ミリナちゃんに調合をお願いしました
「ちょっと、新しい薬草を作ったんだけどね?」
「新しい薬草ですか!? さすがは師匠、凄いです!」
「いや、俺というよりも、ギフトが凄いんだけどね。それで……調合をしなくちゃいけなくなったんだ」
「調合、ですか? ですが、調合は素人がやるのは危ないと……」
新しい薬草と聞いて目を輝かせたミリナちゃんだが、調合と聞いて表情が曇る。
興味はあるようなんだが、本には不勉強な者が軽い気持ちでやるべきではない……とあったからな。
それを思い出してるんだろう。
それはともかく、ミリナちゃんの隣にいるライラさんも目を輝かせてる。
新しい薬草って、そんなに凄い事なのかな?
「今回調合するのは、もし間違えても毒になったりなんてしないから、危険じゃないよ」
「そうなのですか?」
「過剰摂取は危ないかもしれないけどね。多少調合に失敗しても、体に害のある薬草じゃないよ」
今回作った薬草は、栄養素を含む……というだけの薬草だ。
過剰摂取に気を付けて、含有量も控えめにしてるから、多少間違えたところで問題はないだろう。
『雑草栽培』が考えた通りの薬草を栽培してくれてるなら、だけどな。
「そうなのですか。では、ついに調合ができるのですね!」
「うん、そうだよ。だから、ミリナちゃんにも手伝って欲しいんだ」
「私も……良いのですか?」
「勉強熱心なミリナちゃんだからね。今では、俺が教えられる事もあるくらいだし……」
「そんな、私は……」
自分も調合をする事になるとは考えて無かったのか、少し遠慮気味のミリナちゃん。
だが、ランジ村に俺が行っている間にも、セバスチャンさんに借りた本でしっかり勉強していたのを知ってる。
今では、俺が前もって予習していた部分も越えてるから、場合によっては俺がミリナちゃんに教えられるくらいだ。
……師匠失格な気がするから、もっと頑張ろう。
他の事があって、予習する時間が無かった……というのは言い訳か。
「大丈夫、難しい事じゃないからミリナちゃんにもできるよ」
「……わかりました。師匠からのお願いです。私、頑張ります!」
「ははは、そこまで肩肘張らなくても大丈夫だよ。本を見ながらだし、失敗しても良いんだから」
「はい……。それでいつから調合をするんですか?」
「えーと……明日か明後日から、かな? まぁ、また決まったら教えるよ」
「わかりました! それまでに、もう一度本を見て勉強しておきます」
「うん、お願い」
調合が試せる事に、前向きになったミリナちゃんは、意気揚々と本で勉強するつもりのようだ。
俺も、負けないように勉強し直した方がいいだろうなぁ、これは。
ミリナちゃんに任せっきりってのも、ね。
「それじゃ、使用人の勉強も頑張ってね」
「はい」
「しっかりと、指導させて頂きます」
調合を試す事を伝え、俺は客間を出る。
俺が出た後の客間からは、元気なミリナちゃんの声で「行ってらっしゃいませ!」とか聞こえて来たから、見送りの練習だろう。
……そういえば、俺も参加して練習したいとか考えた事もあったな。
エッケンハルトさんとの鍛錬があるから、今日はできないが……頃合いを見計らって参加させてもらおう。
俺がやる必要はないが、ちょっとした興味というか遊び気分だ。
使用人の仕事は遊びじゃない……とか言われないように気を付けよう……。
「お、来たか。タクミ殿」
「遅いです、タクミさん」
「ワフ、ワフ」
「キャゥ!」
「すみません。ヘレーナさんの所で、少し話し込んでいまして……」
裏庭に出ると、既にエッケンハルトさん、ティルラちゃん、レオやシェリーも待機していた。
レオと一緒にいても、もう怯えた様子はないから、昼前にエッケンハルトさんとティルラちゃん達が遊んだ効果は、あったようだ。
若干、エッケンハルトさんが疲れてしまったようだけど……。
「ヘレーナと? 何かあったのか?」
「ワインの事で少し……」
「ふむ……今聞くと、長くなりそうだな?」
「ええ、まぁ」
「後でセバスチャンに聞くとしよう。今は鍛錬だ」
「はい」
ワインの事、と聞いて興味がありそうなエッケンハルトさんだが、後でセバスチャンさんに聞く事にして我慢するようだ。
今は、鍛錬の時間だからな。
「ふむ、また少しタクミ殿の動きが変わって来ているな」
「そうですか?」
「大きくは変わっていないがな。小さな変化だから、自分ではあまり気付かないかもしれん」
「私はどうですか、父様?」
「ティルラは……素直な剣のままだ。多少素直すぎるが……それは後々で良いだろう。今は、そのまま腕を伸ばす事を考えるんだ」
「わかりました!」
基礎鍛錬の後、軽くエッケンハルトさんと手合わせをした。
そこで、エッケンハルトさんに動きを指摘される。
自分では、変わった事があるような気はしないんだけどなぁ。
ティルラちゃんは、性格的に素直というのはよくわかる。
良くも悪くも、真っ直ぐな剣だと俺も思う……まだ俺が言えるような腕じゃないけどな。
そう考えると、同時に剣を学び始めて、変わって来ている俺はひねくれているという……?
……そこはあまり考えないようにしよう。
「おそらく、例の店で戦った経験なのだろうな。あまり大きく動かず、周囲を気にする癖が出てきている」
「あぁ……確かにそれはあるかもしれません」
「屋内などの狭い場所と、今の裏庭のような広い場所とでは、戦い方に違いが出るのは当然だな」
男達が襲って来た時、店内だから大きな動きはできなかった。
棚や物に邪魔されてしまうからな……おかげで助かった部分も大きいが。
多分その時の事を考えて、エッケンハルトさんが言ったような癖になっているんだろう。
広い場所での戦い方と、狭い場所での戦い方……か。
「広い場所であるはずのこの場所で、狭い場所での戦い方は、悪い癖だと言えるだろうな」
「はい」
「体を大きく動かす事が良いとは言わないが、小さく動こうとするとそれにばかり気を取られてしまう。結果、自由に剣を振れるにもかかわらず、剣筋が限定されてしまうのだ」
周囲を気にするあまり、様々な角度から相手を攻める事ができなくなり、決まった攻撃しかできていない……という事なんだろう。
同じ攻撃を繰り返せば、相手が慣れてしまい対処されてしまう。
それこそ、エッケンハルトさんのような達人になれば、それでも相手が対処しきれない攻撃を繰り出す事ができるだろうが、俺にはまだ無理だ。
俺にできるかはさておいて、多種多様な攻撃を繰り出して相手の予測を外すのは、基本中の基本と教えられてたな……。
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