ラクトスへレオの散歩を頼まれました
「では、諸々の確認が取れ次第、ランジ村での生産を開始してもらおう。それで良いか、タクミ殿?」
「はい。ランジ村がこの先どうなるかは気になっていたので、いい方向に進むようなら、反対する事はありません」
「セバスチャンと話していたが、病の噂が広まってしまった場合、ランジ村のワインが売れなくなる可能性もあったからな……もちろん、私達は広めないようにするし、病の原因が何だったかは話さないようにするがな」
「まぁ、噂なんて、どこから出てどう背びれ尾ひれが付くかわかりませんからね」
「そうだな。ロゼワインを新しく販売し、そちらに話題を移す事で噂が出る可能性を潰せる。先に噂が出ていても、広がる可能性は低いだろう」
「そうですね。エッケンハルトさん、これはカレスさんの店で?」
エッケンハルトさんは、ランジ村のワインが病の原因になった……という話が広まって、忌避される事を危惧していたみたいだ。
セバスチャンさんとも話したが、ロゼワインが新しい話題となれば、噂も立ち消えるだろうな。
「もちろん、カレスの店でも販売はする。だが……評判を広めるのであれば、それ以外の店でも売らなければな。それに、ゆくゆくは他の街でも販売したい。このワインは広く飲まれるべきだ」
「確かにそうですね」
カレスさんの店だけだと、広まるのは遅いだろうからな。
公爵家直下の店という事はあるだろうけど、やっぱり一つの店でできる事は限界がある。
エッケンハルトさんが考えているように、評判を……と考えるなら、他の店でも売るようにしないといけないか。
「まぁ、そこらはまたセバスチャンとの相談だな」
「はい」
「それとだな、タクミ殿」
「どうかしましたか?」
「時間がある時で良いんだが、ラクトスの街にレオ様を連れて行ってくれないか?」
「レオをですか?」
「ワフ?」
エッケンハルトさんから、レオをラクトスに連れて行く事を提案された。
何故なのか聞き返す俺と一緒に、今までブドウジュースを飲んで満足そうにしていたレオが首を傾げる。
急に自分が呼ばれて驚いたのもあるかもしれない。
「これからもタクミ殿は、ラクトスの街に行く事もあるだろう? 街を守る衛兵達のほとんどは大丈夫だろうが……街に住む者達はまだ、レオ様を知らない者もいる。レオ様を見ても混乱しないよう、多少は慣れて欲しいと思ってな?」
「そうですか、わかりました。ですが、さすがに毎日は行けそうにありませんが……」
どのくらいの頻度で行けば良いのかはわからないが、さすがに毎日は行けないだろう。
薬草を作らないといけないし、剣の鍛錬もあるしな。
「あぁ、毎日でなくとも良いんだ。数日……4.5日に1度くらいで構わない。もし他の事があるのなら、それよりも頻度は少なくても良いだろう」
「わかりました。そのくらいの頻度でラクトスに行こうと思います。……それじゃあ、明日にでも1度行ってきます」
「ワフ!」
4.5日くらいなら、暇を見て行けば良いから、無理じゃない範囲だな。
エッケンハルトさんに返答すると、レオが楽しそうに吠えて頷く。
レオの方は、外を走る事ができるから、運動にちょうどいいだろう。
「よろしく頼む。もしラクトスの街に用事があるのなら、それを1度と数えても構わないからな」
「はい。ちょうど良いので、ラクトスの観光でもして来ますよ」
「ワフワフ」
ラクトスには何度か行ったが、ゆっくり見て回る事はほとんどなかったしな。
行った回数はラクトスの方が多いのに、結構のんびりと過ごさせてもらったランジ村の方が、よく知ってるくらいだ。
規模が違うし、目的も違うから、比べるものでもないかもしれないが……。
「ラクトスの事で聞きたいことがあれば、セバスチャンにでも聞くと良いだろう。どこに何があるか、とかな?」
「わかりました。何度か行った事があっても、どこに何があるかはまだよく覚えていないので……その時はセバスチャンさんに聞く事にします」
俺が覚えてるのは……カレスさんの店と、孤児院……あとは仕立て屋とイザベルさんの店くらいか。
雑貨屋とかも行った事があるが、一度だけでセバスチャンさんに先導されながらだから、よく覚えて無い。
あ、イザベルさんの所にも寄って、お茶をして話して来るのも良いか。
魔法具の事を色々聞いてみたいし、イザベルさんの話し相手になるのも悪くない。
「ふむ、とりあえずはこんなところか……しかし、妙に他が静かだな……」
「そうですね……?」
夕食は、話しながら全て食べており、食後のティータイムとなっている。
今日はお茶では無く、ロゼワインとブドウジュースだけどな。
エッケンハルトさんの言葉に、そちらへ向けていた視線を外し、クレアさん達の方を見た。
ティルラちゃんは話が難しかったのか、うとうとして寝そうになってる。
シェリーも、ティルラちゃんに抱かれて寝てるな。
クレアさんとアンネさんは、俺やエッケンハルトさんの話に入らず、ロゼワインを飲む事に集中していたようだ。
「ライラ、おかわりをちょうだい」
「ですが、クレアお嬢様……」
「いいから、持って来なさい。アンネの分もよ」
「……はい、畏まりました」
「クレアさん、私はもう限界ですわ……」
「何を言っているの、アンネ。まだまだ飲めるでしょう?」
「……これは……クレア、いつの間にか酔っていたのか……?」
「そうみたい、ですね……」
俺とエッケンハルトさんのこめかみを、冷たい汗が流れたような気がした。
ワイングラスを傾け、ロゼワインを飲むクレアさんは、一見して普通なのだが、目が据わっており、何となく雰囲気もいつもと違う。
顔が赤くなったり青くなったりはしていないから、俺もエッケンハルトさんも気付くのが遅れた。
クレアさんに付き合わされてるアンネさんは、がっしりと腕を掴まれ、逃げる事ができなくなっているようだ。
「ん? どうしましたか、お父様、タクミさん?」
「いや、そのな……飲み過ぎではないのか?」
「何を言っているんですか。公爵家の者ならば、この程度……何ともありません!」
「そ、そうか?」
何か、どこかで見た事があるような……?
あぁ、ランジ村でのフィリップさんか。
ロゼワインは、ランジ村のワインだから、もちろんアルコールは高い。
甘みが強く、口当たりが良いから、ついつい飲み過ぎてしまったんだろう。
ライラさんが持って来た追加のロゼワインを飲むクレアさんを、エッケンハルトさんと二人で見て、気にしなかった事を後悔した。
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