安眠薬草を渡しました
「それではな。ちゃんと汗を流してから寝るのだぞ?」
「はい。ありがとうございました!」
「ありがとうございました! おやすみなさいです!」
鍛錬終了後、エッケンハルトさんにお礼を言う。
屋敷に入ろうとして、思い出した事があった。
「あ、エッケンハルトさん。ティルラちゃん、ちょっと待って下さい」
「何だ、タクミ殿?」
「どうしましたか、タクミさん?」
「ティルラちゃんは、今日も鍛錬を頑張ったから……これをね。エッケンハルトさんも」
呼び止めてこちらを向いた二人に、筋肉疲労を回復させる薬草と、疲労を回復させる薬草を数個ずつ渡す。
「おぉ、これは疲れが取れる薬草か。ありがたい」
「ありがとうございます、タクミさん!」
「これで、今日の疲れが取れるな!」
「……そんなに疲れてたんですか、エッケンハルトさん?」
夕食までの鍛錬の時や、先程のまでのイメージトレーニングでは、ほとんど息を切らせなかったエッケンハルトさん。
疲れてるようには見えないんだけどな……。
「いや、まぁな。昨夜のクレアとの一件もあったが……今日、レオ様に乗った時の疲れがな……」
「ワフ?」
「ははは、レオには乗るだけだったのに、そんなに疲れたんですか?」
「ぬぅ……そうは言うがな? ティルラやシェリーが速度を出せと聞かなくてな……それに付き合ってたら……というわけだ」
昼間、俺がレオに行ってティルラちゃん達と一緒に遊ぶよう、エッケンハルトさんを仕向けた。
その時、多少の無茶をしたせいで、結構疲れてしまったみたいだな……。
まぁ、レオに怯えてたのもあるから、気疲れの方が大きいのかもしれないが。
あとは、昨日の覗きの一件で夜遅くまで寝られなかったのも原因の一つかもしれない。
「それなら、疲労回復だけじゃなく……これもどうですか?」
「……それはなんだ?」
「安眠できる薬草です。普段よりもぐっすり寝られるので、起きた時にさっぱりと起きられますよ?」
「おぉ、それは良い!」
安眠薬草は、森に行った時以来誰にも渡してなかった。
特に寝られないとかの症状がある人もいなかったし、普通に寝れば疲労も取れるからな。
疲労回復の薬草と合わせて飲めば、明日の朝には、それまでの疲れが一切無くスッキリとした目覚めになるだろう。
……睡眠薬に近い物かもしれないから、あまり常用はしないように気を付けないといけないが。
「では、部屋に戻ります」
「ありがとう、タクミ殿。それではな」
「おやすみなさいです!」
エッケンハルトさんに安眠薬草を一つだけ渡し、再度挨拶をして部屋へと戻る。
俺の方も、普段の素振り後よりも疲れを感じるから、筋肉疲労の薬草を食べておこう。
薬草がいつでも栽培出来て、便利な物が多いとはいえ、全てがそれに頼る事はしたくないから、最低限だけだな。
頼る時は頼るが、それに依存はしない……それがここ最近、何となく考えていた事だ。
とはいっても、『雑草栽培』ができる事を模索したり、薬草を使って人の役に立つ事を止めたりはしないけどな。
用法用量を守って正しく薬草や薬を使う……というだけの事だ。
「ワフ」
「お疲れ、レオ」
「ワフワフ」
部屋に戻り、一息入れたところでレオがじゃれて来る。
今日はティルラちゃんや、エッケンハルトさんに任せきりだった時間が多かったから、俺に構って欲しいのかもしれない。
「とは言え、先に風呂に入らないと……結構汗を掻いたしな」
「ワフワフ」
「ははは、仕方ないな。それじゃ、俺だけ行って来るよ」
「ワフー」
風呂と聞いた途端、俺から離れておとなしくなるレオ。
ある程度改善したとはいえ、まだ風呂に対する苦手意識は消えないようだ。
またそのうち、風呂に連れて行かなきゃいけなくなるだろうが、まだそんなに汚れてないから、今日は俺一人で入る事にしよう。
「ただいま、レオ」
「ワフ、ワフ」
風呂で汗を流し、しっかり温まってから部屋へと戻る。
おとなしく待っていたレオを撫でながら、ベッドへ座る。
「ワフワフ……ハッハッハッハ!」
「おいおい、落ち着けって。ちゃんと相手してやるから」
舌を出し、早く構ってとばかりに俺の顔を舐めるレオ。
それに笑って返しながら、しっかりレオの頭を撫でてやる。
そのまましばらくレオを撫でたり、構ってやった後、ベッドに入って就寝した。
今日も色々あったけど、明日も頑張ろう。
ミリナちゃんと薬草の調合とか、試作したワインとかがあるしな。
――――――――――――――――――――
翌日、起こしに来るとの名目で、シェリーと共にレオを構いに来たティルラちゃんと話しながら、寝起き直後の支度を整える。
今更だけど、髭を剃るのも慣れて来たなぁ……もうほとんど傷ができる事がない。
油断すると、切ってしまうけどな。
「レオ様、タクミさん。朝食に行きましょう!」
「ははは、元気だねティルラちゃん。それじゃレオ、行こうか」
「ワフ!」
「キャゥ!」
「シェリーも一緒だ、忘れてないよ」
俺達が起きて支度を済ませたのを見て、ティルラちゃんがはしゃぎながら食堂へ。
自分の事も忘れずに! と言うように主張する、レオの頭の上に乗ったシェリーを撫でながら、食堂へと向かった。
そういえば、昨日の夕食後、シェリーがフェンリルだと知ったアンネさんはどうしただろう?
シェリーくらいは大丈夫になったかな?
クレアさんも一緒に残って話してたみたいだから、問題は起こってないだろうけど。
「おはようございます、皆さん」
「おはようございます、タクミさん」
「おはようございますわ」
「おう、タクミ殿。おはよう」
「ワフ?」
食堂に入ると、既にクレアさんとアンネさんはテーブルについていた。
皆に挨拶をして、それを返される中で、いつもと違う事に気付く。
……エッケンハルトさん?
今まで朝食の席にはいなかったエッケンハルトさんが、眠そうな素振りすらなく、座っていた。
昼食や夕食はまだしも、朝食の時から起きて座ってるエッケンハルトさんは、初めて見たな。
同じ事をレオも考えたのか、エッケンハルトさんを見て首を傾げていた。
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