シェリーの機嫌が悪くなりました
「嫌われました……」
「まぁ、しばらくすれば機嫌も直るだろうから、大丈夫だよ、きっと」
フェンリルがどうなのかはわからないが、動物って慣れないと食事中に手を出すと警戒するものだからなぁ。
俺も、最初の頃はティルラちゃんと同じように、食べてるレオに手を出して噛まれそうになった事もあった。
今では慣れたもので、頭を撫でるくらいならできるし、話もできるから噛まれる心配はないけどな。
ともあれ、まだシェリーは人の住むところに来てそんなに経っていないから、慣れてないんだろう。
野生動物……というか魔物だから、警戒心が強くても仕方ない。
「後でまた、シェリーに謝ります……」
「そうだね、それが良いと思うよ」
「ところで、今日はタクミさんはどうするのですか? 昨日、街に行くと言っていたと思いますが……」
昨日のエッケンハルトさんの会話を、ティルラちゃんはしっかりと聞いていたみたいだ。
眠そうにしてたのに……侮れないなぁ。
子供は、意外と大人の言う事を聞いているから、油断できないな。
「うん、レオと一緒に、ラクトスの街へ行って来るよ。……薬草を作ってからだから、もう少し後だろうけどね」
「わかりました。私は昼食まで勉強ですが……その後はシェリーに謝って一緒に遊びます。それに、昨日は夜の素振りができなかったので、いない間にやっておきます!」
「ははは、頑張ってね」
「はい!」
ティルラちゃんは、勉強の後に素振りをするつもりのようだ。
頑張るなぁ、と思う反面、俺も負けていられないとも思う。
まぁ、今日は剣の鍛錬ができなさそうだから、その分別の日に頑張ろう。
シェリーの方は、ティルラちゃんが遊びと言ったから、顔をティルラちゃんへと向けた。
「あ、師匠! おはようございます!」
「ミリナちゃん。おはよう」
朝食の後のティータイムを終え、薬草作りのために裏庭へ行く途中で、ミリナちゃんと遭遇。
元気よく挨拶するミリナちゃんに、笑顔で返す。
……少し、右腕をさすってるな……筋肉痛かな?
「ミリナちゃん、ライラさんから聞いたけど、薬を作ってくれてありがとう」
「はい、頑張りました! ……ちょっと、腕が痛いですけどね」
「まぁ、あの作業を続けてたらね……」
やっぱり筋肉痛だったようだ。
お礼を言った俺に、腕の痛みを訴えながら苦笑するミリナちゃんに、俺も苦笑で返す。
「あ、ヘレーナさんから伝言です。ラモギを使ったワインに、昨日の調合した薬を混ぜてみるそうです。明日にでも飲んで下さい、との事です」
「わかった。ありがとう」
さすが、ヘレーナさんは仕事が早い。
いや、この屋敷の人達皆仕事が早いのかな?
それはともかく、明日には健康促進のお酒は試作できるようだ。
ラモギを混ぜたロゼワインじゃないと飲めないから、そっちに混ぜるようだ。
今回は、薬を作るのに協力してくれた、ミリナちゃんも一緒に試してみるのもいいかもな。
「よし、これくらいで良いか」
「ワフ」
「あ、ゲルダさん。このラモギを、ヘレーナさんに渡しておいてくれますか? ワインに混ぜる用です」
「はい、畏まりました」
ミリナちゃんと別れ、裏庭に来た俺はすぐに薬草作りを始める。
カレスさんの店に卸す分よりも、多めにラモギを作ってゲルダさんに渡す。
ラモギ以外の薬草は、少しずつ余って来ているようだ。
例の店も無くなって、独占状態じゃなくなって来たからだろう。
ロゼワインにするために、ラモギを作る必要があるし、他の場所でも薬草を流通させるために、ラクトス以外の分もそのうち作らないといけないだろう。
公爵家との契約は、ラクトスの街で売るだけじゃないしな。
また倒れてしまわないように、作る量は上限があるから、十分な量を行き渡らせる事ができるかが問題だけど……。
どこかで薬草を作って、それを増やすような薬草園が必要かな? まぁ、それは今度セバスチャンさんやエッケンハルトさんと相談しよう。
「よし、レオ。そろそろ行こうか」
「ワフ!」
一度部屋に戻り、屋敷を出る準備をしてレオに声をかける。
外に出て走れることが楽しみなのか、尻尾をぶんぶん振って、楽しそうに鳴くレオ。
カレスさんに渡す薬草も持ったし、忘れ物は無さそうだ。
「タクミ様、これから出発ですかな?」
「セバスチャンさん。はい、今からラクトスに行ってきます」
「ワフ」
部屋を出て、玄関へと向かう途中にセバスチャンさんに声をかけられる。
レオは、早く行こうとばかりに尻尾を振ってるな……すぐに出発するから、もう少し落ち着くんだ。
「旦那様から聞き及んでおります。レオ様、ラクトスの住民は、レオ様の姿に驚くかもしれませんが、何卒穏やかにお願いします」
「ワフ!」
セバスチャンさんが頭を下げてお願いし、レオが承知したと言うように頷く。
「子供達には人気でしたけどね。大人たちは……まぁ、怖がりますか」
「はい。恐らく遠目に見てるだけだとは思いますが……中には過剰に反応する者もいるかもしれません。衛兵達には通知を出し、危険がない事を周知していますので、大丈夫だと思いますが……」
「まぁ、何か問題があったら、すぐにレオに乗って走って逃げる事にしますよ」
「わかりました。レオ様に襲い掛かって来るような愚を犯すような者は、対処しても構わないとは思うのですが……レオ様が暴れると、被害が大きくなる可能性がありますので」
「気を付けます」
「ワフ」
魔物も簡単に倒すレオだし、エッケンハルトさん程の達人でもかなわないのはこの目で見た。
そこらの人間が束になって襲い掛かっても、レオには勝てないだろうな。
けど、もしレオが全力で対処した場合、もしかしたら建物とかに被害が出るかもしれないからな……セバスチャンさんの心配もわかる。
ほとんどが怖がって逃げたり、遠巻きに見てるだけだろうと思うけど……もしもの事があったら、レオに乗ってさっさと逃げる事にしよう。
レオの足について来れる人間なんて、いないだろうし。
「護衛は付けますか? 一人や二人なら、レオ様に乗って移動する事も可能でしょう」
「いえ、大丈夫です。適当に街を見て来るだけなので、手間をかけさせたくありませんし」
「手間と言う程ではありませんが……わかりました」
護衛を付けてもらうと、それだけ誰かの手を煩わせてしまうからな。
ラクトスの街に行くくらいで、大きな問題も起きないだろうから、護衛を付ける程でもないだろうし、俺にはレオがいてくれるから大丈夫だ。
エッケンハルトさんと、この後合流すると考えると、護衛も考えた方が良いのかもしれないけど……そうすると、エッケンハルトさんが見つかってしまうからな。
誰にも内緒で……という事だったから、断って正解だろう。
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