皆に内緒で頼まれ事をしました
「私だ。タクミ殿、今良いか?」
「エッケンハルトさん? はい、大丈夫です」
「失礼する」
外から声をかけて来たのは、エッケンハルトさんだ。
さっきまで一緒だったが、こんな夜遅くに何の用だろう?
「すまないな、寝る所だったか?」
「いえ、のんびりしていただけなので」
部屋へと入って来たエッケンハルトさんは。俺がベッドに座っているのを見て、寝る前かと思ったようだ。
何も無ければこのまま寝ても良かったんだが、すぐに寝ないといけない程眠くもないし、問題はない。
「それで、どうしたんですか?」
「あぁ……そのな? 先程、タクミ殿にラクトスへ行くよう頼んだのだが……」
何かを考えながら、エッケンハルトさんが言いづらそうに話す。
俺がラクトスへ行くのに、何か問題でもあったかな?
「明日にでも行こうと考えていましたが、何かありましたか?」
特に急ぐような事も無かったはずだから、明日にでも薬草を作ったらラクトスへ行こうと考えてた。
レオに乗ればすぐだし、ニックが来る前にラクトスに行って、カレスさんに薬草を渡すのも良いだろうな。
「ええとだな……私も、その……連れて行って欲しいのだ」
「エッケンハルトさんを?」
「うむ」
「それは良いんですが……セバスチャンさんには言ってあるんですか?」
「セバスチャンには秘密で、だな。レオ様に乗って行くんだろう? それなら、馬車を使わなくても良いからな」
セバスチャンさんに秘密か……という事は、誰にも言わずにこっそりとラクトスへ行きたいという事かな?
「でも、良いんですか? 誰にも言わなくても……護衛する人とか……」
「まぁ、本来は必要なのはわかっているんだがな。しかし、レオ様もいるし、私も戦える。タクミ殿も育って来たからな」
「はぁ……確かにレオがいれば大抵のことは大丈夫でしょうけど……」
レオがいれば、護衛いらず……というのは確かにそうだと思う。
まぁ、建物の中までついて来れないから、完全と言うわけじゃない。
エッケンハルトさんは、俺が足元にも及ばない程の剣の達人だから、何とかなるかもしれないが……。
「たまには、護衛を引き連れてではなく、個人として街を見たいのだ……セバスチャンや他の者に知れたら、止められるだろう」
「そりゃ、そうでしょうね」
エッケンハルトさんは、気さくだし、偉ぶったりせず話しやすい人だが、公爵家の当主なんだ。
貴族制度に疎い俺でも、何かあってはいけない人……重要人物なんだという事くらいはわかる。
もしかしたら、エッケンハルトさんを敵のように考えて、狙う人がいるかもしれないというのも考えられるしな。
「頼む、この通りだ!」
「はぁ……もし、見つかっても、怒られるのはエッケンハルトさんですからね?」
「うむ、それはわかっている」
「わかりました。それじゃあ、明日は一緒にラクトスへ行きましょう」
「ありがとう、タクミ殿!」
俺に向かい、頼み込むように頭を下げるエッケンハルトさん。
もし見つかったら、またクレアさんやセバスチャンさんに怒られるんだろうなぁ、とは思うけど……懲りない人だ。
俺が頷いて許可をすると、嬉しそうにするエッケンハルトさん……そんなに護衛とかいない状態で、街に行きたかったのか……。
まぁ、俺は元々ラクトスに行くつもりだったから、ついでと考えれば良いか。
「それでは……明日、警備の兵の目を掻い潜って、屋敷を出る。途中で合流しよう」
「……はい、わかりました」
屋敷を警護してる人達の目を掻い潜れるのかはわからないが、エッケンハルトさんなら屋敷の事をよく知ってるだろうから、できるんだろう。
あぁ、最初にクレアさんと会った時も、屋敷を抜け出してきてたんだっけ……意外とザル警備?
いや、警備をする人達の事を知ってるから、隙をつく事ができたんだろう。
「では、明日は頼む」
「はい」
「ワフ!」
退室して行くエッケンハルトさん。
レオは元気よく頷くように鳴いて返す。
人を乗せて走るのが好きだから、乗せる人が多くなって嬉しいのかもしれない。
「はぁ……明日はエッケンハルトさんと一緒か……まぁ、慣れて来たから何とかなるか」
「ワフ?」
「エッケンハルトさんは偉い人だからな。さすがに緊張くらいはするさ。……さて、そろそろ寝るか」
「ワフゥ」
俺とレオだけになった部屋で、軽く話してからベッドへと潜り込む。
寝る間際、お酒を飲み続けてるクレアさんとアンネさんの、明日の体調が気になったが、俺には何もできる事がないと諦めて、意識を閉じた。
―――――――――――――――――――
翌日、朝の支度をして、朝食へと誘いに来てくれたティルラちゃんと、頭にシェリーを乗せたレオを連れて食堂へ。
「おはようございます」
「おはようございます、タクミ様」
「……クレアさん達はいないのですね?」
食堂へと入ると、セバスチャンさんとゲルダさんだけがいて、他には誰もいなかった。
……エッケンハルトさんは、今日はまたいつもの寝坊なようだ。
それはともかく、クレアさんがいないのは珍しい。
「クレアお嬢様は、昨日のお酒が原因で、まだ寝ておられます。おそらく、昼までは起きられないものと……」
「……そうですか」
「アンネリーゼ様は、体調が悪いと仰って、部屋で休んでおられます。ライラも、昨日は遅くまで起きていたようで、今は休ませております」
「アンネさんも、災難だったようで……ライラさんは、ゆっくり寝て欲しいですね」
俺とエッケンハルトさんは、食堂から逃げ出し、アンネさんを生贄に後の事をライラさんに任せた。
飲み過ぎたクレアさんは眠りが深く、起きないようだし、アンネさんは……まぁ、二日酔いだろうな。
ライラさんは……ゆっくり休んで下さい……ごめんなさい。
「では、朝食の用意を致します」
「すみません、お願いします」
今日は俺とレオ、ティルラちゃんとシェリーの、いつもより少し寂しい朝食になるようだ。
まぁ、たまにはこういうのも良いかもな。
「シェリーに怒られました……」
「ははは、ティルラちゃんが食べてるシェリーに、ちょっかいをかけるからだよ?」
「ワフ」
「ごめんなさい、シェリー」
「キャゥ!」
朝食中、ティルラちゃんが、一生懸命食べてるシェリーを触っていた。
たまたま、手が食べてるシェリーの口の近くへ行き、取られると勘違いしたシェリーがティルラちゃんに怒ったのだ。
レオも、怒るのは当然とばかりに頷いている。
ティルラちゃんが謝っても、すぐに機嫌が直らなかったらしく、シェリーは一声鳴いて、プイっと顔を背けた。
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