リーザがお眠になりました
リーザに押し切られて一緒に風呂に入る最中、体を洗い終わったレオは、濡れたままの体でいつもより一回りも二回りも小さく見える体で、こちらを溜め息交じりに見ている。
監視かな? というかレオ、その姿のままだと風邪引くぞ?
シルバーフェンリルが風邪を引くのかわからないが。
「こんなに温かい水があるのは初めて! すごい!」
「ははは、これはお湯って言うんだよ」
リーザの体を洗い終わり、二人でゆっくりお湯に浸かる。
今まで飲み水にすら困ってたんだから、こんなにいっぱいのお湯を見るのも初めてだったんだろう。
驚きながらも、笑顔なリーザを見て、目を細めつつ体を温める。
「ワッフシュン!」
「ほらレオ。濡れたままだから寒いんだろ? 入るか?」
「ワフワフ」
「はぁ……じゃあ、外に出てゲルダさんに体を拭いてもらえ。風邪を引いたらいけないからな?」
「ワフ」
くしゃみをしたレオを見て、お湯に浸かるのを勧めてみたが、やはり嫌がるレオ。
そんなに温かいお湯が嫌なのか?
仕方なく、外に出てからだを拭いてもらうように言うと、頷いてさっさと出て行くレオ。
寒いなら、我慢せず出ればよかったのに……それだけレオもリーザが気にかかるのかもな。
「ちょっと暑くなって来た……」
「そうだね。さすがにそろそろ……いや、あと50数えるまで浸かっておこうか?」
「……わかった……1……2……」
子供だからか、リーザは使っていたお湯からすぐに上がろうとする。
大量のお湯が珍しくても、そういう所は子供なんだなぁと思いつつ、50数えたら上がる事にして、リーザに数えさせる。
途中、10以上の数がわからないリーザに、数え方を教えた。
20まで覚えたようだけど、途中途中で躓いてたから、50数えるより少し時間がかかったかな。
「ゲルダさん、すみませんがリーザをお願いします」
「はい、わかりました」
「ワフ」
「パパは?」
「俺はもう少しここにいるから、外に出て体を拭いてもらっておいで。レオもいるから大丈夫だよ」
「うん、わかった。ママの所に行く」
扉越しに、ゲルダさんに声をかけ、リーザの事をお願いする。
さすがに、背中を洗う事はしたが、濡れた体を拭いて服を着せるまでするのは躊躇うからな。
ちなみに、手足や頭、顔や尻尾はリーザに自分で洗ってもらった。
外からすぐに返事をしてくれたゲルダさんも、きっとこうなるだろうと思って、離れてはいなかったようだ。
レオの声も聞こえたから、一緒に待っていたんだろう。
リーザに言い聞かせ、先に外に出して、少しの間またお湯に浸かった。
体を冷やさないようにしないとな。
「体がぽかぽかするよ!」
「ははは、お風呂上がりだからね。体がまだ温まってるんだよ」
「ワフ、ワフ」
部屋に戻って、温まったままの体ではしゃぐリーザ。
その様子を微笑ましく見る。
レオも、微笑ましい物を見るようにしながら頷いているが……お前はむしろひんやりしてると思う。
水を被ってたし、しばらくお湯に入ったりもせず濡れたままでいたからな。
まぁ、風邪を引いたりせず、レオが満足ならそれで良いんだが。
「ふぁ~」
「ん? 眠いのかな?」
「ワフ?」
ひとしきりはしゃいだリーザは、俺が座るように勧めたベッドの上で、大きなあくびをした。
今日はスラムから孤児院、この屋敷と色々あったからな。
俺もそうだが、知らない大人や人に囲まれて、あまり気の休まる時も無かったようだし……風呂に入って体を温めた事で、疲れが一気に来たんだろう。
子供は時折、はしゃぎまわった後急に電池が切れたかのようになって、寝る事があるからなぁ。
「まだ……起きて……る……楽しい……から……」
「……今日は楽しかったかい?」
「う……ん……」
もうほとんど目が開いておらず、半分以上寝ているような状態で、俺の質問に答えるリーザ。
色々とはしゃいだり怯えたり、忙しかったが、リーザが楽しいと思ってくれるなら何よりだな。
「きっと、明日からはもっと楽しい事があるよ。だから、体を冷やさないうちに、もう寝よう?」
「う……ん。……わか……った」
「ワフ」
ふらふらとしているリーザの体を、ベッドに横たえさせ、その上から毛布を掛けて寝かしつける。
「すぅー……すぅー……」
「寝たか。気持ち良さそうだな」
「ワフ」
「お、レオは今日、そこで寝るのか。いつもよりベッドに近いな?」
「ワフワフ」
安らかに寝ているリーザの顔を見て安心し、レオも頷いた後ベッドの横で丸くなった。
いつものレオなら、俺が起きて立ち上がる時のために、少しベッドとの隙間を開けておいてくれるんだが、今日はほとんど体がベッドに張り付いてるくらいの場所だった。
「そうか……リーザがベッドから落ちても大丈夫なように、か。ありがとうなレオ」
「ワフ、ワフワフ」
これくらいは当然、とばかりに答えるレオは、そのまま目を閉じた。
リーザが横になってるのは、入り口から見てベッドの手前側。
寝そうなのにあまり動かしても……と思ってそこに寝かせた。
俺は奥に行って寝れば良いだけだし、それだけの広さがあるベッドだからな。
レオは、もしリーザの寝相が悪く、ベッドから落ちたり、寝惚けて落ちたりした時大丈夫なように、自分がクッションになるつもりのようだ。
今のところ、リーザは穏やかに寝ているので、大丈夫だとは思うが……子供はどうなるかわからないからな。
レオに感謝をしつつ、俺もベッドの奥へと行って横になった。
今日も色々あったなぁと思いながら、ラクトスの街での事や、屋敷での事を思い返しながら、リーザの寝息に誘われるように、俺も気持ちの良い眠りに就いた。
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「ん……んん……」
ゆっくりと意識が浮上し、眠りから覚める。
目を開き、ベッドから見える窓を見ると明るいのがわかり、朝だと理解する。
「ん~……っと。よく寝たな」
体を起こして軽く伸びをし、はっきりと目を覚まさせる。
そろそろティルラちゃんあたりが、元気よくレオに会いに来る頃かな……と考えつつ、ベッドを降りようとしたところで思い出した。
「あれ……リーザは……?」
昨日、スラムから連れて来た獣人の女の子……リーザを俺と同じベッドで寝かせたはずだ。
そう思って、リーザが寝ていたはずの場所を見てみると、そこには誰もいなかった。
シーツや毛布が乱れてるので、かろうじてそこに誰かがいたんだとわかるくらいだ。
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