まずはカレスさんの店へ行きました
「さて、まずはどこへ行こうか、タクミ殿?」
「最初はカレスさんの店ですね。薬草を届けなくてはいけないので」
「そうか、わかった」
街の中に入り、何処へ行くか聞くエッケンハルトさん。
最初はカレスさんの店だな。
早く行かないと、ニックが屋敷に向かうだろうから、入れ違いになってしまう。
「あ、アニキ! ……と、公爵様!?」
「ニック」
「お、この前会った者だな」
カレスさんの店に到着し、中へ入る前に、店からニックが出て来た。
すぐに俺に気付いたニックだが、その後ろにいるエッケンハルトさんに驚く。
例の店に行く前、打ち合わせをしている時にニックと会ってたな、そういえば。
「アニキ……公爵様も……どうしてこちらへ?」
「今日はラクトスの街を見ようと思ってな。エッケンハルトさんも、一緒だ」
「はっはっは、そう畏まらなくても良い。それで、ニックはどうして店から出て来たのだ?」
「あ、これから屋敷へと行こうかと……」
「なら、ちょうど良かったな。これが今日の薬草だ」
「アニキ、お疲れ様です!」
タイミングが良かったみたいで、ニックはこれから屋敷へ出発するところだったみたいだ。
入れ違いにならなくて良かった。
「カレスはいるか?」
「へい……あ、はい! 少々お待ち下さい!」
エッケンハルトさんがカレスさんの事を聞くと、すぐにニックが店の中に引っ込む。
カレスさんを呼びに行ったんだろう。
「これは公爵様! 申し訳ありません、こんな所でお待たせしてしまって!」
「うむ。まぁ、気にするな」
「ニックには、よくよく言い聞かせておきますので」
慌てた様子で、ニックに呼ばれたカレスさんが、店から飛び出してエッケンハルトさんに謝る。
公爵様であるエッケンハルトさんを、店の外で待たせるという失礼をニックがした……と考えているからだろう。
エッケンハルトさんは気にしていない様子だが、これは俺が気にしないといけなかったかな?
ニックは、こういう事に慣れていないのは明白だからなぁ。
「それで、本日はどうしてこのようなところに来られたのですか……? あ、申し訳ありません。ささ、どうぞ中に……」
「あぁ、特に用があるわけではないのだがな。ラクトスを見て回るタクミ殿に、ついて来ただけだ。これから街に繰り出すから、中に入らずとも良い」
「そうですか……しかし、護衛も無しで、ですか?」
「まぁ、そこはセバスチャンには言っていないからな。カレスも、屋敷の者には言ってはならんぞ? 護衛に関しては、レオ様がいれば十分だろう」
「確かに、レオ様がいれば護衛はいらないでしょうな。畏まりました。他の者には言わないようにさせて頂きます。ニックにも、そのように」
「うむ」
カレスさんとエッケンハルトさんの話で、セバスチャンさんに内緒にする事が決まったようだ。
……そんな事をしなくても、セバスチャンさんにはすぐにバレそうな気がするのは、俺だけだろうか?
「そうそう、タクミ様。レオ様の事なのですが……」
「はい、レオが何か?」
「ワフ?」
カレスさんが、今度は俺に話しかけて来る。
レオがどうしたんだろう?
「いえ、その……以前レオ様が店の前で、子供達と遊んだ事がありましたよね?」
「あぁ、はい。薬草を販売する初日でしたね」
「そのような事があったのか」
「はい。……その時、レオ様と遊んだ子供の数人が、またレオ様がここに来ないかと時折、訪ねて来るのです」
「ふむ……レオ?」
「ワフワフ!」
レオに対して遠慮気味のカレスさんが言うには、あの時遊んだ子供達が、レオとまた遊びたいと期待してこの店に来る事があるようだ。
レオの方を見ると、子供好きだからか、尻尾を振りながら少しうれしそうな雰囲気で鳴いた。
大丈夫そうだな。
「それじゃあ、また今度にでもその子供達を集めて、レオと遊んでもらいましょう。レオは子供好きですからね」
「ありがとうございます。それでは子供達にはそのように伝えておきます。タクミ殿とレオ様が来られるときは、前もって連絡を頂ければと思います」
「はい、わかりました」
「ワフ!」
いきなり来て、すぐに子供達が集まるかはわからないからな。
前もって報せれば、カレスさんが子供達を集めてくれるんだろう。
レオの方も、あの時の子供達と遊べるとあって、嬉しそうに吠えた。
最初はただ集まって来るだけで、レオも対処に困ってたが、子供達にちゃんと教えたらレオの事を考えて遊んでくれてたようだし、特に変な事態にはならないだろう。
「では、そろそろ行こうか」
「はい」
「あ、少々お待ち下さい。これから街を周るのでしたら、こちらを……」
「これは……?」
話も終わり、エッケンハルトさんが店を離れようとすると、カレスさんに止められた。
そのカレスさんは、何やら布のような物を取り出し、エッケンハルトさんに渡す。
「公爵様の事を知っている者が街にもいる事でしょう。騒がれないためにも、顔を隠すべきかと」
「ほぉ、成る程な。助かる」
カレスさんから渡された布を、頭や口元に巻き付け、エッケンハルトさんが顔を隠した。
確かに、街の中にはエッケンハルトさんの顔を知っている人もいるかもしれないから、顔を隠して騒がれないように……というのはわかる。
わかるんだけど……。
貴族らしからぬ服装のエッケンハルトさん。
しかも、中々にガタイが良い。
目つきも鋭いし……これで顔を隠したら、結構怖い人に見えるような……?
エッケンハルトさんと断定されなくとも、怪しい人物と見られないかちょっと心配だ。
不審人物として、衛兵さんに職務質問とかされるかな……?
日本とは違うから、そんな事はないか。
もしされても、実際はエッケンハルトさんは公爵様なんだから、大丈夫か……と無理矢理納得しておく。
「よし、それでは行こうか、タクミ殿」
「はぁ……わかりました。それじゃ、カレスさん。また来ます」
「ワフ」
「お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
怪しい見た目のエッケンハルトさんは、意気揚々と歩き出す。
深々と頭を下げるカレスさんにまた来ると言って、俺とレオもその場を離れた。
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