ランジ村でロゼワインを作る事になりました
「セバスチャン、お前はどう思う?」
「はい。私は配膳される前に、一口味見をさせて頂きましたが……これは使えるかと」
「そうか……」
セバスチャンさん、味見してたんだ。
それなら、味の説明はセバスチャンさんに任せた方が良かったかな?
まぁ、もう説明してしまったんだから、良いか。
「ワインにラモギを混ぜる……新しい発想だ。色合いは変わったが、これはこれで綺麗な色だし、味も問題無い。……タクミ殿」
「はい?」
「もしタクミ殿が良ければなのだが、これをランジ村で量産してみないか?」
「ランジ村で、ですか?」
セバスチャンさんに確認をしたエッケンハルトさんが、頷きながらロゼワインの確認をして、俺に提案をする。
ランジ村でこれを作るのか……。
「俺としては、あの村の産業になるのなら良いのですが……仕入れのブドウは大丈夫なのでしょうか?」
「確か、伯爵領から仕入れているのだったな?」
「はい。いつも仕入れている商人が入れ替わり、魔法具のガラス球を置いたりとしていたようです……」
「仕入れに関しては問題ありませんわ。我が領内では、広くブドウを生産しておりますので、今回の件に関わりがあった商人が問題であれば、別の所から仕入れる事ができるはずですわ」
「ふむ……いつも仕入れをしている所の商人は、一度関与を調べる必要があるだろうが……仕入れ自体には問題は無さそうだな。美味いワインを広めるためだ、その辺りは我が公爵家で手筈を整えよう」
いつも仕入れている商人は、当然ながら伯爵領の人であり、バースラー伯爵からの指示で入れ替わって別の商人が来た。
もしかしたら、いつもの商人も企みに関与している可能性もあるから、何もせず元のまま仕入れるのは不安だ。
ハンネスさん達も、あんな事があったのだから、疑いもせず元の商人から仕入れる事は難しいだろう。
それに、当然実行犯は罰せられるわけだから、そこの商人が以前のようにブドウを扱えるかわからないしな。
そう考えていると、アンネさんの方から大丈夫との話。
他にもブドウを扱っているらしいから、もし駄目なら他から仕入れれば良いようだ。
品質とかは確認する必要があるだろうけど、収穫する地域が同じ伯爵領なら、そこまでブドウ自体が変わる事も無いだろうし、大丈夫かもしれない。
「公爵家の方で何とかしてくれるのであれば、ランジ村も助かると思います」
「そうだな。伯爵領という距離のある場所での事だ。村単位ではどうにもできないだろう……最悪、仕入れを止めてワイン作りをしなくなることも考えられるからな。至急、調べさせてブドウを仕入れる事ができるようにしよう。セバスチャン」
「はい、畏まりました」
エッケンハルトさんが何とかしてくれるのなら、心強い。
公爵家の力は、やっぱり大きいんだなぁ。
エッケンハルトさんがセバスチャンさんに声をかけると、頷いて食堂を出て行った。
色々と調べたり、仕入れをどうするかを決める手筈を整えてくれるんだろう。
「これで、ランジ村の産業を失わずに済むな」
「このワインを失うのは、損失と言えますからね」
「うむ。あとは、どう販売するかを考えねばな……通常の売り方では、民にはわかりづらかろう」
「そうですね……」
「通常の売り方はどうやるんですか?」
ランジ村が産業を一つ無くしてしまわない事は、村と関わった俺としては嬉しい。
クレアさんも、ワインの味を気に入って損失とまで思ってくれてるようだしな。
俺も、せっかく美味しと思える酒と出会えたんだから、それが飲めなくなるのはもったいない。
……フィリップさんも、意見を聞いたら同意見だろうなぁ。
「通常は樽で売る事が多いな。酒場など、大量に消費する場所だと、大樽で卸す事になるはずだ。それ以外では……小樽で販売するのが一般的だな」
「そうですか……瓶に詰め替えて、というのはできませんか?」
「瓶か……成る程な。樽と比べると、少々値段が上がってしまうが……それが高級感を出して、逆に良いかもしれんな」
「瓶なら、誰でもこの色を見て買う事もできますからね」
「この色を見たら、欲しがる人が多そうですね」
「本当に、綺麗ですわ」
販売方法をエッケンハルトさんに聞くと、普通は樽で売る事が多いらしい。
瓶は作るのに樽よりもコストがかかってしまうんだろう。
ハンネスさんの村は裕福とは言えないから、そういう事にコストをかけられなかったんだと思う。
クレアさんとアンネさんは、ワイングラスに入ったロゼワインをうっとりと見ているから、瓶に詰めてピンク色の綺麗な見た目を生かせば、多少高めの値段設定をしても買ってもらえそうだ。
「女性人気の高そうな物になりそうだな」
「はい、ロゼワインは味もそうですが、見た目でも人を惹きつけそうです」
「……ロゼワイン?」
「ええ。こういった色合いの……赤でもなく白でもないワインを、ロゼワインと言うのですが……ここではそういった呼び名はないのですか?」
「うむ、ワインは全てワインだな。色の違いで呼び方を変えたりはしていないな」
まぁ、ロゼワインがどういう定義でそう呼ばれるようになるのか、俺は詳しくないが、明らかに赤とも白とも言えないのだから、これはロゼワインという事で良いだろう。
「なら、これはロゼワイン……新しいワインとして売り出すのも良いかもしれませんね」
「そうだな……今までのワインとは違う物として……味は今までのワインと、はっきりした違いは無いが、甘さと仄かな苦み……綺麗な色のワインという事で、ロゼワインと名付けて売ってみるとするか。他との差別化は、悪くないな」
「そうですね。瓶に詰めて……という見た目を重視した売り方と相俟って、広く売れそうです」
「見た目だけでなく、味も良いので……人気の商品になりそうですわ」
売り出すのはロゼワインと言う名前、瓶に詰めてピンク色の珍しい物として売る事が決まった。
……アンネさんが公爵家の販売法に意見してるのは、この際だから気にしないでおこう。
色々な原因とも言えなくはないが、客人として、俺と似たような立場だと思えば……俺も意見しているしな。
広く意見を聞くのは良い事だし、それも公爵家の懐の広さでもあるのかもしれない、と思う。
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