獣人のママは人間ではありませんでした
「ん~と……ママ! です!」
「ワフ!?」
「ほぉ……そうきたか……はっはっは!」
「……まさかのレオ様……だなんて……負けた気分……でもレオ様なら仕方ないわね」
「くっ! シルバーフェンリルが相手だと、張り合う事もできそうにありませんわ……」
「レオ様なら納得です。優しいですからね!」
「レオかぁ……」
ちょっとだけ考える素振りを見せながら、リーザは座っていた椅子を降り、隣で我関せずと料理を食べていたレオに抱き着いてママだと言った。
今まで話には関わらないと思っていたからなのか、レオはひどく驚いた様子だ。
エッケンハルトさんは声を出して笑い、何故かクレアさんとアンネさんは悔しそう。
ティルラちゃんは納得するように頷いている。
確かにレオは雌だし、リーザから見れば大きくて頼もしいうえ、優しいから最適なのかもしれない。
獣人だという事で、狼の見た目をしているレオもあまり特別な物だとは見ないのかもしれないしな。
レオはシェリーを妹のように見守ってるし、子供も好きだから適任なのかもなぁ。
でも……レオってリーザより年下だったはずなんだが……。
リーザが確か7歳くらいで、レオを拾ったのが確か……5.6年前。
その時生まれたばかりくらいだったレオだから、リーザより年下なのは間違いない。
まぁ、犬の年齢を人間に換算とか、シルバーフェンリルは何年で大人になる……とかはあるから、一概に年数だけで判断できる事じゃないのかもしれないが……。
「リーザは、レオが好きかい?」
「うん! 優しくて温かいから!」
「そうかぁ。それじゃあレオがママだね」
「ワフゥ? ……ワフ」
レオが優しいのは確かな事だし、温かいのはあの毛に包まれたら当然だ。
今までそうやって抱き着いて甘える対象がいなかったんだろうと思われるリーザは、レオの体に抱き着いて満面の笑顔だ。
レオの方は、本当にそれで良いの? と言うように首を傾げてたが、リーザの笑顔を見て仕方ない……とでも言うように一鳴きした。
「タクミ殿がパパで、レオ様がママか。中々面白い結果になったな」
「お父様……面白がる事ではないとは思うのですが……」
「……どうしたらあそこに割り込む事ができるのか……」
「……キャゥ? キャゥ!」
「ワフワフ」
「キャゥー」
「きゃふっ。あははは!」
何やら話しているエッケンハルトさん達。
それとは別に、今まで行儀よく料理を食べていたシェリーが、椅子を降りてレオに近付いた。
リーザの事もあって、様子を見に来たみたいだ。
問いかけるように鳴いたシェリーは、レオが頷いて何やら伝えた事で納得したようだ。
仲間のようなものが増えたと感じたんだろう、嬉しそうに鳴いてリーザに顔を近づけてぺろりと舐めた。
シェリーなりの、歓迎するという表現なんだろう。
一瞬驚いたリーザだが、すぐに笑い始めた。
シェリーとリーザも、問題無く仲良くなれそうだな。
食堂にいる他の使用人さん達も、リーザ達の様子を朗らかに見てくれていた。
「失礼します。タクミ様、薬酒の用意ができました」
しばらく後、再開した食事を終える頃にヘレーナさんが食堂へ来た。
薬酒……そういえば、今日試飲する予定だったっけ。
「ありがとうございます。エッケンハルトさん?」
「うむ。そうだな、ここにいる者達で試してみよう。……クレアは少し控える必要があるか……」
「お父様、わかっています。昨日のような失態は致しません」
「……昨日のような事は、もうないと願いますわ……」
エッケンハルトさんに顔を向けると、ここの皆で試す事にしたようだ。
クレアさんは、少しだけ顔を俯けてしまったが、アンネさんはジト目でクレアさんを見ている。
いつもはクレアさんがアンネさんに何かを言う立場だが、こればっかりはアンネさんの方が優位なようだ。
まぁ、昨日あんなに飲まされ続けたらなぁ……。
「では、ご用意させて頂きます」
「うむ」
ヘレーナさんとセバスチャンさん、ライラさんも動き、皆の前に調合した薬を混ぜたワインが用意される。
それは、少なめにグラスへ注がれ、くすんだ色というか……赤茶色のような液体で、ロゼワインのような透明感は無かった。
薬を混ぜただけで、こんなに見た目も変わるのか。
「昨日の物より、量が少ないな? それと、透明感が無いな……」
「量に関しては、薬がまだ多く作られていないため、皆様に飲んで頂くのにはまだ十分ではありません」
「そのあたりは、俺とミリナちゃんの頑張り次第ですね」
「はい。そして透明感に関しては、薬を混ぜた段階でそうなりました。色も変わって行きましたので、薬の効果の一つだと考えております」
「そうか……。味の方は、問題無いのか?」
「今日はタクミ様が外出されておりましたので、代わりに料理人達で少量の試飲をさせて頂きました。……少々癖はありますが、問題無く飲める物になっております」
俺がいない間に、ヘレーナさん達で味を試してくれていたみたいだ。
本当なら、俺がやらなければいけない事かもしれないのに、申し訳ない。
とはいえ、一応ロゼワインを先に作って味の指標はできているのだから、ヘレーナさん達でも判断出来たんだと思う。
癖があるって言ってたが、どうなってるのか……。
味もそうだが、効果もどうなってるのか。
ちなみに、ティルラちゃんやリーザ、レオやシェリーにはいつもの通りブドウジュースが用意されてる。
さっき飲んで美味しかったと知ってるリーザは、用意されたグラスを見て満面の笑みだ。
「よし、飲んでみるか」
「はい」
「わかりました」
「そうですわね」
エッケンハルトさんの言葉で、それぞれがテーブルに置かれているグラスを手に取り、傾ける。
俺も同じようにグラスを口に近付け、飲むために傾けた。
……匂いは……あまりないな……ロゼワインよりも控えめで、ほとんど感じない。
これなら特に構える事も無いだろうと、グラスに口を付け、一口飲んでみる。
「……成る程な」
「ヘレーナの言っている事がわかりますね。確かに少し癖があるように感じます」
「私は少し苦手ですわ。これなら、昨日のロゼワインでしたかしら? あちらの方が美味しく飲めます」
「……口に入れた瞬間は良いんですが……後味が悪い……ですかね」
ワインを飲んだ皆が一口飲んで、グラスを置く。
エッケンハルトさんとクレアさんは、ヘレーナさんが言っていた癖がどういう物か理解し、頷く。
アンネさんは苦手なようで、顔をしかめていた。
俺は……苦手とまでは言わないが、ロゼワインと比べてしまうと、後味の悪さが際立つように感じた。
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