買い物に行く事にしました
「でしたら、私も共同で御一緒しますわ! 伯爵家の人間がいた方が、さらに盤石になるはずですわ!」
エッケンハルトさんとセバスチャンさんが、確認し合うように話し合い、クレアさんは俯いている中で、唐突にアンネさんが立ちあがって、共同で薬草畑を作る事を表明した。
……何を言ってるんだろう、この人は?
というより、今まで何を考えていたんだろう……?
「いや、アンネリーゼ。お前はまだ伯爵家の当主ではないから、それは判断できないだろう。それに、バースラー伯爵……お主の父親も、どうなるか決まっておらん。その状況で、他領の事に手を出せるわけがない」
表情を緩めていたエッケンハルトさんが、アンネさんの言葉で真面目な顔になり、冷静に無理だという事を伝えた。
そりゃそうだよなぁ……他領の事だし、当主でもないアンネさんが今すぐに決めていい事じゃない。
それに、バースラー伯爵やアンネさんがこの先どうなるかを、ラクトスの街でエッケンハルトさんに聞いた俺にとって、この提案はさすがに実現不可能な事をよく知っていた。
まだ当主じゃないうえ、再教育が上手く行くかのお試し期間のようなものだし、降爵だしなぁ……他領の事に構ってられる状況じゃない。
エッケンハルトさんが真面目な顔で、即座に否定するのも無理はないと思いながら、アンネさんを見ていた。
「よし、こんなもんかな」
「ワフ」
アンネさんの頓珍漢な提案を退け、とりあえずクレアさんの事は、もう一度話し合う必要があるとなった。
その後、ラクトスの街に行く事が必要になり、部屋に戻って出かける準備を完了させた。
昨日ニックに薬草を渡したから、今日は簡易薬草畑以外で薬草を作る必要もなく、『雑草栽培』を使うのはお休みだ。
ラクトスの街に行く理由は、リーザ。
屋敷で数日過ごしたリーザだが、よく考えると着替えを持っていない事に気付いた。
スラムから着の身着のままで連れ出したのだから、仕方ない。
リーザに聞くと、スラムの住処だった場所には、特に持ち物とかもなかったうえ、屋根もない場所だったとの事。
これまでは、ティルラちゃんのお下がりが用意されて、着替えはそれを使っていたんだが、ちょっとした問題が出た。
ティルラちゃんは人間で、リーザは獣人。
サイズはピッタリでも、尻尾のあるリーザは、人間であるティルラの服が完全に合うわけじゃない。
孤児院で借りた服もそうだったが、尻尾があるおかげで、スカートを着ると捲れるし、ズボンだとウエスト部分を下げて履かないといけない。
せめて尻尾があっても履けるズボンかスカートがないと……という事で、ラクトスの街へ買い物に行く事になった。
服だけじゃなく、リーザに必要な物も買わないといけないしな。
俺が屋敷に来てすぐと同じような状況だ。
幸い、薬草を卸す事で報酬を得ているから、お金は十分。
今回は誰かに借りたりする事なく、買い物ができる。
……というか、娘の買い物を、父親が誰かにお金を借りて……というのは格好悪すぎる。
「パパ、行こ―!」
「ワフ! ワフ!」
「はいはい、わかったから、もう少し落ち着こうな?」
部屋の入り口近くで、レオに乗りながら俺を急かすリーザ。
レオも一緒に俺を急かしてるな。
街へ行くという事で、レオに乗って走る事ができるのが嬉しいのか、さっきからリーザは興奮気味だ。
レオの方も、思いっきり……という程ではないが、裏庭よりも自由に走れるからと、尻尾をブンブン振って喜んでる。
「大丈夫そうだな。それじゃ行こうか」
「ゴー!」
「ワフ!」
持って行く物やお金を確認し、忘れ物がないかを確認する。
荷物を見て頷き、はしゃぐリーザとレオに急かされながら、部屋を出て玄関ホールへと向かった。
ラクトスの街へ行くのは、俺とレオとリーザ……だけではなく、他にクレアさんとライラさんもいる。
リーザの服や必要な物を買うのに、俺一人だと選べない事もあるかもしれないしな……ほら、下着とか。
それに、誰かが他にいないと、店に入ってる時にレオを見てくれる人もいないしな。
嬉しそうなリーザを微笑ましく見ながら、屋敷内を移動して玄関ホールに到着。
準備を終えた様子のクレアさんとライラさんの他に、ヨハンナさんとニコラさんが待機していた。
クレアさんも行くから、護衛は必要だろうしな……というより、全くの護衛なしだと、セバスチャンさんが許しそうにない。
ニコラさんは、腰にヨハンナさんと同じ剣を下げていて、刀は持っていない。
さすがに、大っぴらにされていない刀だから、ニコラさんも街へ持って行ったりしないんだろう。
俺も、エッケンハルトさんから預かった一振りの刀は、大事に部屋へ置いてある。
「お待たせしました、クレアさん」
「いえ、私も今来たところなので、問題ありませんよ」
クレアさん達と合流し、早速と玄関から外へ出る。
「「「行ってらっしゃいませ、皆様。お帰りをお待ちしております!」」」
いつものように、使用人さん達が声を合わせて見送られる。
一斉に声を出されたから、慣れてないリーザは、レオの背中の上でビクッと体を強張らせてたが、自分達を見送るためだとわかると、顔を向けて手を振ってバイバイしてた。
使用人さん達のうち、数人はそんなリーザに目を細めて手を振り返したりと、可愛がられてるのがわかる。
「さすがに、エッケンハルトさんやアンネさんは、隠れてついて来ようとしたりはしてませんね」
「そうですね。まぁ、お父様はセバスチャンが見張っていますし、アンネは……あの子はあまり外へ出たがらないですからね」
「ははは、セバスチャンさんが見張っていたら、抜け出す事もできそうにありませんね」
外へ出ながら、エッケンハルトさん達がいない事を確認し、クレアさんと話す。
俺がリーザを連れて、ラクトスへ行くと知った時、いの一番に一緒に行きたがったのはエッケンハルトさんだった。
以前行った時、屋台で食べ歩きしたのが楽しかったようだ。
しかし、クレアさんとセバスチャンさんがそれを阻止、また抜け出さないように見張る事になった。
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