は、この子の身の回りの物を買おうかと思ったの」
「ほぉ、獣人ですか。それでしたら……」
クレアさんが視線で示すと、珍しそうにリーザの耳や尻尾を眺めた後、ハインさんが商品を勧め始めた。
俺が初めて来た時と同じく、店の中を案内されて、リーザに必要そうな物を見て回る。
広い店内で、棚に色々な物が置かれているのが珍しいのか、あちこちをキョロキョロして見ながら、俺達について来るリーザ。
時折足を止めたりしてるから、気になった物があるのかと聞くと、首を振って否定する……遠慮してるのかな?
「タクミさん、これなんか、リーザちゃんに丁度良いのでは?」
「可愛い鞄ですね。リーザ、どうだ?」
「んー……大丈夫……」
「そうか……」
案内される中、クレアさんが一つの鞄に目を止め、リーザの前に持ってくる。
それは肩掛け鞄で、俺やクレアさんのような大人が持つには小さい鞄だが、リーザが持つには丁度いい大きさだった。
鞄の留め具に、花の飾りが付いてるのが可愛らしい。
しかしリーザは、その鞄を見ても、首を振って断った。
目線はしっかり、留め具の飾りを見ているから、気に入ったと思ったんだけどなぁ。
もしかしてだが……。
「リーザ、遠慮してないか? 気にせず、欲しい物を買えばいいんだぞ?」
以前来た時と違い、薬草を作って得られた報酬がある。
想像以上に貰ってる事もあって、持て余すくらいだしな。
パパと呼ばれてる事からの見栄かもしれないが、リーザが欲しい物なら何でも買ってやるつもりだ。
さすがに、この雑貨屋にある商品全てをとか言われたら困るが……。
「遠慮なんて……してない……よ」
俺の言葉に、再度首を振るリーザ。
だが、その視線は明らかに鞄に向いている。
欲しいと思ってるのが、バレバレだな。
まぁ、リーザの年でそういう事を隠すのが上手くても、なんか嫌だが。
「リーザ。やっぱり遠慮してるんだろう? 大丈夫だ、リーザが思うよりも、俺はお金を持ってるんだぞ? 何も気にせず、欲しい物を言ってくれ」
「でも……さっきの所でも、パパがお金を払ってたよ? お爺ちゃんは、お金は大事だから、無駄遣いは良くないって……」
リーザの前にしゃがみ込み、どうにか遠慮しないように説得を試みる。
どれだけの事ができるかはわからないが、できるだけ我慢はして欲しくないからな。
俺の視線と言葉を受け、おずおずと理由を話し始めるリーザ。
どうやら、リーザを拾ったお爺さんが、お金を大事にするよう教えてたらしい。
確かに無駄遣いは良くない事だし、お金は大事だ。
けど、俺にはそれよりもっと大事な物があるからな。
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