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307/1996

パパと呼ばれてしまいました



 レオが魔法で作り出した水を飲んだ後の帰り道、畏まったしゃべり方を止めたリーザが、急に俺の事をパパと呼んだんだ。


「パパ、助けてくれて、ありがとう!」

「お礼はいいんだけど……何でパパ?」

「ん? だって、お爺ちゃんが……子供に優しくしてくれて、守ってくれるのが親だって言ってたから。助けてくれて、優しくしてくれるから……パパ!」

「そ、そうなんだ……」

「はっはっはっは! 本当にタクミ殿は懐かれているな!」

「笑い事じゃないですよ、エッケンハルトさん。俺はまだ子供を持った事はないんですから……」


 俺とリーザの会話を、横で馬を走らせながら聞いていたエッケンハルトさんは、腹を抱えて笑ってる……馬の上でとか、器用だな。

 子供と接する事は多かったが、子供を持つ経験はないから、パパなんて呼ばれてもどうしたら良いのかわからない。

 そんな俺の戸惑いを感じたのか、リーザが顔を後ろにいる俺に向け、見上げて不安そうな表情をしてる。


「パパ……駄目だった? 私、親の事とかよくわからないから……」

「んー……そうだね……えーっと……」


 不安そうな顔でそう言われてしまうと、パパって呼ぶな! なんて言えない。


「それに……私、パパの名前……よく知らないから……あっちのオジサンが何度か呼んでるみたいだけど、覚えられなくて……」

「そ、そうか……うん。そうなんだね。……俺の名前はタクミだよ。タクミって呼んでくれたら良いからね?」

「……タクミ……んー、でもやっぱり、パパの方が言いやすいよ!」

「そ、そうかもしれないけど……俺はリーザのパパじゃないんだ。だから、パパと呼ぶのは……」

「駄目なの? 私はパパって呼びたい……それでも駄目なの?」

「あー、うー、えーっと……」

「はっはっは! これはタクミ殿には断れんな! 素直にパパと呼ばれても良いんじゃないか?」

「……エッケンハルトさん……他人事だと思って……」


 リーザにパパと呼ばれるのは、別に嫌じゃない。

 それだけ懐いてくれたって事だからな。

 でも、子供もいないのにいきなりパパって呼ばれるのには戸惑う。

 エッケンハルトさんも一緒に助けたんだし、あっちの方は実際クレアさんやティルラちゃんって言う、立派な娘がいるんだから、あっちをパパと呼んでもいいはずなのに……。


 それだけ俺の方に懐いたからか? それとも髭がないからか?

 まぁ、エッケンハルトさんが、年端も行かない子供にパパと言われるのは問題な気もするけどな。

 それこそ、衛兵さんが勘違いしたように、幼い女の子を誘拐したとか言われそうだ。

 ……日本だと事案になりそうだ。


 という事は……俺がパパって呼ばれた方がいいかもしれない……いやいや、俺はまだ結婚もしてないし、パパと呼ばれる年齢では……無いわけではないけど……しかし……。

 リーザに懐かれて嬉しくないわけじゃないんだが……それでも……やっぱり……でもなぁ……。


「……駄目なの?」

「……!」


 エッケンハルトさんが馬の上で、器用に笑いまくっているのをジト目で見つつ、頭の中で混乱していると、リーザからの駄目押し。

 下から上目遣いで見上げ、不安そうな顔に、しょんぼりと力なく垂れた尻尾と耳。

 それを見ると、駄目だなんて絶対言えない。

 こんな無垢な子供を見て、言える人がいるのか……いや、中にはいるかもしれないが、俺には絶対言えそうにない。


「わ、わかった。リーザ、これからはパパって呼んでいいよ……」

「やったぁ! パパ、ありがとう!」

「はっはっは! はっはっは!」


 混乱する頭の中は放っておいて、不安そうにしているリーザを安心させるため、パパと呼ぶ事を承諾して頷く。

 それを見たリーザは、満面の笑みになり、勢いよく尻尾を振って耳もピクピクしてる。

 獣人というか、リーザなりの喜びの表現なんだろう。

 これを見たら、俺の戸惑いとか関係なく、承諾して良かったと思えるな。


 ひたすら笑ってるエッケンハルトさんは、後でクレアさんとセバスチャンさんに説教されればいいんだ、全く。


「はぁ……これで俺も子持ちかぁ……まだ結婚すらしてないのに……」

「ワフゥ……」


 はしゃぐリーザと、笑うエッケンハルトさんを余所に、小さく呟いた俺の言葉と、走りながらのレオの溜め息が、後ろへと消えて行った。



「と、言うわけでして……リーザに押し切られたというか……何というか……」

「そうですか……わかりました。タクミさんが望んで、というわけではないのですね。一安心です」

「は、はい。それはもちろんです」


 屋敷に帰ってからの、俺がエッケンハルトさんへの扱いでちょっときつめだった理由と、リーザにパパと呼ばれ始め、断れなかった事を客間にいる皆に説明する。

 事情を聞いて、クレアさんはホッとした様子だが……そんなに俺って、小さい女の子が好きなように見えたんだろうか?

 ともあれ、クレアさんの雰囲気も、いつもの柔らかい雰囲気に戻って俺も安心だ。

 ……クレアさんを怒らせるような事はしないよう、気を付けないとな。


「タクミさんがパパ……という事は……」

「クレア、今はそれを考える時ではないだろう?」

「……そうですね。失礼しました」


 何やら少し考えるそぶりを見せたクレアさんだが、エッケンハルトさんに注意されて、意識をこちらへ戻す。

 何を考えてたんだろうか?


「先程も言いましたが、レオ様がその子を保護すると言うのであれば、私達公爵家はそれに反対する事はありません。シルバーフェンリルは、公爵家にとって敬うべき存在……特別ですからね。それに、今はもう家族のようなものですから」

「ワフ」


 クレアさんが決心するように、真剣な表情でその場の皆に宣言するように言い放ち、エッケンハルトさんやセバスチャンさん、部屋にいる人達皆が頷いた。

 それに対し、レオはクレアさんに感謝するように頭を下げて一鳴き。

 リーザは、自分の事を話されてるのは何となくわかってるみたいだが、話の内容がよくわからなくてキョトンとしてる。

 まぁ、エッケンハルトさんやクレアさんが公爵家だとか、シルバーフェンリルが特別だとか、そこまでの事はまだリーザは知らないからな。

 ゆっくり理解して行けば良いと思った。



読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

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面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。

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■7巻書影■mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


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神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移


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申し訳ありません、更新停止中です。
夫婦で異世界召喚されたので魔王の味方をしたら小さな女の子でした~身体強化(極限)と全魔法反射でのんびり魔界を満喫~


― 新着の感想 ―
[気になる点] これはママの座争奪戦の流れになる?
[一言] ママはレオだろうなぁ
[気になる点] お兄さんじゃ駄目なのだろうか。タクミ殿もそこまで歳はいってない…はず?
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