アンナさんに事情を話しました
「では、こちらへ」
「……えっと?」
「この人達は大丈夫だから、行っておいで。体を綺麗にしてくれるからね?」
「……うん、わかりました」
お風呂の用意ができたため、アンナさんがリーザを連れて行こうとするのに対し、リーザは戸惑っている様子だ。
知らない場所に連れて来られて、知らない人に連れて行かれそうになったら、そうなるのも無理はないか
目を合わせて、大丈夫だと笑って伝えると、頷いてアンナさんの所へ行くリーザ。
俺の事を信頼してくれてるとわかる仕草が、少し嬉しいな。
「懐かれているな……?」
「そうなんですかね? まぁ、怖がられたりしないように、気を付けてはいますが……」
「ワフワフ!」
「きゃっ! きゃっ!」
以前にも来た中庭で、レオと子供達が遊ぶ様子を見ながら、エッケンハルトさんと話す。
出会った時が怯え切った状態だったため、リーザに怖い思いをさせないように気を付けてはいるけど、上手くいってるかどうか……。
ここに来る途中、色々話したリーザの表情を考えると、ある程度は警戒心を解いてくれてると思いたい。
むしろ、俺よりレオに懐いてると思うんだがなぁ……クシャミのおかげで。
「タクミ様、リーザちゃん……でしたか? 湯浴み場に連れて行き、他の者に任せて来ました」
「ありがとうございます。すみません、いきなり来てお風呂を貸してくれなんて……」
「いえ、タクミ様にはお世話になっておりますから。それに、レオ様と遊ぶ子供達も楽しそうですし。いつ来られても歓迎致します」
リーザを他の人に任せ、お風呂に入れて来たアンナさんが戻って来た。
改めて、急に来た事とお風呂を貸してもらった事にお礼を言っておく。
アンナさんはレオと遊んで笑顔になっている子供達を、眩しそうに見ながらそう言うが、実際はレオの方も楽しそうだからな。
子供好きのレオにとっては、ここは楽園なのかもしれない……リーザみたいに、怖がる人もいないしな。
「えぇと……それで、そちらの方は……?」
「ん? 私か?」
「……顔を隠したままですよ?」
「おぉ、そうか。そうだったな。……院長、久しいな」
「……公爵様?」
「うむ」
「こ、これは失礼を致しました! まさか公爵様だとは思わず!」
「構わん。今まで通りで良いぞ。顔を上げなさい」
「……はい」
アンナさんは、俺の隣に佇んでいるエッケンハルトさんが気になったようだ。
顔を布で覆っている事を忘れていたエッケンハルトさんは、俺の言葉で巻いていた布を外し、アンナさんに顔を見せる。
いつものような強面の顔が現れ、一瞬アンナさんがキョトンとしてから、理解が駆け巡ったんだろう。
急にその場に平伏した。
エッケンハルトさんは、アンナさんに顔を上げるように言い、立ち上がらせる。
「それでその……あの子は一体?」
アンナさんは、エッケンハルトさんの事が気になるのか、そちらをチラチラと見ながら俺へ声をかける。
エッケンハルトさんの方は、苦笑して説明を俺に任せるようだ。
「さっきの事なんですけどね……レオに先導されて、ラクトスの北側へ行って来たんです」
「北側……あのような危険な場所に?」
アンナさんは、北側の一部がスラムになっている事を知っているようだ。
それはそうか……孤児院をしているんだから、孤児の集まりそうな場所は知っているだろうし、危険だと子供達に教えないといけない立場だしな。
「ええ。最初は行くつもりはなかったんですが……レオが何かを探すように向かいましてね。そこで、イジメられていた子を発見しました」
「イジメられていた……獣人だからでしょうね」
「多分、そうだと思います。それで、囲まれているのを見て思わず助けたんですが……色々と汚れていましてね……どうにか体を綺麗にするため、ここに連れて来る事にしたんです」
「成る程、そういう事でしたか。ですが、獣人の女の子ですか……」
事情を説明し、何故ここに来たのかを納得したアンナさん。
だが、リーザが獣人である事を考え、また難しい顔をさせる。
スラムでもそうだったが、獣人という事で何かあるんだろうか……?
「獣人だと、何か問題があるんでしょうか? すみませんが、俺はあまりその辺りの事情に詳しくなくて……」
「ふむ、そうだな……タクミ殿には、獣人の事を話しておかねばならんか。院長、頼めるか?」
「畏まりました」
俺が首を傾げ、アンナさんとエッケンハルトさんに対して聞いた。
エッケンハルトさんが頷いてアンナさんに任せ、獣人に関して説明を受ける事に。
レオは子供達と遊んでいるし、リーザはもうしばらくお風呂から出て来ないだろうから、今のうちに色々知っておかないとな。
というか、こうやってエッケンハルトさんが、誰かに説明させるから、セバスチャンさんが説明好きになってしまったんじゃ……?
と思うが、今は関係ないので頭の隅に追いやっておこう。
「あれは……まだ私が子供の頃だったので、30年程前でしょうか……獣人の国と、この国とで戦争があったんです」
「……正確には、32年前だな」
アンナさんが思い出すように話し始めた事を、エッケンハルトさんが補足する。
32年前か……多分、その頃はエッケンハルトさんも子供だったんだろうな。
「この公爵領は、戦火に見舞われたりすることはありませんでしたが、戦場になった場所では、壮絶な戦いがあったと聞き及んでおります」
「隣国とは聞きましたが、そんなに仲が悪かったんですか?」
「さぁ……私には、国家間の関係はよくわかりません……」
「基本的に仲は良かったんだがな、ちょっとした問題が起こって、関係が悪化したようだ。ちなみに、獣人の国はこの国の北側で、この公爵領は国の南側にある。北側での戦争だから、この地は無事だったわけだな」
戦争か……国家間の殺し合い……と考えればすぐに想像がつく。
国の威信をかけたりだの、領土の奪い合いだの、様々な理由があるんだろうと思う。
エッケンハルトさんは公爵様だから、ある程度の事情を知っているのかもしれないが、ここで言わないという事は、公表できない理由でもあるのかもしれない。
あまりこういう事に首を突っ込むのも問題だろうから、掘り下げたりはしないようにしよう。
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