簡易薬草畑に異変が起こったようでした
「ワフワフ!」
「きゃふ! ママ、私は元気だよ」
「ワフー」
リーザがベッドから降りると、すぐにレオが顔を寄せ、リーザの顔をひと舐め。
大丈夫かどうかを聞いたんだろう、リーザから元気だと笑顔と一緒に答えが返ってくると、レオは安心したようだ。
心配なのもそうだが、多分レオは、涙の跡を舐めて消そうとしたんだろうな。
……うん、朝食前にリーザは顔を洗った方がいいか。
レオが舐めたおかげで、涙の跡はもう消えていたが、顔中が唾でべっとりしていた。
レオが汚いとかそういう訳じゃないが、朝は顔を洗って身支度を整えるべきだよな、うむ。
日本にいた頃は、顔を舐められて朝起こされた事もあったなぁ……あれは心配とかじゃなくて、腹が減ったから、食べ物を要求するためだったが。
「ワフ、ワフ」
「きゃふ、にゃふ。あはは、ママ舐めすぎだよー」
「レオ、程々にな? ……リーザは、後でしっかり顔を洗わないとな」
「タクミさん、レオ様達……起きてますか?」
「ティルラちゃん? 起きてるから入っておいで」
「はい! おはようございます」
レオがリーザが元気な事を喜んだのか、続けて顔を舐めまわしている。
リーザは笑ってるだけだが、見てはっきりわかるくらい、顔がべっとりして来たな……。
レオとリーザの様子を見ていると、部屋の外からティルラちゃんの声が聞こえた。
ノックをせずに声をかけたのは、リーザの笑い声が外まで聞こえて、起きてるとわかったからだろう。
外に声をかけ、ティルラちゃんを部屋へ招き入れる。
相変わらず朝から元気なティルラちゃんだが、子供はこれくらいが丁度いいのかもしれない。
さっきまで眠そうだったリーザも、レオに舐められてからは元気に笑ってるしな。
「おはよう、ティルラちゃん」
「ワフ」
「ティルラお姉ちゃんだ! おはよう!」
「リーザちゃん! ……顔がべとべとです?」
「あはは、それはレオに舐められたからだね。ティルラちゃん、リーザの顔を洗ってあげてくれるかい?」
「わかりましたっ。リーザちゃん行きましょう!」
「ワフワフ」
「うん。ママも一緒」
俺達がティルラちゃんに挨拶を返していると、部屋に入ってすぐ、リーザの顔がべとべとになってる事に気付いたみたいだ。
ティルラちゃんに、リーザの身支度を任せ、それについて行くレオを見送って、自分も朝の身支度を始める。
「タクミ様、すみません! 起きてらっしゃいますでしょうか!?」
「っ! は、はい、起きてますが……いてて……」
髭を剃っていた時、誰かが部屋の外から焦った声で俺に呼びかけて来た。
あまり聞き覚えのない声だと思いながら、外に向けて答えつつ、驚いて切れてしまった顔を鏡で見る。
少し血が滲んでるな……今日の髭剃りは失敗なようだ。
「失礼します。……申し訳ありません、身支度の途中でしたか」
「まぁ……それで、どうしたんですか? 随分焦っていたようですけど?」
部屋に入って来たのは、屋敷内で何度か見かけた事のある執事さんの一人。
いつもは、俺の所に直接来るのはセバスチャンさんが多かったが、今日はどうしたんだろうか?
「は、はい。そうでした。申し訳ありません、タクミ様。裏庭にて、タクミ様の作られた薬草なのですが……枯れてしまいました」
「は? 枯れた……?」
「はい……その、言い訳になってしまうのですが……夜の間は、暗くてあまり良く見えなかったのです。それで、今朝明るくなってから見てみると、枯れていました」
執事さんは、簡易薬草畑を観察してくれてた人らしい。
夜の間は当然暗いから、薬草の状態を細かく観察できず、枯れて行くのがわからなかったんだろう。
光は光合成をするために必要だし、もしかしたら何か影響があるかもと、昨日剣の鍛錬をする時、魔法で照らす事を止めてもらっていた。
自然に近い状態でどうなるかが、見たかったからな。
それはともかく、夜のうちは気付かなかった事も、朝になり、明るくなって初めてわかったんだろう。
俺が作った薬草を枯らしてしまったと、勢いよく頭を下げる執事さん。
枯れるとは思ってなかったが、それ自体は何も問題はない。
今は研究中の事だし、枯れた薬草は、また『雑草栽培』で作ればいいからな。
だが、こんなにすぐ成長したり、増えたり、枯れてしまうというのは、やっぱり『雑草栽培』との関係を疑わずにはいられないな。
「えぇっと、落ち着いて下さい。特殊な方法で作った薬草なので、枯れてもおかしくはありません。責めたりはしないので、安心して下さい」
「はい……申し訳ありませんでした……」
「それで、枯れたのは、全部なんですか?」
「いえ、昨日の段階で、大きくなっていた薬草だけです。新しく芽を出し、成長の途中だった薬草は、枯れずに育っています」
「そうですか……成る程」
とりあえず、とんでもない失敗をしたとばかりに謝る執事さんを落ち着かせ、薬草の状況を聞く。
それによると、俺が最初に『雑草栽培』で作った薬草のみ枯れ、新しく増殖した薬草は無事みたいだ。
栄養が、新しく育つ薬草に取られた?
いや、それだけなら、他にも成長途中の物が枯れてしまってもおかしくない。
だがそれがないという事は……どういう事だ?
「ともかく、見に行きましょう」
「はい」
「……どうしたんですか?」
「ワフ?」
「パパ、何かあったの?」
身支度もそこそこに、執事さんと部屋を出ようとした時、顔を洗いに行っていたリーザ達が帰って来た。
俺もちょっとは焦ってるみたいだな……何も言わずに部屋を離れる所だった。
……髭を剃り損ねた痛みも、忘れてるくらいだ。
ともあれ、帰って来たティルラちゃん達に事情を話し、皆で裏庭へと向かう。
レオだけは、お腹を空かせてるようで、少しだけ落ち込んだ様子だったが……様子を見たら、すぐに食べさせてやるから、今は我慢してくれな。
「タクミ様」
「セバスチャンさん。先に来ていたんですね」
「はい、私も先程知らされて、すぐにこちらへ参りました」
執事さんやティルラちゃん達と一緒に、裏庭へ出てみると、そこには既にセバスチャンさんが来ていた。
もう一人執事さんを連れていたから、その人がセバスチャンさんを呼びに行ったんだろうな。
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