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少女を孤児院へ連れて行きました



「び、びっくりしたの……」

「ワ、ワフ! キューン、キューン……」

「あー、これはさらに洗う必要が出たな」

「そうですね……レオ、鼻を撫でられ続けてムズムズしたんだな……」


 べとべとになって呆然としている少女に気付いたレオが、済まなさそうに顔を舐める。

 ……自分の鼻水や唾で汚れた女の子を舐めるって……とは思ったが、レオなりの謝罪なのだろう。

 エッケンハルトさんと顔を見合わせ、苦笑しながら近づいて行った。



「そう言えば、名前は?」

「えっと……リーザです!」

「リーザね。いくつなのかな?」

「んー、7歳……だと思います」

「思います? 自分の年齢がはっきりわからないの?」


 リーザと名乗る少女を連れて、湯浴みをするため孤児院へ向かう途中、レオの背中に乗って首に抱き着いてるリーザと話す。

 最初はレオに怯えてたリーザだが、接しているうちにレオに慣れてくれたようで、今では信頼しきってるように抱き着いている。

 一番の原因は、レオがクシャミをぶっかけた後、済まなそうにしている顔を見たかららしい。

 ……あの後、笑い始めたリーザはべとべとのままレオに抱き着いてた。

 獣人だから、人間とは信頼する基準が違うのかもしれない……と思ったが、それは差別っぽかったので考えるのは止めておいた。


「どこでいつ生まれたのか、わからないんです……気付いたら、お爺ちゃんと一緒で……お爺ちゃんが言うには、私を拾った時は、生まれてそんなに経ってなかったらしいです……」

「……捨て子……か。拾われて7年って事なんだろうな。……スラムではよくある事と聞いた事はあるし、そのための孤児院でもあるのだが……むぅ……」


 俺と話すリーザの言葉を聞いて、俺の横でエッケンハルトさんが難しい顔をして呟く。

 統治する側としては、難しい問題だし、頭を悩ませる事なんだろう。


「……そのお爺ちゃんっていうのは、どうしたの?」

「……ちょっと前に死んじゃいました……」

「ごめん、辛い事を思い出させちゃったかな?」

「ううん。いいんです。優しいお爺ちゃんだったから……忘れないようにしないといけません」

「……そう、強いね」


 思い出して目に涙が溢れてしまうリーザを見る。

 本当にその育ててくれたお爺ちゃんが好きだったんだろう。

 辛い事を忘れず、前を向こうとするリーザは、素直に強い子だと思った。


「でも、どうしてイジメられてたの?」

「お爺ちゃんが死んでから、周りの皆からイジメられるようになったんです……理由は……多分、私が獣人だから……」

「その爺さんが、スラムに住む者達からの防波堤のようになっていたんだろうな……早く気づいていれば、こんな不遇な目に遭わせる事は無かったのだが……」

「……獣人だからってだけでイジメられるんですか?」


 リーザのお爺ちゃんがいたから、今までイジメられなかったのか……でも、何故こんな小さな子供がイジメられないといけないんだろう……。

 獣人というだけで、そういう対象になる事に、俺は理解ができない。

 むしろ、日本だと一部の人に可愛いとちやほやされそうだけどなぁ……。

 幼さが目立つ顔に、尻尾や耳が付いてるとか……。

 いや、俺はそんな趣味じゃないけどな?


「まぁ、そのあたりは後で説明しよう。今は、この子を綺麗にするのが先決だ」

「……わかりました」


 難しい顔をしているエッケンハルトさんにそう言われ、俺は孤児院への道のりを急ぐ事にした。

 リーザは、汚れてる事をあまり気にしてなさそうだったが、子供を傷や土で汚れてる姿のままにはしておけない。

 ……今汚れてべとべとになっているのは、レオのせいなんだけどな。

 大量の唾や鼻水で、土汚れが多少流れたのは……良い事なのか、悪い事なのか……微妙だな。


「……でも、イジメられててもよく泣かなかったね?」

「……痛くて泣きたかったですけど……でも、お爺ちゃんが死んでから、いっぱい泣きましたから。お爺ちゃんのためにも、泣かずに耐えて生きて行こうって思ったんです」

「……そう……偉いね……」


 今も、お爺ちゃんの事を思い出して、目がウルウルしてはいるけど、涙を流すまでにはなっていない。

 必死に涙を流さないように耐えてるんだろう。

 子供にここまで考えさせるなんて……と、イジメていた人達に怒りが沸いたが、それを表には出さないように気を付けた。

 後でいっぱい、よく頑張ったと撫でてあげよう……今は、レオに乗ってるから手が届かないしな。



「お久しぶりです。アンナさんは今、いますか?」

「はい? タクミ様!? それにレオ様も! お久しぶりでございます! 今、院長を呼んで参ります!」

「ワフ」

「お願いします」


 孤児院に到着し、掃除をしていた女性に話し掛ける。

 以前来た時も、掃除していた人だったな……いつもしているのかな?

 罰ではないだろうが、多分、それがあの人のここでの仕事なんだろう。


「お待たせしました。タクミ様、本日はどのようなご用件で?」

「アンナさん、お久しぶりです。今日はその……ちょっとお風呂を借りたくてですね……」

「お風呂ですか? まぁ、その子が!?」

「はい。すみませんが、借りられますか?」


 掃除をしていた女性に連れられ、孤児院の中からアンナさんが出て来た。

 久しぶりの挨拶をし、お風呂を借りたいと伝え、レオに抱き着いてるリーザを見せる。

 リーザを見たアンナさんは、汚れているその姿を見て理解したようだ。

 レオに乗って首に抱き着いてるリーザの方は、知らない場所に連れて来られて、キョトンとしている。

 怯えたりしないのは、アンナさん達に敵意がないとわかっているからかもしれない。


「その子供は一体……それに獣人ですか……。いえ、わかりました。すぐに湯浴みの用意を致します」

「すみません、お願いします」

「畏まりました。貴女、お願いしますね」

「はい、すぐに!」

「ワフワフ?」

「ん? あぁ、そうだな。すみません、院長。子供達は元気ですか?」

「え、はい。今も元気に中庭で遊んでいますが……?」

「レオがここにいる子供達と遊びたいようなので……大丈夫ですか?」

「はい、それはもう! 子供達もきっと喜びます!」


 リーザを見て、すぐに獣人とわかったアンナさんは、少し難しい顔をしたが、すぐにお風呂の準備をしてくれるみたいだ。

 掃除をしていた女性に指示を出し、孤児院の中へ向かわせてくれた。

 それを見送った後、レオが子供達を気にするように言っていたので、アンナさんに聞いて遊ばせても良いかを聞いた。

 以前来た時も、子供達と一緒に遊んでたから、喜んでもらえそうだ。





読んで下さった方、皆様に感謝を。


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