土地管理の話を聞きました
「土地の権利……タクミ様の所では、個人で土地を持っていたのですか?」
「え? えぇと……そうですね。土地を買って、その人が所有者となり、ある程度自由に使う事ができます。人に貸したりもできますし、自分が住むのも可能です。まぁ、持っているだけで税金がかかるので、良い事だけではないようですけど」
クレアさんとセバスチャンさんに、日本での土地所有権の事を簡単に説明する。
本当は、もっと複雑な契約だとか手続きだとかがあると思うが、俺は土地を所有した事もないし、そこまでの事は今関係無いからな。
あと、土地にかかるのは固定資産税だったか。
あまり価値がなく、人に貸して収入を得る事ができないような、土地を持て余している人が、税金の支払いに苦労して土地を手放す、という事も普通にあったはずだ。
土地を持っている、と言えば聞こえはいいが、実際にそれだけでお金持ちになんかなれないからな。
こっちには、そういうものはあるんだろうか?
「成る程、変わっていますね」
「そうですな」
「……ここは、そうではないんですか?」
俺が話した内容に、クレアさんとセバスチャンさんは顔を見合わせ、不思議顔。
二人の様子から察するに、この世界ではそれとは違う方法が取られてるようだ。
世界が変われば、制度も考え方も変わるか。
「この国では、土地の所有権はまず、国王にあります。全ての国土は国王が所持する物、と定められているのです」
「ふむふむ」
「ですが、広大な国土……国王が全てを管理するのは、とてもでは無いですができる事ではありません」
「そうですね」
いくら国王になった人が天才だったり、頭の良い人であっても、一人で全てを管理する事はできないだろう。
まぁ、そのために必要な人員を雇ったりはするんだろうが、それでも全てをちゃんと管理する事は難しい。
「そこで、複数の人を貴族として領地を与え、そこの管理を任せるのです。国王から国土を分け与えられた者が、貴族というわけですな。なので、この国の貴族は全て、多かれ少なかれ土地を所有しています」
「貴族が領主になり、それぞれで管理させるわけですね」
「はい。そして貴族は、民に対して土地を貸し出すのです。それが農地になり、村になり、街になります。つまりこの時点で土地の持ち主は領主の物となるのです」
「では、この公爵領の土地は、全てエッケンハルトさんの物なんですか?」
「そうなります。そして、借りた者は領主に広さから一定の税を収めます。その役割は大抵、村の村長や街の代官。その者達はさらに、そこに住む者達の収入から税を受け取り、上の者に収める……という仕組みです」
「ふむふむ、それじゃあ、例えば俺やニックが税を納めるとなると……」
「タクミ様は、薬草の報酬から。ニックはタクミ様から出る給料から、税が差し引かれます。この屋敷はラクトスの管轄になっていますので、街の代官の元へ集まります」
大体だが、この国の税金の仕組みがわかって来た。
基本的に貴族は土地の税金で収入を得て、土地を借りた地主は街や村を発展させて、そこから収入を得る。
領主側は、自由に税を決められると以前聞いたから、土地の税金を多く取れば、それだけ収入があるし、そこは土地を借りた者も同じ。
ただ、重税になれば借りる側も少なくなるし、税を納めるのも一苦労。
自然と街で働いた時に取られる税金も多くなるから、人が住みにくくなって発展しづらい、という事か。
あと、土地を借りた者が私服を肥やすために、重税を課す事も考えられるため、全ての税収入は報告義務があって管理されてると、セバスチャンさんに補足してもらった。
どちらかというと、昔の日本の考え方に近い……かな?
どちらがいいとか、ここに不備や不正の温床になりそうな部分があるだとか、そういうことはあまり考えない。
所変われば品変わる。
この世界やこの国で、その方法が上手く行くのであれば、特に文句はない。
今のところ、不満もないしな。
「少々話が逸れましたが、タクミ様には土地の借主になって頂こうかと」
「俺がですか?」
今の話を聞いただけで、俺が土地を管理して税というか、借賃を払うのは難しいと思うんだが。
狭い範囲だし、誰かが住んだりする事もない土地だから、税を徴収する事はないだろうがな。
「もちろん、タクミ様がまだこの国に不慣れな事は承知しております。なので、管理に際して当家の執事を付けさせてもらおうかと。その者に難しい事は任せて頂ければ、大丈夫なように教育しておりますので」
「はぁ……そうですか」
執事さんかぁ。
この屋敷で見る執事さんは、セバスチャンさんを始め、皆しっかりしていそうで、仕事を任せるのに不安はない。
それどころか、全て任せてもいいくらいの安心感がある。
でも、俺が執事を持つという事に違和感が、ね。
「大丈夫ですよ。リーベルト家で制定している税は、他の貴族領よりも低くしてあります。もちろん、タクミさんに渡す薬草の報酬から考えれば、税を払っても余裕は十分にあります」
「いえ、そこでは無いんですけど……」
クレアさんが、不安そうな、しっくり来ないような顔をしている俺を安心させるために、微笑みながら言ってくれた。
心配してるのは、そこじゃないんだけどなぁ。
「その……俺が執事を、というのが自分で違和感がありまして。ずっと誰かに命令される立場だったので。ちゃんと働いてくれるのか……」
「ふふふ、そう言う事ですか」
「ほっほっほ、私が言うのもおかしな話かもしれませんが、タクミ様なら大丈夫だと思いますよ。執事側として見ていた私が保証致します」
ん~、セバスチャンさんがそう言うのなら、信用できるかな?
俺自身よりも、セバスチャンさんの言葉の方が信用できる、というのはおかしな話だが、未経験の事なんだから仕方ない。
日本での仕事は、どれだけ働いても下っ端だったからなぁ。
それに、一部の性格を除いて、セバスチャンさんの仕事は確かだ。
その人がこういうのだから、きっと大丈夫なんだろう、そう思う事にしよう。
のんびりやって行こうと考えてたのに、薬草園の運営だとか、執事を持つ事だとか……最近では、リーザもそうか。
結構考える事が増えたなぁ、と思う。
……薬草園はランジ村だから、そこでのんびりしたら良いか……あそこは時間の流れが遅く感じるくらい、ゆっくりできたからな。
できるといいなぁ……。
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