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304/1996

リーザと普通に話すようになりました



「私は、貴族だし……領地も持っている。一人に感情移入をして、贔屓をするつもりはないのだが……この子は救わねばならんな。レオ様に言われなくとも、そうする事が正しいと思える」

「……そうですね。今までどんな扱いをされて、どうやって生きて来たのか……想像するだけでも苦しくなります……」


 これは単なる同情なのかもしれない。

 一人を助けても、他に苦しんでいる人はもっといる……だからと言って、目の前の一人、リーザを助けないという事は考えられない。

 エッケンハルトさんは、領主で公爵様だ。

 誰かを贔屓する事があっては、領民は不公平だと思う事もあるかもしれない。


 それでも、目の前のリーザを助けないと言う事はできないようだ。

 ……人の事は言えないが、人情家っぽいしな。

 偽善と言われても、この子を見捨てる事は俺にはできそうにないし、見捨てない選択をするエッケンハルトさんを支持したいとも思う。


「まぁ、こういう事は後々考えるか……」

「先延ばしですか?」

「そうとも言うがな。とはいえ、まずは目の前の事からだ。先の事を考えるのも良いが、目の前の事を解決しない事には、先には進めんからな」

「……そうですね」

「?」

「ワフ」


 溜め息を吐くように呟くエッケンハルトさん。

 その考えに、俺も同意するように頷く。

 俺もエッケンハルトさんの事は言えないからなぁ……。

 この世界で生きて行く事はできそうだが、この先何をするかとかはあまり考えていないし……レオとのんびりするくらいが予定としてあるくらいだ。

 クレアさんやライラさんも……これは、置いておこう、うん。

 先延ばしと言われても、今はまだ……な。


 俺達の事をキョトンとした顔で見ているリーザ。

 ティルラちゃんよりも小さいのだから、こういう話は理解出来なくても無理はないだろう。

 勉強とかもした事ないだろうしな……そもそも、この世界で貴族以外の人の学習方法はどうやってるのだろう?

 そう考えながら、屋敷へと帰るためリーザと一緒にレオの背中に乗り、エッケンハルトさんは馬へと跨った。

 ……顔を隠してる布のせいで不審者に見える以外は、馬に乗る姿は絵になるなぁ。



「ありがとう……ございます」

「ん? どうしたんだい?」


 レオに乗って走る中、急にリーザが俯き加減でお礼を言った。

 どうしたんだろう?


「いえ……その……あんなに美味しいお水を……頂いて……」

「なんだ、そんな事か。それくらい何てことないよ。それに、お礼はレオに言ってくれるかい? 水を魔法で作ったのは、レオだからね」

「うん……じゃなかった……はい!」


 ただの水だから、お礼を言われる程の事でも無い気がしたが、そのただの水であってもリーザにとっては嬉しい事だったんだろう。

 帰ったら、俺もお礼を含めてしっかりとレオを褒めておかないとな。

 それに、屋敷に戻ったらヘレーナさんに頼んで、ブドウジュースを出してもらおう。

 きっと、水を飲んだ時よりも驚いて、喜んでくれるだろうなぁ。

 そんな事を考え、リーザの喜ぶ顔を想像しながら、少しだけ気になってる事をリーザに切り出した。


「その……リーザ? 無理して丁寧な言葉にしなくても良いんだよ?」

「え?……でも、お爺ちゃんが大人の人にはそうしろって……」

「俺相手には、そんな無理をする必要はないからね。リーザが喋りたいように喋っていいんだよ。リーザも、これから先ずっとそんな丁寧な言葉を話そうとしてたら、疲れてしまうかもしれないだろう?」

「はい……わかり……ました」

「……そうじゃなくて?」

「えーと……はい……じゃなかった……うん、わかった!」

「それで良いんだよ」

「ワフワフゥ!」


 何となく、リーザが無理して丁寧な言葉を使っているように感じていた。

 ところどころつっかえるように、たどたどしく話すのはそのせいかな? とも。

 リーザには、安心して接してもらいたいから、話しやすい喋り方で話すように言った。


 まだちょっと不慣れなようだけど、いずれ慣れてくれるだろう。

 照れたように見えるリーザに、微笑みながらゆっくりと頭を撫でてあげた。

 レオも嬉しそうに鳴いているな……リーザの事がよっぽど気がかりなんだろう。

 もしかしたら、シェリーの時と同じく、お姉さん的な感覚なのかもしれないな。


 俺も、リーザのお兄さんとして……リーザに懐かれるように頑張ろう。

 ……決して、決してリーザのオジサンとかではないぞ? うん。



「エッケンハルトさん、良いんですか?」

「ん、何がだ?」


 あれからしばらく。

 馬と一緒にレオが走って、日が完全に沈む前には屋敷へ帰り着いた。

 あれから帰る途中、ひと悶着というか……驚く事もあったにはあったのだが……。

 今は、レオから降りて、馬を護衛さんに預けて玄関前だ。

 リーザは、たどり着いた場所がこんなに大きな屋敷だとは考えて無かったらしく、目を見開いて驚いている。

 子供らしく、あちこちキョロキョロしてるのは、好奇心みたいなものが出てるのかな?


 そんな屋敷に入る前。

 意気揚々と屋敷に入ろうとしたエッケンハルトさんを、呼び止める。

 もしかして、忘れてるのかな?


「いえ……布をまだ巻いているのは、リーザに髭を見られないためでしょうけど……そのまま正面から入って良いんですか?」

「何故だ? 私が屋敷に入る事の何がいけないのだ?」

「いけないというわけではないんですけど……」


 エッケンハルトさんはラクトスへ行くため、屋敷を抜け出してきた身だ。

 俺以外の誰にも言わず……一応書置きはして来たみたいだが、セバスチャンさんやクレアさんにも何も言っていない。

 それなのに、このまま正面から帰って良いのだろうか?


 というか、護衛さん達は、よく布で顔を隠してもエッケンハルトさんだってわかったな……。

 よく見知ってるから、背格好とか、雰囲気でわかったのかもしれない。


「誰にも言わずに出て来たじゃないですか? それなのに、正面から帰っても……」

「……そういえば、そうだったな。忘れていた……どうするか……」

「まぁ、セバスチャンさんあたりは、すでに気付いていそうですけどね……」

「タクミ殿……やはりそう思うか?」

「あのセバスチャンさんですからね……気付かないと思う方がおかしいかと思います。そこからクレアさんに知らされて……」

「くっ!」


 セバスチャンさんだけなら、何とでもなるかもしれないが……クレアさんに知られたとなると、説教は免れないだろう。

 それを想像したのか、頭を抱えてしまうエッケンハルトさん。

 とは言え、ここまで来てしまった以上……もうどうしようもないんだけどな……下手したら、この話し声も玄関ホールに聞こえていそうだし……。

 こっそり裏から入る事ができたとしても、バレてたら意味はないしなぁ……。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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