アンネさんを驚かせてしまいました
「……クレアさん、アンネさん?」
「あら、タクミさん。薬草の調合はもう?」
「ええ、失敗する事もなく成功しましたので、後はミリナちゃんに任せて来ました」
「そうですか。成功したのなら、なによりです」
「よーしよしよし……」
「キャゥ、キャゥ!」
「ここ? ここを撫でて欲しいんですの?」
「キャゥ!」
食堂に入ると、中ではクレアさんとアンネさんが一緒に座っていた。
薬草の事を聞いて来たクレアさんに答えながら、アンネさんの方を見ると、シェリーを撫でてご満悦な様子……フェンリルの相手は慣れたようだ。
というかシェリー……撫でられる事よりも、アンネさんが動く事で揺れてる縦ロールの方が気になっているみたいだな……。
前足を動かして、軽い猫パンチのような仕草をしてる……猫に対する猫じゃらしのようなものなのか?
フェンリルって猫じゃないはずなんだが……。
「随分、仲良くなったようですね?」
「ええ。ティルラが勉強している間、相手をするってきかないんです」
「フェンリルって、こんなに可愛い生き物だったんですのね! これは新しい発見ですわ!」
「……このフェンリルは特別な気がしますけど……それより、タクミさん。どうしてここへ?」
「いえ、ヘレーナさんへ出来上がった薬を渡すために、厨房へ行ったら忙しそうだったので……もうすぐ昼食ができそうでしたし」
「ワフワフ」
「ふふふ、レオ様も食事が待ち遠しいようですね」
シェリーを構っている、アンネさんの様子を微笑ましく見ながら椅子に座る。
俺がいつもより早く食堂へ来た事を、疑問に思ったクレアさんに答え、レオも答えた。
「クレアさんは、やっぱりアンネさんと仲が良いようですね?」
「……仲が良くなんてありません」
「そうですか? 今も一緒にいますし……」
「それは、アンネがしつこく私につきまとうのです。シェリーの面倒を見ている以上、ここを離れられませんし……」
「あー、そうなんですか」
「いずれ、私とアンネの事はタクミさんに話しますね」
「……わかりました」
一緒にいたから、仲良さそうに見えたんだが、どうやら俺が言った事をアンネさんが実行しているだけらしい。
クレアさんと話してみればって、言ってしまったからなぁ……クレアさんにとっては迷惑だったのかもしれない。
何やら、クレアさんがアンネさんと仲が良いと認めないのには理由があるみたいだけども……。
「ワフ?」
「ん? 気になるか?」
「ワフワフ」
「じゃあ、驚かさないようにゆっくりな?」
「ワフ」
「ふふふ、レオ様も怖がられてばかりでは、嫌なようですね」
シェリーを撫でてご満悦なアンネさんを見て、レオが自分もと思ったようだ。
自分とは違い、怖がられないシェリーへの嫉妬とかではないだろうけど、アンネさんに避けられているのは気になるらしいな。
ゆっくり移動するように伝え、頷いて答えてのそりとアンネさんの所へ向かうレオ。
アンネさんは、シェリーに夢中でレオの動きに気付いていない……というより、俺やレオが入って来た事にすら気付いていないのかもしれない……さっきシェリーが可愛いと言ってたのは、クレアさんにかな?
ゆっくりと、レオがアンネさんの後ろからのそりのそりと近づいて行くのを、俺とクレアさんは微笑ましく見る。
「キャゥ?」
「ワフゥ!」
「ひぃぃぃぃぃ!」
「ぷっ!」
「ははは、笑ったら悪いですよ、クレアさん?」
「タクミさんだって、笑ってるじゃないですか。ふふふふ」
ゆっくり近づいて来るレオに、アンネさんの方を向いているシェリーは気付いて声を出して首を傾げる。
その瞬間、レオがアンネさんの背後から軽く吠えると、アンネさんは大きく悲鳴を上げて椅子から飛び上がった。
椅子から落ち、尻餅を付いて驚いてるアンネさんを見て、我慢ができなくなったクレアさんは噴き出し、俺も笑ってしまった。
結局、驚かせないように近づいたはいいが、声をかけた事で驚いてしまったようだ……注意する必要はなかったかな?
「ど、ど、ど、どうして私の後ろに! 襲われるんですの!?」
「落ち着きなさい、アンネ。レオ様は人を襲う事は無いわ」
「ワフ」
「キャゥー!」
「ワウ」
椅子から落ちたままで、レオの方を見て怯えるアンネさん。
クレアさんが落ち着くように言ってるけど、すぐにはどうにもならないみたいだ。
アンネさんが目の前からいなくなって、レオを見たシェリーは、今まで乗っていた椅子から飛び、レオの頭の上に着地。
お気に入りの場所に乗れて、ご満悦の様子だ。
レオも、シェリーが乗る事は何でも無い事なのか、軽くシェリーに向かって吠えるだけだ。
「突然後ろからは、止めて下さい……」
「レオ様は、アンネと遊びたいのかもしれないわよ? シェリーばかりに構ってるから……」
「そう言われましても……」
「ははは、アンネさんはまだまだレオには慣れないかな?」
「ここにいる事で、人を襲わない……というのは理解出来ましたけれども、まだこんなに大きなシルバーフェンリルと普通になんてできませんわ」
「ワフ?」
何とか落ち着いたアンネさんは、尻餅を付いた体勢から立ち上がり、レオから少し離れた椅子へと座る。
レオが大きいから駄目なの? と言うように首を傾げながら声を出したのに対して、ビクッとしてた。
まぁ、人を数人乗せるくらいは簡単な大きさの狼だからなぁ、見た目としての恐怖をすぐに拭い去る事はできないんだろう。
「お、クレアもアンネも、タクミ殿もここにいたのか」
「エッケンハルトさん」
「お父様」
「エッケンハルト様……」
「ワフ」
「キャゥ」
「ははは、アンネが疲れてるようだが、またレオ様か?」
アンネさんを見ていると、エッケンハルトさんが食堂の扉を開いて入って来た。
その後ろには、セバスチャンさんや、料理を運んで来たメイドさんもいるようだから、昼食の準備が整ったようだ。
エッケンハルトさんが、テーブルにつきながらアンネさんの方を見て笑う。
レオに驚いた時とは違い、今は澄まし顔をしているが、縦ロールが乱れているのを見てエッケンハルトさんはそう判断したんだろう。
……縦ロールの乱れで見分けるとは……エッケンハルトさんも侮れないな……。
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