クレアさんの事を聞きました
「はい、お願いします」
簡易薬草栽培で、土の状態に変化の兆しが見られるらしい事を、セバスチャンさんから教えられ、観察を続ける事をお願いする。
そうだよな……土の事もあったな……そこまでの事は考えてなかった。
薬草が普通の栽培でもできるかどうかで、成長速度はともかく、順調に育ってるから、その部分しか見てなかった。
考えてみると当然なんだが、土にも栄養というものがあり、それは無限にあるわけじゃない。
じゃなけりゃ肥料なんて、ほとんど必要ない。
土地を耕し、植物に必要な栄養を土に含ませる事で、順調に作物は育つわけだから……そういう事を考えるのも必要だな。
ほかにも害虫とかはあるから、畑をするうえでの知識がある人がいるというのは重要だ。
調子に乗って薬草を栽培し過ぎて、ランジ村付近の土が痩せて、何も育たない土地になったりするのは避けたい。
というより、そんな事になったら、ハンネスさん達に申し訳ないからな。
俺一人だと、そこまで考えが至らなかったから、セバスチャンさん達が協力してくれるのはありがたい。
公爵家の人達が協力してくれなかったら、そもそも薬草園なんて考えはなかったかもしれないが、それはそれとして。
薬草の知識や畑の知識に関連する事で、セバスチャンさんからの説明で納得し、いよいよ最後の質問。
いい加減、クレアさんがやきもきし過ぎて疲れた様子になってる。
「えぇと、これが最後なんですが……なんで、雇う人員のリストに、クレアさんが?」
「っ!」
俺が質問をすると、クレアさんがついに来た! という表情をさせながら、体をビクッと反応させた。
「その事ですか……」
「まぁ、それは疑問に思って当然だろうな」
セバスチャンさんは、少し目を伏せながらクレアさんに視線を投げ、エッケンハルトさんは面白そうな表情をして頷く。
セバスチャンさんの視線を受けたクレアさんの方は、申し訳なさそうな表情をしつつ俺を見ている。
いや、怒ったりはしないから、申し訳なさそうにしなくてもいいんだが……。
「クレアさん貴女、そんな事を考えていたんですのね?」
「うぅ……だって、しょうがないじゃない。タクミさんがランジ村に行ってしまうと、屋敷にいる私は離れてしまう事になるわ。だったら、タクミ様に雇われてついて行った方が……」
「……さすがに、貴族でもない俺が、公爵家の令嬢を雇うなんて……できないですよね?」
アンネさんに見られ、俯き加減で答えるクレアさん。
確かに俺がランジ村に行くと、屋敷との距離が離れて、早々会う事はできなくなるだろう。
まぁ……俺もそれは、少し寂しく感じてはいたが。
それはともかく、昨日も考えていたが、さすがに貴族でもない俺が公爵家の人を雇うなんてできないだろう。
いや、貴族でも無理だろう。
そう伝えようとして、途中で不安になり、エッケンハルトさんを見ながら問いかけた。
この人、面白そうだと考えて許可とかしそうだからなぁ……。
セバスチャンさんもそうだが、エッケンハルトさんも俺とクレアさんを……とか考えてる節があるし。
「まぁ、通常で考えれば無理だな。可不可で言うなら……微妙というところか。どちらとも言える」
「微妙……なんですか?」
「うむ。クレアは確かに私の娘で、公爵家に連なる者だ。だが、まだ当主ではない。正確には、当主以外の者は、貴族とは言えないのだ。本来、爵位は当主のみに与えられるものだからな。だが……貴族家、と言うように、周囲はその一家をまとめて貴族と見る向きが多い。公爵家、リーベルト家と呼ぶようにな。なので、実質的には違っても、他の者達は直系の者を貴族と見る」
「私も、いずれは伯爵家の当主になりますわ。それまでは、本質的には平民なんですの。クレアさんも、それは同様なはずですわ」
エッケンハルトさんは、俺の質問に対し、無理と言いながらも微妙と付け加えた。
アンネさんも加わったその後の説明を聞くに、当主以外は本当の貴族ではない扱いなのだが、一般の人は一家を貴族として見るため、実際は貴族ではないクレアさんやアンネさんを貴族として見る、と。
まぁ、将来貴族の当主になる可能性のある人や、当主が庇ったり保護する可能性のある家族に対し、無碍に扱ったりはできないのが本当のところなのかもしれない。
当主に直接でなくとも、その家族に危害を加えれば、貴族家当主からなにかしらの報復をされると考えてもおかしくないしな。
それを表面上隠すため、という訳ではないだろうが、一家単位で貴族と見ていた方が楽なんだろう。
それが慣習化し、本来当主以外は貴族ではないという事を忘れ、その慣習が残って貴族家の直系は全て貴族と見られるようになったのかもしれないな。
実際にはどうであれ、周囲からは貴族と見られるから、平民と言うのは言い過ぎなのかもしれない。
「なので、クレアも貴族であると周囲には見られている。だから通常では無理だという事だ。実質的には平民と同じなのだから、法的には可能なのだがな。それらを加味して、微妙……という事だな」
「そうなんですね……」
ラクトスの街へ行った時、クレアさんは公爵家の者……貴族として扱われていた。
それを考えると、普通は恐れ多くて、誰も雇ったりなんて考えないだろう。
だが、最初にラクトスへ行った時、ニックを唆した奴らが絡んで来た後捕まったが、そこからニックが逃げ出した事を考えて、貴族に絡んで来た相手に対して、少し緩いのではないかという疑問も、少しだけあった。
この世界に来てあまり経っておらず、どういう社会か知らなかったから、特に疑問を投げかけたりはしなかったが……。
場所によって考え方、法律は変わるもの。
この場所ではそういう方法を取ってるだけと、納得してたからな。
でも、今の説明を聞いて、あの時の事はクレアさんが実質的には平民と変わらなかったから、厳しい処罰という程の事にはならなかったんだろう。
……エッケンハルトさんが知ったら怒って厳しい処罰にしそうだが、その時は屋敷にいなかったしな。
まぁ、貴族家という事も考えて、多少は他と違って厳しくはした部分はあるのかもしれないが。
つまりあいつらは民に因縁を付け絡んで来た、ガラの悪い者達……として捕まったわけだ。
ニック以外には結構な余罪があったようだから、今頃厳しく罰せられてはいるだろうけどな。
それを考えると、ニックがカレスさんの店に来た時セバスチャンさんが脅した、公爵家に盾突いてただで済むとは云々は、ハッタリの部分もあったのか。
逃げ出したり、薬草に被害を出してたから、全てが……というわけではないだろうけどな。
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