再びラクトス観光へ動き出しました
「というか、クレアさんは大丈夫ですかね? 昨日散々ロゼワインを飲んだようですけど……」
「あぁ、あいつは大丈夫だ。酔ってすぐは昨日のようになるが、翌日になれば何事も無かったかのようになる」
「二日酔い、とかはないんですか?」
「これまでそうなっていたのは見た事がないな。だが……酔ってやった事は覚えているし、眠りが深いせいなのか、翌日は昼過ぎまで寝る事がほとんどだ。そして、起きたら……」
「前日の自分の事を思い出して、後悔する……と?」
「うむ。クレア自身も、その事を反省し、後悔する事であまり酒を飲まないようにしているようだが……昨日はロゼワインだったからな。飲みやすく、色も美しい。初めての物でつい飲み過ぎてしまったのだろう」
クレアさんは二日酔いにはならないが、記憶はしっかりしているらしく、翌日に後悔するタイプらしい。
二日酔いしない代わりに、乱れてしまった事を後悔する……二日酔いとどっちが良いかはわからないな。
二日酔いは二日酔いで、頭が痛かったりと、体調が悪くなるし、後悔する方は精神的につらいだろうからなぁ。
俺はどちらかと言うと、少量で二日酔いになるタイプで、アンネさんの辛さはわかるが……クレアさんの方はあまりわからない。
まぁ、そんな状態でも、飲み会に強制参加させられた挙句、翌日は朝から日が変わるまで仕事とか、よくある事だったけどな。
……この世界に来て、何故か酔ったり二日酔いにならなくなったのは、良い事なのかもしれない。
良い気分にならない、というのはマイナスかもしれないけどな。
「……そうですか。大丈夫ですかね? 明日にもう一つ新しい薬を入れたワインを試飲する予定なんですが……」
朝ミリナちゃんに伝えられたけど、明日にはヘレーナさんが試作してくれた栄養薬の入ったワインを試す事になってる。
深く後悔しているクレアさんは、飲んでくれるだろうか……?
「む、そうか。新しい物も作っているんだったな。セバスチャンから聞いている。しかし……クレアは飲まないかもしれないな……昨日の事でどれだけ後悔しているかだが……タクミ殿に見られた事が大きいかもしれん」
「俺にですか? アンネさんやエッケンハルトさんではなく?」
「アンネリーゼはどうか知らないが、私は何度も見た事があるからな。そこは大丈夫だろう。しかしな、淑女たれと自分に課しているクレアが、肉親や使用人以外の男に見られるのは……」
「あぁ……そうかもしれませんね。なら、クレアさんが飲まないようなら、ティルラちゃんと同じくブドウジュースにしてもらいましょう」
「うむ、それが良いだろうな」
淑女として、自分に厳しいクレアさん……一部ティルラちゃんにも厳しいが……。
そんなクレアさんが醜態を晒した……と昨日の事を激しく後悔していてもおかしくはない。
しばらく、お酒自体を避けるかもしれないな……クレアさんに飲んでもらえないのは残念だが、仕方ない。
その時は、ブドウジュースを飲んでおいてもらおう。
「さて、これからどうする?」
「そうですね……レオを連れているので、店に入る事はできないでしょうし……今回は他に誰も連れて来ていないので、外でレオを見てくれる人もいませんしね」
レオは体の大きさから、店の中には入れない。
屋敷のような広さがあれば大丈夫だろうが、そんな大きさの店とかはないしな。
エッケンハルトさんを、店の外でレオと一緒に待たせるのもいけないだろうし……今回は屋内に入るのは止めておこう。
次に来た時は、誰か一緒に来てもらって、店の中に俺が入っても大丈夫なように考えないといけないな。
「では、店に入るのではなく、単純に街を見て回る事にするか」
「はい、そうですね。レオも、それで良いか?」
「ワフ」
カフェから出て、レオを連れてエッケンハルトさんと一緒に、街を見て回る事にする。
昼食は、屋台で色々食べたおかげで足りてるどころか、少し食べ過ぎたくらいだから、気にしなくて良いだろう。
街のどこに何があるのかだとか、今のうちに見て覚えておくのもいいかもな。
「そういえば、エッケンハルトさん」
「ん、何だ?」
「この街の北側は何があるんですか?」
「北側か……」
ラクトスの街の東側まで来た辺りで、エッケンハルトさんに聞く。
西側はやや南にカレスさんの店や、屋敷から来た時に入る西門がある。
東側は、例の店があった所や、ランジ村へ行く時に通った東門。
あと、東門から南に行った方に孤児院があったっけ。
今まで、この街の北側にはあまり行った事がない。
この街は、大きな通りが真ん中に通っており、それが東西の門に繋がっている。
多くの人がこの街を通って西や東へと行き交っているようだ。
そこから、南と北に別れるわけなんだが……北ってどうなってるんだろう?
疑問に思ってエッケンハルトさんに聞いてみると、難しい顔をした。
北側になにかあるのか?
「あまり大きな声では言えないのだがな……タクミ殿は、スラムというのを知っているか?」
「スラム……えっと、貧困層が住んでいて、犯罪率の高い場所……ですかね?」
「概ねその考えで合っている。まぁ、犯罪に関しては厳しく取り締まっているので、多いわけではないがな? 多少、治安が悪い程度か」
スラムか……話には聞いた事があるし、地球で日本以外の国にはそういった場所があるらしい。
日本にも、スラムに近い所はあると聞いた事はあるし、場所によって治安が良い悪いというのはあった。
けど、平均的な日本人にとってスラムは身近な存在では無い事は確かだ。
だから、聞いた事はあっても、想像する事は難しい。
「そのスラムが、北側にあるんですか?」
「うむ……公爵領では、そういった場所を減らすようにしている。実際、本邸がある付近の街にはスラムはない。だが……ここは本邸から離れている事と、人の出入りが多くてな……なくす事ができないのが現状だ」
「そうなんですか……」
本邸から離れていたら、対処は遅れて、スラムを無くすことが難しいのかもしれない。
日本みたいに、数十キロを数時間で移動する事なんて、この世界じゃできないからな。
それに、人の出入りが激しいとならず者が来たりする事もあるだろう……だから、エッケンハルトさんの目が届きにくいここでは、なくすのは難しいのかもしれない。
クレアさんのような、女性に対処させるというのも、危ないだろうしな。
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