エッケンハルトさんと二人で話しました
「よう、タクミ殿。薬草づくりか?」
「はい。昼前には、ニックが薬草を取りに来ますからね」
一人で呟きながら薬草を作っていたら、エッケンハルトさんがやって来た。
どうやら、俺の呟きも聞こえてたらしい……変な事を言って無くて良かった。
「アンネさんは?」
「アンネリーゼは用意された部屋にこもっている。よほど、タクミ殿に断られた事が堪えたみたいだな」
「……大丈夫でしょうか?」
「まぁ、このくらいは自分でなんとかしてもらわねばな……」
俺に断られた事が原因で、アンネさんは部屋にこもってしまったようだ。
貴族という事を全面に出せば、断られないと信じて疑っていなかったため、それが崩れ去った事によるショックは大きいのだろうと思う。
エッケンハルトさんは、アンネさんの教育を任された事で、それくらいの事は考えてたみたいだけどな。
公爵家と伯爵家……方針が違い過ぎるから、こういう事もあると予想してたんだろう。
「貴族の誘いを断っても、良かったんでしょうか?」
「なんだ、貴族になりたかったのか?」
「いえ、そういうわけではないんですが……」
「それなら、問題はない。貴族だからと、結婚を強要する事は許されないからな」
「公爵家は権力をかさに着ない……ということで、そうなんでしょうけど……」
「なんだ? クレアから聞いたのか? そうだな、公爵家は権力で強要する事を良しとしない。……仕方がない部分もあるがな」
「それは、そうですね」
いくら権力を持ち出して何かをしようとはしない……と考えていても、公爵であることは間違いないんだ。
エッケンハルトさんやクレアさんにその気がなくても、機嫌を損ねないようにだとか、取り入ろうだとかを考えて行動する者もいるだろうしな。
「伯爵家とは方針が違うのはわかっていた事だ。アンネリーゼが今までの生活と変わって、戸惑うこともな」
「伯爵家は、やっぱり公爵家とは違うんですか?」
「あちらの……バースラーは私とは考えが違うからな。人間だから仕方ないだろうが、あちらは伯爵である事を大いに活用して領地を統治している」
人の考え方が違う……というのはもちろん当然の事だ。
十人十色、という言葉もあるくらいだしな。
バースラー伯爵は、エッケンハルトさんとは違って、伯爵だからと好き勝手やって来たんだろうな。
悪質な店やランジ村への襲撃……自領ではなく隣の領地とは言え、民をただの駒のようにしか考えていないのかもしれない。
民を大事に……というクレアさん達の考えとは、全然違うな。
「あぁ、そうだ。アンネリーゼの話ばかりになってしまったが、本題は違うのだ」
「どうしたんですか?」
エッケンハルトさんが、何かを思い出したように話を変える。
俺の所に来たのは、そっちが目的だったようだが、何かエッケンハルトさんが来るような用事ってあったかな?
「今回の……例の店に行った際、セバスチャンにウードを煽らせて、逆上させた事……すまなかった」
「え? はぁ……」
エッケンハルトさんは、昨日の事をしっかり謝るためにここまで来たみたいだ。
頭を下げて謝るエッケンハルトさんに、少し戸惑う。
「クレアに言われて気付いたよ。いくら鍛錬だからと、危険な事をすべきでは無かったな。タクミ殿の成長に期待し過ぎてたようだ……」
「期待ですか?」
俺に、エッケンハルトさんが期待するような事って、あったかな?
『雑草栽培』の事はまだしも、他の事はまだ色々慣れなくてまだまだだと思うし……。
剣の腕なんて、未だレオにもエッケンハルトさんにも、当てる事はできないくらいなのにな。
「ランジ村を守った事も、薬草の事も……剣の腕に関してもだな。タクミ殿なら何とかする……そんな期待を理由もなくしてしまっていた。……そんなはずはないのだがな」
「……そう、ですね。俺にも限界はありますから。もちろん、できる事であれば何とかしますが……」
「そうだな」
ランジ村も、俺の力で全て何とかしたわけじゃない。
やっぱり、レオがいた事が大きい。
薬草はそもそも、『雑草栽培』のおかげだからなぁ……俺の力とも言えるのかもしれないけど、いつの間にか手に入れてた力だから、そこまでの実感はない。
剣の腕は……薬草のおかげで、普通より多少多く鍛錬する事ができてるだけだし、今の所あまり成長という実感はない。
なんとか、ウードの店での時や、オークが襲って来た時は役に立ってくれたけどな。
「タクミ殿には、無理な事を押し付けてしまっていたな……すまない。以後は、危険な事は極力避けると約束する」
「わかりました。でも、役に立つ事があるのであれば、協力しますよ」
「ありがたい。……早速なんだが……レオ様の事でな?」
「レオの? 何かありましたか?」
改めて謝られ、これからは昨日のような事はしないと約束してくれた。
公爵様が、貴族でもなんでもない俺に頭を下げて謝るんだ、約束は守られるだろう。
まぁ、エッケンハルトさんはさっきまで話してたように、公爵だから……という考えは少ないんだろうけど。
ともあれ、エッケンハルトさんはレオの事で何か困ってるようだ。
レオが何かしたかな? そんな感じは無かったと思うんだけど……。
「その……だな。昨日屋敷へ帰る時にレオ様に乗せてもらったわけだが……」
「はい、そうですね」
「それ以来だな……レオ様が私を睨んでいるような気がするのだ……。改めてレオ様に謝りたいのだが、シルバーフェンリルに睨まれてしまうと、どうもな……」
「……レオが怖い……と?」
「……そういう事だ。公爵家として、シルバーフェンリルは敬う存在。私が怖がり睨まれる、という状況は如何なものかと……な?」
「成る程……」
初めてレオと会った時もそうだったが、エッケンハルトさんはまだレオが怖い様子。
昨日の事で、クレアさんだけでなく、レオもエッケンハルトさんにきつく当たってたようだから、その影響だろう。
……レオが人を睨むなんて事は、あまりしないと思うから、怖がってるエッケンハルトさんがそう思ってるだけなのかもしれない。
公爵家とシルバーフェンリルの関わりは、以前にも聞いたから、当主としてはシルバーフェンリルに睨まれてる(ように感じる)事は避けたいんだろうなぁ。
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