少女をどうするか相談しました
「狼さん、食べられるなんて言って……ごめんなさい」
「クゥーン……」
「きゃふ!」
「ワフ? キューン、キューン……」
「大丈夫、驚いただけだから」
少女は、恐る恐るだが手を伸ばし、近づいて来たレオの鼻の頭を小さな手で撫でる。
大丈夫だと思ったのか、レオがさらに顔を近づけ、少女の顔を大きな舌で舐めると、少女は驚いて声を出す。
その声に、レオの方が驚いて、謝るように情けない声を出したが、少女の方は笑ってまたレオの鼻を撫で始めた。
もう大丈夫そうだな。
しかし、よく見てみると、少女の顔は結構汚れてるな……。
さっきの子供達に囲まれてやられたのか、顔にも殴られたような跡がある……もしかして、それを見てレオは顔を舐めたのかもしれない。
いや、レオは愛情表現というか、ちょっとしたスキンシップのつもりで舐めるからな……あまり考えて無いかもしれない。
「……エッケンハルトさん、この女の子って……」
「うむぅ……獣人か……この国では珍しいな……。だから囲まれてイジメられていたのだろう……」
「獣人、ですか……?」
レオに怯える事が無くなった少女に安心しつつ、エッケンハルトさんの方に近付いて小声で話す。
頭を見たり、背中……正確にはお尻の近く……を見て驚いたのは、少女には人間には本来ないはずの、耳と尻尾が付いていたからだ。
犬……というよりも狐に近いかな。
ピンと立っている三角耳に、レオの毛くらいフサフサしている尻尾……触ったら気持ち良さそうだ
少女の尻尾に触ると気持ち良さそうとか、事案的な事は置いておいて……エッケンハルトさんは獣人と言った。
獣人か……魔物以外に、ここが日本とは違う異世界なのだとはっきりとわかるものが出て来たなぁ。
「うむ。隣国には獣人の国があるのだがな。この国は人間ばかりが住む国で、獣人を見る事は少ない。全く見ないわけではないが……ここ数年では本当に稀な事だな」
「獣人……そうなんですか。本当にそういう存在がいたんですね……」
「タクミ殿は、見た事がないのか?」
「はい。以前住んでいた場所では、獣人は想像上の生き物でしたから……」
エッケンハルトさんと話しつつ、さっきまでの怯えがなくなり、レオの鼻を撫でている獣人の少女を見る。
その頭から生えている耳は、茶色っぽいが今は黒く、尻尾も同じだ。
よく見てみると、服も肌も土や傷が付いて汚れており、正直、これくらいの小さな女の子がしていて良いと思えるような姿じゃなかった。
レオと子供が一緒にいても、微笑ましく思えない状況ってあるんだなぁ。
「エッケンハルトさん、とにかく少女を綺麗にしないといけませんね。怪我もしているようですし……」
「そうだな。さっきのような事が再び起こるかもしれん。ここにこのまま置いておく事はできないだろう。しかし……どこに連れて行くか……宿にでも連れて行くか? そこなら湯浴みもできるだろう?」
「そうですね……それなら良さそうです。でも……」
「何か気になる事でもあるのか?」
「いえ……傷だらけの少女を宿に連れて行くって……外聞があんまりよくないなぁ……と……」
「そうか?」
俺がそう思うだけかもしれないけどな。
日本で考えると、怪我だらけの女の子を宿……ホテルにオジサンと一緒に連れて行くなんて……即通報されてもおかしくないしなぁ……。
どう見ても、親子とかには見えないだろうし。
さらに、レオを連れてるから、目立つ事請け合いだ。
まぁ、この世界ではどう見られるかはわからないが……どちらにせよ、あまり良い目で見られるとは思えない。
エッケンハルトさんはあまり、そういう事を気にしないのだろう、俺の言葉に首を傾げるだけだ。
まぁ、周囲にどうみられるか気を付けてるような人なら、髭も綺麗に剃ってるだろうしな……。
近くにクレアさんがいたら、溜め息を吐いてそうだ。
「誰か知り合いの所なら良いんですが……あ、カレスさんの店はどうでしょうか?」
「カレスなら、特に問題にもならないだろうが……あそこは物を売る店だからな……湯浴みはできないだろう」
「そうか……そうですね……」
ラクトスの知り合いと考えて、真っ先に思いついたのがカレスさんの店だったけど、確かにエッケンハルトさんの言う通り、薬草を含め、物を売るだけの店なんだから、そういった設備はないか……。
街の中でも大きな建物だから、ちょっと期待したけど……。
同じ理由で、イザベルさんの店も駄目だろう。
こうなったら、店の誰かの家まで連れて行ってもらうか……?
という事まで考えて、一つ良い場所が浮かんだ。
「迷惑かもしれませんが……孤児院はどうでしょうか?」
「孤児院か。あそこなら、この子を連れて行っても大丈夫だろう。湯浴みもできるしな。それに、あそこなら院長が教育しているから、ここと同じ事にはならないだろうな」
「ほ……良かった」
孤児院は、ミリナちゃんのいたところだ。
事情を話せば院長……アンナさんなら、体を綺麗にしてくれるだろう。
……今更だけど、俺とエッケンハルトさんの二人という、男二人で少女を湯浴みさせて綺麗にさせるつもりだったんだと理解した。
危ない所だ……さすがにおっさんと二人で女の子をお風呂に入れるなんて、犯罪としか思えない……。
レオがこの子をお風呂に入れるなんて、できないだろうしな。
「……ん?」
「どうした?」
「いえ、レオが……」
孤児院に連れて行く事を決め、レオと少女の方へ行こうと思った時、様子がおかしい事に気付いた。
少女はさっきまでの恐怖を忘れたような笑顔で、レオの鼻を小さな手で撫でている。
けど、レオの方は体を震わせて何かに耐えるようにしてる……何だ?
「ワ……ワ……」
「どうしたの、狼さ……」
「ワッフシュン!!」
「きゃふ!」
レオが口を開け、何かに耐えるようにしている様子に、少女が気付き、顔を口元に近付けた時だった。
全身を震わせ、おもいっきりクシャミをしたレオ。
その口や鼻からは、大量の唾や鼻水が飛び散り、間近にいた少女に直撃。
驚いて声を上げた少女は、レオの唾でべとべとになりながら呆然としていた。
地面まで結構濡れてるし……体が大きいと、クシャミも強力だな……今度からレオの鼻には気を付けようと思う。
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