『雑草栽培』をリーザに見せました
「タクミ殿、まずは薬草作りが先か?」
「そうですね。街で売る薬草と、ワインに混ぜるため調合する薬草を作る必要があります」
「タクミ様、そのうちいくつかを、採取せずそのまま経過を見るのは如何でしょうか?」
「よく作る薬草を、増やすという事ですね?」
「はい。ラモギもそうですが、ワインに混ぜる薬の元になる薬草は、多くの数が必要になるかと思われます。可能であるなら、そちらを通常栽培し、増やす事ができればタクミ様の負担も減らせるかと」
「確かにそうですね、わかりました。では、今から作る予定の薬草を……それぞれ5個から10個くらい多く作って採取しないようにしておきます」
「はい、それでよろしいかと。場所は、こちらでよろしいですか?」
まず街や薬のための薬草を作る事レオ、エッケンハルトさんに言い、それを聞いたセバスチャンさんに提案される。
何の種類を通常の栽培にするか、あまり考えて無かったが、セバスチャンさんの提案に従えば、数種類の薬草で経過を見る事ができる。
本当は、昨日屋敷に帰ってから、俺が考えなきゃいけない事だったんだが……リーザの事があったからな。
さっき、エッケンハルトさんに言われるまで忘れてた。
……もっと色々考えられるようにならないとなぁ。
ともあれ、気を取り直してセバスチャンさんが示した、栽培するための場所を見る。
裏庭の中でも、いつも薬草作りをしている場所よりも、隅の方だ。
レオが走り回ったり、ティルラちゃんが遊ぶのに邪魔にならない位置なんだろう。
いつもなら、どの場所で作っても、全部すぐに摘み取るから、どこでも良かったんだが、今回は薬草をそのままにするからな。
「えぇと、日当たりも良さそうですし、十分だと思います。あと、日当たりの悪い、陰になった場所でも試したいのですけど?」
「日当たりの悪い場所、ですか? それでしたら、こちらです」
薬草と言っても、一概に同じ環境で育つ物じゃない。
日当たりが悪く、湿気が多い場所の方が育つ物だってあるはずだ。
それぞれの場所で薬草を作り、適した環境を見てみる必要があるだろう。
植物の多くは、光合成をするから、日当たりのいい場所が適してると考えがちだけだから、セバスチャンさんが戸惑うのもわからなくないけどな。
あとすぐできそうなのは、あげる水の量を調節するくらい……かな?
「パパ、何するの?」
セバスチャンさんと話し、薬草を作る場所を確認していると、リーザが首を傾げながら聞く。
ギフトの事を知らないのだから、わからなくて当然なんだが、リーザとしては、俺が何をするのかに興味があるんだろうな。
「えぇと、エッケンハルトさん、セバスチャンさん?」
「うむ、タクミ殿がいいと思うのであれば、構わないだろう」
「言い方は悪いですが、リーザ様は獣人なので、広まる事は少ないかと思われます」
「わかりました。それでは、リーザに俺の能力を話します」
「ワフ」
リーザにどう説明したものかと考え、エッケンハルトさんとセバスチャンさんを見る俺。
エッケンハルトさんは頷き、セバスチャンさんは大丈夫だと判断した。
セバスチャンさんが言ってるのは、多分獣人だから、俺の能力の事を他の誰かに言っても、易々とは信じてくれないかも……という事だろう。
本人は差別をしている雰囲気はまったくなく、リーザを見る目は優しいのだが、貴族を補佐する役目として、そういった事を言わないといけない事もある、のかもしれないな。
「えぇとね、リーザ。俺にはちょっと変わった能力があるんだよ」
「そうなの? どんな能力?」
リーザと目を合わせ、少しだけ真剣な雰囲気を作ってから話し始める。
この屋敷にいる人達以外の人には言ってはいけない、と前置きをしてから、ギフトの事、『雑草栽培』の事を教えて行く。
さすがに、こことは別の世界から……というのはまだ教えないでおいた。
一気に色々教えても、混乱してしまうかもしれないからな。
「ギフト……? 『雑草栽培』? よくわかんない」
「んー、そうだね。じゃあ、見せてあげるからしっかり見ておくんだよ?」
「うん、わかった!」
リーザは、さすがにギフトの事を聞いた事がなく、理解する事ができなかったようだ。
俺の他には、この国に今はいないみたいだし、一部の人しか知らない事なんだろうな。
アンネさんとかも、もしかしたら知らないのかな?
そんな事を考えながら、リーザから少し離れて、セバスチャンさんに指定された場所に行く。
「わくわく……」
「ははは、そんなに期待しなくても、派手な事は起こらないよ?」
期待に満ちた目をして、俺を見ているリーザ。
よっぽどなのか、わくわくとまで口に出して言ってる。
その様子を、レオやエッケンハルトさん達が朗らかに眺めていた。
「さて、まずは作り慣れたラモギから……」
ここ最近で、一番ラモギを作ったから、もうほとんど意識しなくとも作れる。
さすがに全く想像しないという事はないが、もう慣れた作業だ。
手を地面に付け、ラモギを想像して、『雑草栽培』が発動するように少しだけ集中。
数秒もせず、地面から複数のラモギが生えて来た。
「……! 凄い! 凄い! 何で、何で?」
「ははは。これがギフトで、『雑草栽培』っていう能力なんだよ」
「はぁ~……。パパ凄い!」
地面に手を付けただけで、何も無いはずの所から植物が生えて来る、という光景を見たリーザは、目を輝かせたままで、とにかく凄いを連呼し、喜んでいた。
喜んではしゃいでるのはいいが、ちゃんと注意はしておかないとな。
「さっきも言ったけど、この能力の事は、あまり人には言わない方がいいんだ。だから、リーザも誰かに言わないようにね?」
「うん! パパとの秘密、絶対に守る!」
「ワフ」
嬉しそうに頷くリーザ。
これなら、ちゃんと秘密を守ってくれる……かな?
子供だし、ポロっと言ってしまう事があるかもしれないから、そこは俺とレオでしっかりと見ておこう。
まぁ、この屋敷にいる人は、アンネさん以外なら大丈夫だが。
俺の能力を見て、尻尾をブンブン振り、耳をピクピクさせているリーザを微笑ましく見ながら、いつもより多くの薬草を作った。
今回は、街へ卸したり、ミリナちゃんへ渡す物だけじゃなく、通常栽培ができるかの研究でもあるからな。
リーザが嬉しそうに見ているのを感じて、ちょっとだけ頑張ってしまったが……とりあえず気絶する様子はないので、大丈夫だろう。
気を付けないとな。
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