帰路に就こうとした所で忘れてた事を思い出しました
しばらくハインさんの案内で商品を見ていたら、いずれ必要になるだろうからとセバスチャンさんに勧められて、革袋を大小2つずつ買った。
大の革袋は人の顔くらいの大きさで、小の革袋は拳より少し大きめのサイズだ。
これは、この世界のお金を入れるためのいわば財布のような物らしい。
この世界でのお金に紙幣は無く、全て硬貨みたいだから財布も長財布だとかそんな物は無くて袋の形になるんだろうな。
他に、出かける場合等に荷物を入れて運ぶための鞄。
鞄というより、紐が一つだけのナップサックと言った方が解りやすいかもしれない。
丈夫そうな太めの紐一本を引っ張れば口が閉まり、その紐を肩に掛けナップサックを背中側にして持つのが一般的らしい。
あとはいくつかの小物を買い、お会計。
お会計はセバスチャンさんにお任せだ。
すみません、お世話になります。
会計前、クレアさんから離れてセバスチャンさんと少しだけ内緒話をする。
「すみません、セバスチャンさん。ちょっといいですか?」
「おや、何ですかなタクミ様。まだ他に入用の物がございましたか?」
「いえ、そうでは無くてですね。この二つの装飾品も買いたいんですけど……」
「ふむ。タクミ様はそのような装飾品を身に着ける方とは思いませんでしたが?」
「いえ、俺ではなくてですね。……その……クレアさんとティルラちゃんに……」
「成る程、プレゼントですな」
「そうなんですが……セバスチャンさんも知っての通り、今の俺はお金を持っていません」
「そうですな」
「いずれ必ず返しますので、今回は貸しという事にしてもらえませんか?」
「ふむ……装飾品を買うくらい簡単な事ですが……これはタクミ様からとした方が良い物でしょうからね。わかりました」
「ありがとうございます! すぐにでもお金を稼いで返しますから!」
「ほっほっほ、そんなに焦らずともゆっくりとこの世界に慣れてからでも良いのですよ」
「それはなんだか悪い気がしますから」
「そうですか。タクミ様は律儀な方ですな」
そんな会話をしつつ、俺は見つけた商品、片方は綺麗な花の髪飾り、もう片方は銀色の狼を模した物が付いてるネックレスをセバスチャンさんに渡した。
「本日はありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
「ええ、また来るわね」
「ハインさん、ありがとうございました」
買い物を終えた俺達は荷物を持って馬車を預けた広場へ向かう。
もちろん、荷物の大半は俺が持ってる。
俺が使う物だからな、セバスチャンさんや護衛さん達に持たせて煩わせるわけにはいかない、もちろんクレアさんにもだ。
服もあって少しかさばるが、持てない重さじゃない。
店から出た俺に尻尾を振って近づいて来たレオを撫でつつ、俺達は広場へ向かった。
「先程の騒ぎがあったからか、少々遅くなってしまいましたね」
「そうですね。帰る頃にはすっかり暗くなってそうです」
広場へと向かう途中、空を見上げると、太陽が傾いて来ている。
馬車に乗る頃には暗くなり始めてるだろうな。
「ティルラちゃんはおとなしく寝てますかね?」
「どうでしょうか……屋敷を出る前は眠そうにしていましたが、今頃は起き出してレオ様が帰って来るのを待っているかもしれません」
「ティルラちゃんを待たせてしまうのは申し訳ないですね」
「良いのですよ。待つ事も淑女として必要な事です」
「淑女、ですか。……それにしてはクレアさんはティルラちゃんが心配で薬をどこかで買って来る間も待てずに森に入ったようですが?」
「タクミさん、その事はあまり言わないで下さい!」
俺の指摘に恥ずかしそうに顔を赤くして俯いたクレアさん。
そんな俺達をセバスチャンさんは朗らかに見ている。
広場までの道を歩きながら、こんな雰囲気で街を見るのは楽しいなぁと実感してる俺だった。
今まで誰かとのんびり街の散策だとか買い物だとかをほとんどした事が無かったからなぁ。
一人暮らしを始めてからは、バイトと学校……卒業後は仕事。
空いた時間はレオとの時間。
レオと遊ぶ時間は楽しかったが、こんな風に人といる時間も大切なんだろう。
俺は楽しい時間を噛み締めながら軽い足取りで広場へ向かった。
そんな事を考えていた帰り道、俺は一つ忘れていた事を思い出した。
「そういえば……」
「どうしたんですか、タクミさん」
「ギフトを調べる予定がありましたよね?」
「……忘れていました」
「……タクミ様、少し帰る時間は遅れますが、今から調べに参りましょう。場所は広場に近い所ですので」
「わかりました」
調べるのに時間がかかるかはわからないけど、広場に近い場所なら帰る時間もあまり遅れないだろう、と思う。
俺達はのんびりと歩いていた足を速く動かす事にして、セバスチャンさんの言うギフトを調べられる場所へと急いだ。
ギフトを調べるという場所は、大通りの途中で小道に入りしばらく歩いた所にあった。
六芒星のマークが書かれた看板に、黒い扉、建物自体も灰色に塗ってあり、一見しただけでは何やら怪しい店にしか見えない。
セバスチャンさんが案内して来た場所だから大丈夫だろうが、俺一人だったら前を通りかかっても絶対に入ろうとは思わなかっただろうな……。
「お邪魔しますよ」
セバスチャンさんを先頭に店の中に入る。
もちろんレオは外で待機、今回はヨハンナさんと一緒に待っている。
店の中に入ってセバスチャンさんが声を掛けると、奥から女性が出て来た。
「遅かったじゃないか、待ちくたびれたよ」
出て来た女性は60代くらいのお婆さん、髪が完全に白髪になっていて、少しだけ腰が曲がっていた。
「すみませんね、イザベル。少し予定とは違った事で時間を取られましたので」
「まぁいいさね。クレア様もご機嫌麗しゅう」
「ええ、イザベルお婆ちゃん、お久しぶりね」
「お久しぶりでございます。……それでセバスチャン、そっちの男が今日魔力検定を受けるんだね?」
「ええ、そうです」
「そうかい」
魔力検定? ギフトの事を調べに来たんじゃなかったのか?
あ、いや……そういえばクレアさんが魔力量を調べる物でギフトがわかるって言ってたっけな。
それじゃあこのまま魔力を調べてもらえばいいのか。
なんだか少し緊張する……。
クレアさんへのプレゼントに関しては、ご指摘をいただいた通り自分からお金を借りてという部分に引っかかりを感じます。
その辺りの部分は書籍版の方で変更しておりますので、WEB版と書籍版の違いを楽しんで頂ければと思います。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
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