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アンネさんの申し出を断りました


「はぁ……嵐が去った気分だな」

「ワフゥ……」


 セバスチャンさんとティルラちゃんが退室し、俺とレオだけになった部屋で一息吐く。

 レオも、俺と同じで溜め息を吐いてるな……やっぱりさっきのは呆れるよなぁ?


「しかし……クレアさん、か……」

「ワフワフ、ワフ?」

「いや、そんな事はできないだろ。相手は貴族だぞ? こっちからなんて……」


 覗きが判明するまでのクレアさんの様子を、思い起こしていると、レオから声をかけられる。

 しかし、その内容はあまり考えたくない……レオ、お前もそんな事を考えるんだな……犬、いやシルバ―フェンリルだからか?

 ともあれ、さっきのクレアさんにはかなり緊張した。

 元々、初めて会った時から綺麗だと感じていたクレアさん。

 隣に座って、触れ合う程の距離で見ると、その事がより実感できた。


 クレアさんは、少々お転婆なところはあるが、公爵令嬢としてしっかりしているし、だからと言って偉ぶった事もしないし、むしろそんな事を嫌う人だ。

 貴族のマナーなんて全く知らない俺にも、きさくに話して気にしなくて良いと言ってくれる。

 食堂での食事とか、何も知らない俺は、絶対マナーとしては何か間違った事をしていてもおかしくないしな……。

 そんなクレアさんが、さっきまであんなに近くに……。


「……寝れなくなりそうだ。この辺りにしておこう」

「ワフ」

「よし、寝ようかレオ。もう結構遅い時間だ」

「ワフワフ」


 レオに声をかけ、ベッドの隣で丸くなったのを少し撫でて、俺もとベッドに潜り込んだ。

 これ以上、クレアさんの事を考えていると、なんだか眠れなくなりそうだからな……明日もやることはあるんだ、早く寝ておかないとな。

 ……眠りに就く直前、アンネさんに対する断り文句も考えなきゃ……という事を思い出したが、すぐにクレアさんの方へ考えが行ってしまうので、何も考えないようにして目を閉じた。



――――――――――――――――――――



 翌日、朝の支度をしてレオと一緒に食堂へ。

 昨日は色々あって寝るのが遅くなったから、少しだけ起きるのが辛かったが、レオに起こしてもらって何とかなった。

 食堂に着くと、ティルラちゃんが眠そうに目を擦りながら、シェリーを撫でている。

 シェリーの方は、ティルラちゃんの横の椅子の上で丸まって寝てるな。

 昨日は遅くまで起きてたから、仕方ないか。


「おはようございます。クレアさん、ティルラちゃん。アンネさんも」

「タクミさん、おはようございます」

「おふぁようございます……」

「おはようございますわ、タクミさん」


 それぞれに挨拶をして、俺も椅子に座る。

 ティルラちゃんだけ、眠気のせいかはっきりと喋れてないな。

 アンネさんの方の目覚めは悪くないらしく、いつもの縦ロールをきっちりセットして、姿勢良く座ってる。

 レオの事もあるからか、シェリーから少し離れた場所だけどな。


「……エッケンハルトさんは、やっぱり?」

「ええ。いつものように、まだ寝ています」


 食堂にはエッケンハルトさんの姿はない。

 以前もそうだったが、昨日は遅くまでクレアさんに説教されてたせいで、今日は特に起きれなかったんだろう。

 そんなクレアさんも、表面上は眠そうな雰囲気を出してはいないが、目の下に隈のようなものがうっすらと見える。

 ……一体どれだけの間、エッケンハルトさんを怒っていたんだろうか?


「それでは、頂きましょう」

「はい。頂きます」

「ワフ」

「キャゥ」

「はーい」

「頂きますわ」


 ヘレーナさんが作ってくれた料理が配膳され、クレアさんの言葉で皆が食べ始める。

 ティルラちゃんやシェリーも、料理の匂いで目が覚めて来てるらしい。

 特にシェリーは、料理が食堂に運び込まれて来た瞬間に、顔を上げて目を覚ました。

 さすがに、匂いには敏感なんだな。


「中々美味しいですわね」

「ヘレーナ……この屋敷の料理長は、自慢の料理人だもの」


 アンネさんが、朝食を食べながら少し驚いた様子。

 そういえば、昨日はヘレーナさんがお休みとかで、ヘレーナさんの料理を朝食として食べるのは初めてだったか。

 クレアさんの言う通り、ヘレーナさんの料理はおいしいからな。

 自慢に思うのも無理はない。


 機嫌良さそうに料理を食べるアンネさんを横目に、クレアさんと目を合わせ、頷く。

 食事が終わったら、改めて昨日の誘いを断らないといけないからな。


「はぁ……満足ですわ。朝からこんな美味しい物が頂けるなんて。クレアさんは贅沢ですわね?」

「そんな事はないわよ。料理人の腕が良いだけよ? 素材は領民がいつも食べてる物とそう変わらないわ。……腕の良い料理人がいる事が、贅沢と言うのなら、そうかもしれないけど」


 食後、ライラさんとミリナちゃんが淹れてくれたお茶を飲みながら、満足した様子のアンネさんとクレアさんの話を聞くともなしに聞きながら、どう断ったものかと考える。

 結局、断り方はクレアさんと話して決まったが、断り文句は考えて無かったからなぁ。

 まぁ、ここは出たとこ勝負か。

 あまり考え過ぎてもいけないだろうしな。


「えっと……」

「そうだわ。タクミさん、昨日の答えは出まして?」


 俺がアンネさんに話しかけようと、声を出した瞬間、アンネさんの方から聞いて来た。

 覚悟を決めて声を出そうとしたら、先制されたようで、少しだけ尻込みしてしまうが……男は度胸だ。

 ……こんなとこで使う事じゃないかもしれないがな。


「……その事ですが、お断りします」

「……は? 今何と? せっかくの私からの誘いを断る……と聞こえたのですが?」

「その通りです。お断りします」


 アンネさんは、俺の言った事が信じられないらしく、聞き返して来たが、俺ははっきりと断ると伝えた。

 緊張し過ぎて、テーブルの下で握ってる手にじっとりと汗を掻いているが、あまり気にしないようにしよう。

 クレアさんの方は、俺がはっきりと断った事が嬉しいのか、ニコニコしている。


「……まさか……。貴族になれるチャンスですのよ? それを断る、と仰るのですか?」

「はい」


 まだ信じられない様子のアンネさん。

 貴族になる、という事はこの世界に住む普通の民であれば、魅力的な事なんだろう。

 けど、俺にはそこまで魅力的には思えないからな。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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