今日の鍛錬はいつもとは違うようでした
アンネさんとリーザが打ち解けた後、ミリナちゃんと協力して薬の調合を終わらせる。
リーザが手伝いで、調合をしている姿を見て、真剣に応援していたアンネさんは、目の前の人に対しては、悪い人ではないんだろうと思う。
まぁ、リーザの近くには常にレオがいるため、不用意に近付こうとはせず、離れて応援してたが……さっきまでは、耳や尻尾を触りたいのと、髪型を変えてハイになってたから、レオがいてもリーザに近寄れたんだろうと思う。
クレアさんは、リーザが何ともない事に安心して、エッケンハルトさんとの話に戻って行った。
寝坊したアンネさんが、変な事を考えていないかどうか、監視のつもりでここまで来たんだろうと思う。
縦ロールに蝶々結びという、突拍子のないことは、変な事と言えば変な事だが、誰かに危害を加える事はないと安心……したのならいいけどなぁ。
薬の調合が終わり、魔法を使って疲れた俺と、すりこぎ棒を動かし続けて疲れたミリナちゃんで、ライラさんにお茶を淹れてもらって休憩していると、昼食の準備ができたとの事で、食堂へ移動した。
完成した薬は、ライラさんとミリナちゃんに頼んで、ヘレーナさんのいる厨房へ届けてもらう事に。
何故か、俺達が食堂へ到着した時には、厨房に行ったはずのライラさんが既に中で待機していた……やっぱりこの屋敷、何か抜け道とかがあるんじゃないか?
「今日も、美味かったな」
「はい。ヘレーナさんには感謝ですね。リーザも喜んでいるようですし」
皆で食堂に集まり、昼食を食べ終わって、淹れてもらったお茶を飲みながら、エッケンハルトさんと一息つく。
リーザは、昼食を笑顔で食べ終えた後、ヘレーナさんが今日も用意してくれた、甘いデザートをレオに食べさせたり、自分で食べて破顔したりしていた。
最近初めて甘いお菓子というか、デザートを食べたリーザは、クレアさんやティルラちゃん、アンネさんと同様に、好物になったようだ。
アンネさんは、客間にいた時と同じように、まだ縦ロールの先を蝶々結びにして、デザートを食べるリーザをニコニコとしながら見ている。
アンネさんの蝶々結び……食堂に入ってすぐ、セバスチャンさんは驚いた様子だったが、エッケンハルトさんは特に気にした様子はなかった。
まぁ、自分の髭とか髪とか、今まであまり気を使う事がなかった人だから、そういう事は気にしない人なんだろう。
単純に、気付いていない可能性もあるけど。
「さて、これからタクミ殿とティルラは鍛錬だな。今日は魔法ではなく、剣の方をするぞ?」
「そうですね。魔法はとりあえず、基礎的な部分を昨日、クレアさんに教えてもらったので。今日は剣の鍛錬をお願いします」
「うむ。それでなんだがな、タクミ殿の動きを見ていて、以前から考えていたのだが……本当は昨日やるつもりだったが、魔法を優先させたからな」
「以前から? どんな事ですか?」
昨日は魔法の訓練で、昼食後の鍛錬は終わったから、今日はみっちり剣の鍛錬だ。
イメージトレーニングはしてるが、やっぱりエッケンハルトさんがいるうちは、できるだけ剣の鍛錬を受けたいからな。
やる気を見せた俺に、エッケンハルトさんが頷いた後、何か俺に対して考えていた事があったらしい。
以前のように、急に実戦訓練とかを考えた……とかでないといいんだが。
「そうだな……詳しくは、裏庭に出てから教えよう」
「お父様、また何か変な事を考えているのですか?」
「変な事は考えていないぞ? 今のところはな。……あれは、セバスチャンと話さねばならんしな」
考えながら言うエッケンハルトさんに、クレアさんが問いかける。
クレアさんも、俺と同じようにエッケンハルトさんが、また無理な事を考えたのではないかと、少々訝し気だ。
目線を外して否定したエッケンハルトさんは、小さく呟いたが、クレアさんには聞こえなかったようだが、俺にはしっかり聞こえた。
否定はしたが、何か考えてる様子のエッケンハルトさんに、クレアさんは納得できないような表情で、訝しがるだけだ。
セバスチャンさんと話さないと……か。
何を考えているのかは知らないが、セバスチャンさんを通すのであれば、まともな事だろう……と思いたい。
セバスチャンさんも、面白さを優先するきらいがあるが……そういえば、例の店での実戦訓練は、セバスチャンさんも関わってたっけか。
安心できそうにないなぁ、聞いても教えてくれないだろうし……恐らくだが、今朝の朝食の場で悪い顔をしてた事なんだろうと思うが。
そうなるとティルラちゃんにも関係あるのか?
あの時は、ティルラちゃんと話してた時だったし……まだ子供のティルラちゃんに、危険な事はさせたくないなぁ。
まぁ、さすがに娘であるティルラちゃんには、無茶な事はさせないか。
そう考え、一応納得しておいた……安心は、まだできないけどな。
「んんっ! まぁ、それはそれとしてだ。タクミ殿の鍛錬に関する事だな。……セバスチャン」
「はい」
「私の持って来たあれと……予備を。それと、ニコラも呼んでくれ」
「畏まりました」
「ニコラさん?」
クレアさんの訝し気な視線に、汗をたらりと流しながら話を逸らし、セバスチャンさんに呼び掛けるエッケンハルトさん。
用を伝えられ、一礼して食堂を出て行くセバスチャンさんだが、あれってなんだろう?
それに、ニコラさんも呼ぶなんて……今まで鍛錬に護衛の人達が関わる事はなかった。
それぞれに仕事があるのは当然だし、素人の俺に鍛錬を付けるような暇はないだろうしな。
「まぁ、ニコラも多少関係している、と言えなくもないからな。手本としても問題ないだろう」
「手本……どんな事をするんですか?」
「そこは、裏庭に行ってからのお楽しみだな。まぁ、クレアが考えているような、変な事ではない。タクミ殿が、今よりも強くなれる可能性を模索するため、と考えてもらえばいい」
「そうですか、わかりました」
ニコラさんがどう関係しているのかわからないが、俺が強くなるためと言うのなら、その通りなんだろう。
例の店での実戦訓練もどきも、多少は強くなってる実感と、イメージトレーニングへ良い影響となってると思うしな。
俺自身は、そこまで強くなろうとは考えてはいないが、ランジ村でオークと戦った事もある……皆に心配をかけないためにも、鍛錬を頑張るのは悪い事じゃないだろう。
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