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小さな少女がいじめられていました



「わかった。……エッケンハルトさん」

「うむ。あまりここでの揉め事には関わらない方が良いのだが……レオ様がそう言っているのなら、行くしかあるまい」

「はい。……俺が先に行くので、エッケンハルトさんは後ろから来て下さい。……レオは、回り込んで向こうへ行ってくれ。事は、向こうの通りで起きてるんだろ?」

「わかった。タクミ殿、気を付けるんだぞ?」

「ワフ」

「はい」


 簡単に打ち合わせをして、エッケンハルトさんとレオが了承したのを見て、俺は隙間に入った。

 エッケンハルトさんは俺の後ろで剣を鞘から抜いて警戒。

 もし後ろから何かされても大丈夫なように、しているみたいだ。

 レオは、俺の言葉を聞いて頷いた後、すぐに回り込むように建物を迂回するため走り出した。

 さて、この向こうはどうなってるのか……。


「さっさといなくなれよ! おい!」

「人食い種族が! こんな所にいるんじゃねぇよ!」

「ほら! ほら! ほら!」

「……っ! ……っ! ……っ!」


 隙間を抜けたところは、元々何か建物があった場所なのか、ぽっかりと開いていて10メートル四方くらいで空き地になっていた。

 その場所に、先程聞こえた争うような声……というより、一方的に何者かを責めるような声が聞こえる。

 空地の真ん中で、子供が一人、蹲っていて、それを3人の子供……中学生か高校生くらいに見える……が囲んで殴ったり蹴ったりしている。

 真ん中に蹲っている子供は、声を出さないようにしてひたすらそれに耐えてるようだ。


「おい、お前達! なにしてるんだ!」

「あぁ? なんだよオジサン」

「うるせぇな、黙ってろよ」

「俺達は人食い種族を退治しようとしてるんだ」

「人食い種族だって……?」


 思わず声を出して子供達の前に出た。

 どんな理由があるにせよ、小さな子供を複数で囲んでイジメるのは、良い事には見えない。

 囲んでイジメていた子供達が、一斉に俺の方を向いて声を出す。

 ……ちょっと、ちょっとだけ、オジサンと言う言葉に傷ついたが……今はそんな事に構ってる状況じゃないな。


 子供達が言った言葉、人食い種族というのにはちょっと引っかかったが、見ると囲まれていたのは小さな少女だ。

 蹲っているから、顔まではわからないが……多分ティルラちゃんよりも小さい。


「どんな理由があっても、よってたかって小さい子をイジメるのはいけない事だろう!」

「何言ってんだこのオジサン」

「こいつは人を食うんだよ! だから、いまのうちに退治しておかないといけないんだ!」

「小さいとかそんなの関係ねぇ! こいつは魔物と一緒なんだ!」

「だからって、それはお前たちのやる事じゃないだろ。もし本当にその子が人を食うのなら、衛兵に任せれば良い事だ」


 俺からすると、頭を押さえて蹲っている子は、人にしか見えない。

 人の形をした魔物がいるのかどうか……というのは、魔物に詳しくない俺にはわからないが、こんな所に魔物なんているのか?

 人の形の魔物……オークは二足歩行だったが、見るからに豚の見た目だったし、蹲っている子はそんな風には見えない。


 それに、本当にその子が魔物だとして、子供達が集まって退治しなくとも、衛兵に頼めば何とかしてくれるはずだ。

 さすがに、スラムと言えど、魔物が入り込んでいたら衛兵も動いてくれるだろうしな。


「へん! そんな事言って、手柄を独り占めする気だな、オジサン!」

「いや、そうじゃなくてな?」

「いいからあっちに行ってろよ! この魔物は俺達が退治するんだから!」

「いい加減にしないと、オジサンも退治するぞ!」

「……エッケンハルトさん……」

「ふむぅ……タクミ殿、子供相手に大人げないとは思うが……ここは実力行使しかないかもな。あまりこういった場所で武力を行使するのは、お勧めしないが……」

「まぁ、周りの人を刺激しそうですしね……」

「うむ。下手をしたら、スラムの者達とも戦う事になる」

「でも、見逃すわけにも……」

「そうだな。タクミ殿の考えに私も賛成だ。仕方ない、やるか。手加減はするんだぞ?」

「……そうですね。さすがに、命までは取ったりしませんよ」


 今ここでこうしている間にも、さっきまで俺達を見ていた人達が周囲に集まって来ている。

 スラムの仲間が何かされるのなら、あからさまに外から来た俺達は、明確な敵……という事か。

 家の隙間を利用すれば、多少動きづらくとも、複数の人間を一度に相手にする事は無くなるから、何とかそれで持ち堪えられるだろう。

 達人のエッケンハルトさんもいるし、負ける事はないだろうし、騒ぎが怒れば衛兵が気付いて駆けつけてくれるかもしれないしな。


 エッケンハルトさんを、危ない目に遭わせてしまうのだけは、頂けないけどな……。

 後で、セバスチャンさんやクレアさんに怒られそうだ。


「ガウ!」

「な、なんだ!?」

「ひっ!」

「ま、魔物だ! 狼の魔物だ!」


 エッケンハルトさんと蹲っている少女を助けようと覚悟を決めた時、俺達から離れていたレオが、別の方向から走り込んできた。

 早かったな……レオ。

 子供達は、レオを見て怯え、周囲に集まりかけていた人達は、散り散りになって逃げて行った。


「グルルルルル……ガウ!」

「ひぃ! 助けてくれー!」

「魔物が、魔物がー!」

「襲われるー!」

「……あっさり逃げたな」

「そうですね。レオのおかげで、余計な戦闘は避けられた……んですかね?」

「そのようだ」

「ワフ!」

「よしよし、レオ、偉いぞー!」


 レオが子供達に対して、唸り、吠えると、全身を震わせながら、子供達も逃げて行った。

 周囲には、俺とエッケンハルトさんとレオ、それに未だ蹲っている少女だけが残る。

 あっさりと皆が逃げて行った事に安心していると、レオがどうだと言わんばかりに得意気になっていたので、体をワシワシと撫でて褒めておく。

 おかげで、無駄な戦闘をしなくて良くなったし、エッケンハルトさんも巻き込まなくて済んだからな。


「さて、そこの子供をどうするか……」

「……ここに置いておいても、またさっきの子供達に狙われそうですよね……」


 剣を鞘にしまい、エッケンハルトさんが少女を見て呟く。

 少女は、体を震わせたまま、まだ蹲っている。

 レオが吠えたから、もしかするとさらに怯えさせてしまったのかもしれない。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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