デリケートな話には加わらないのが一番でした
「支度も終わったようだな。では頂こう」
「はい、頂きます」
「頂きますー」
「えぇ」
「はい」
「ワフ!」
「キャゥ!」
そんな話をしているうちに、料理の配膳が終わり、食卓を見渡しながら、エッケンハルトさんの合図で食べ始める。
リーザは俺の真似をして手を合わせ、散々遊んだティルラちゃんやレオ、シェリーはがっつくように食べ始めた。
シェリーは、レオの頭に乗ってただけだから、あまり動いてないはずなんだけどな……。
クレアさんとアンネさんは、さっきの匂いの話が原因なのか、いつもより食べるペースはゆっくりだ。
がっついて食べて、ソースが服に付いたり、匂いの原因になる事を避けたいらしいが……いつも通りで大丈夫なのになぁ。
まぁ、リーザに変な匂いと言われたくないのかもな。
「ふむ……クレア。ふと思ったのだがな?」
「なんですか、お父様?」
食事もある程度進んだ頃、エッケンハルトさんが何かを思いついたように、クレアさんに声をかけた。
クレアさんは料理を口に運ぶ手を止め、エッケンハルトさんの方へと視線を向ける。
「気のせいかもしれんのだが、以前より食べる量が落ちてないか? 今だけでなく、他の時でも……」
さっきの話のせいか、いつもより食べるスピードの遅いクレアさんは、食べる量が少ないようにも見えるかもしれない。
だがエッケンハルトさんは、今回以外にも少なくなったと感じたらしい。
クレアさんは、いつもティルラちゃんよりは食べてるようだし、近くにはレオやエッケンハルトさんといった、大量に食べる者達がいるから、それと比べると少なく思ってしまうのかもしれない。
実際は、俺とあまり変わらない量を食べてるんだけどな。
俺は食が細いわけでもなく、成人男性の平均くらいだと思う……あまり比べた事はないが。
クレアさんは、そんな俺と同じくらいなのだから、十分に多い量を食べてると思う
まぁ、以前のクレアさんが食べる量を知らないから、エッケンハルトさんの勘違いとは言えないけども。
「お父様、何を言っているんですか? 私は以前から、食べる量は変わっていませんよ?」
「む、そうか? しかし、以前はもっと食べていたような気がするのだが……」
「……確かに姉様、前はもう少し食べていた気がします。今と同じくらいになったのは……タクミさんとレオ様が来てからでしょうか?」
「ちょっとティルラ!?」
「やはりそうか。ふむ……タクミ殿がこの屋敷に来てから、となると……成る程な」
クレアさんからの返しに、エッケンハルトさんは納得いかないながらも、勘違いかと考え直しかけたが、ティルラちゃんの証言によって事実が判明してしまった。
焦るクレアさんだが、エッケンハルトさんは理由に納得した様子。
俺がこの屋敷に来てからって、食べる量と何か関係してるんだろうか?
「俺のせいですか? 何か、悪い事でもしたんでしょうか?」
「タクミさん、そんな事はありませんから。タクミさんが気にする必要はない事ですからね?」
「はぁ、そうですか……?」
誤魔化されたのだろうか、もしくは俺に知られたくない何かがあるのか……。
なんにせよ、女性にはそういう事もあるのかもしれないから、深くは突っ込まないようにしよう。
大きな事ではないから、そこまでの事はないと思うが、好奇心は猫も殺すって言うしな。
「クレアさん、貴女太ったの?」
「ちょっとアンネ、なんて事を言うの!? 私は太ってなんかいません! ……確かに、ヘレーナの料理は美味しいから、ついつい食べ過ぎてしまうけど……」
「むぅ……クレアさんは、食べた物が胸に行くのかしら?」
エッケンハルトさんが納得したように、うんうん頷いて、俺が深くは追及しない事で、この話は終わりかと思っていたら、アンネさんが突っ込んでしまった。
アンネさんの方を見て訂正するクレアさんだが、ヘレーナさんの料理はついつい食べ過ぎてしまうらしい。
確かに美味しいしなぁ、ヘレーナさんの料理。
しかも、甘いデザートもよく出るおかげで、運動してなかったら俺も太っていたかもしれない。
しかしアンネさん、見た目ですぐクレアさんが太ったようには見えないからって、胸をじっと見るのはどうかと……女性同士だから、問題はないのかもしれないが。
「ちょっとアンネ、どこを見ているの?」
「その主張の激しい一部を見ていましたわ。……口惜しい」
「口惜しいって貴女……今まで気にしていなかったでしょう?」
「それはそうですけれど…私は、殿方を魅了する一つの手としてそれが使えないのですわよ?」
「アンネ……それだけで考えるのは、さすがにどうかと思うわよ?」
「持つ者が故の、余裕ですわね。持たない者の気持ちはわかりませんわ」
「それは……そうだけど……」
羨ましそうに、クレアさんの胸を見ているアンネさん。
確かに、アンネさんの胸というか体形はスレンダーだ。
以前の世界なら、雑誌モデルとかも余裕でできるだろうと思われる。
だが、クレアさんと並んだ時、一部の大きさの差は歴然としている。
そうか……クレアさんは栄養が胸に行くタイプか……という事は……おっと、これ以上は考えないようにしないと、クレアさんにも失礼だな。
それに、この屋敷にはクレアさんよりも大きいライラさんという、猛者もいるわけだし……これもあまり考えないでおこう。
「うむ……まぁ、それぞれ考える事があるという事だな……」
俺やティルラちゃん、エッケンハルトさんを残して、クレアさんとアンネさんのお胸談義はヒートアップして行った。
さすがに、俺やエッケンハルトさんがいる前でする事ではないと思うのだが……。
そんな二人の様子を見ながら、エッケンハルトさんがまとめるために呟いた。
綺麗にはまとまってはいないが、とにかく女性のそういう部分には、あまり触れない方がいい事がわかった。
多分、胸の大きさとか関係なく、クレアさんは多く食べる事がはしたないとか、ダイエットの意味合いも少しはあるのだろう、と頭の中で結論付けた。
俺はあまり自分の体形を気にしてないし、今は剣の鍛錬で体を動かす事が多いから、太るとかは気にせず食べてるけどな。
まぁ、女性には女性の悩みがあるんだろう。
そのうち、ダイエットに使えそうな薬草でも考えてみるか……とも思ったが、今は触れない方が良さそうなので、止めておいた。
アンネさんのような女性のために、胸を大きくする薬草の考え……は、ダイエット以上に危険な気がするから、頭の奥底に封印する事にした。
ちなみにレオやシェリーは、なんで食べるのを遠慮するんだろう? というような、不思議なものを見る目をしていた。
人間と違って、太る太らないは気にしないだろうから、理解できないんだろうなぁ。
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