表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

244/1996

覗き魔が現れました



「貴族間で契約を結ぶのは難しいため、今回の申し出を断る……と言うのはどうでしょう?」

「成る程……契約を理由に断るという事ですね。それだと、アンネさんを傷つける事なく断ることができるかもしれません」

「はい。容姿や性格など、理由を上げて断ってしまえば、どうしても相手を傷つけてしまいますからね。……アンネは少しくらい傷ついても良いと思いますが」

「ははは、できるだけ人を傷つけて断る、という事が苦手なので……俺の性分ですかね」

「そういう優しい所も良いのですが……もう少し、お願いを断る、という事を考えないといけませんよ?」


 おっと、注意されてしまった。

 そうだな……以前フェンリルの森に行く時もそうだったが、俺は強くお願いされると中々断れない性格だ。

 断る事で、相手ががっかりしないか……と考えてしまうのが原因だろうが……クレアさんにとっては、懇意にしている相手が、そこら辺の人にお願いされて、何でも言う事を聞いていたら面白くない……のかもしれない。

 何でそうなるのかは、俺にはよくわからないけどな。


「ありがとうございます。おかげで良い断り方が考えられそうです」

「いえ、お役に立てたのなら……。でも、タクミさん?」

「はい、なんでしょう?」

「今回のアンネのお話、タクミさんにとっては良い事しかないかもしれませんよ? 貴族になれますし……」

「そう、かもしれませんね」


 この世界の貴族制度について、俺はまだよく知らないが……特権階級という事は間違いないだろう。

 それこそ、贅沢な暮らしをしてのんびり暮らす事もできるはずだ。

 ある程度の事はしないといけないとは、思うけどな。

 それでも、日本にいた頃よりは楽になる事は間違いない。

 けど……。


「でも俺は、今の状況が気に入ってるんですよ」

「今の状況ですか?」

「はい。この屋敷にお世話になって、レオと一緒に皆と遊んだり。薬草を作る事で、公爵家や街の人達のためになる事ができたりと、ですね」

「屋敷の事はお気になさらなくても良いのですが……そうですか」

「それに、クレアさんやセバスチャンさん、ティルラちゃんやミリナちゃんと一緒に笑っていられるのが、今は一番楽しいですしね。あとは……そうですね、今日と同じような事はさすがに困りますが、剣の鍛錬や魔法というのも、最近は楽しんでますよ」

「そう、ですか。……私達と一緒が」


 貴族になれる、というのは魅力的な事は間違いない。

 けど、今言ったように、この世界に来てからの生活が今は楽しくて仕方がない。

 以前の、仕事で使われて、疲れ果ててた頃とは全く違う生活。

 レオもいてくれるし、他の人達は優しいしな。

 まぁ、自分が貴族になって、大勢の使用人や領民相手にふんぞり返ってる姿が、想像できない……と言うのが一番理由かもしれないけど……。


「いずれ、この屋敷を出ないといけない事もあるかもしれませんが……それまでは楽しくここで過ごして行きたいですね」

「……そんな……タクミさんがよろしければ、いつまででもこの屋敷にいてくれて良いんですよ……?」

「……クレアさん?」


 何だか、色々語ってしまって少し恥ずかしいが、その恥ずかしさに負けないくらい、この屋敷にいる事が楽しいのだと伝えたかった。

 そうしていると、いつの間にかクレアさんがさっきよりも近付いていて、俺の方に体を寄せて頭を肩に乗せていた。

 ……これだけ近いと、頭から追い出していたクレアさんの良い香りが……!


「タクミさん……私……」

「……クレアさん……」

「いつまででも、この屋敷に……。最初、出会った森で助けられた時から、私……」


 肩に乗せた頭の向きを変え、俺を見上げるように顔を覗き込むクレアさん。

 こんなに近いと、俺が少しでも動いたら……。

 心臓の鼓動が激しく、音がうるさい。

 クレアさんにまで聞こえていないだろうかと、少し心配になってしまう程だ。

 手足がしびれたように動かなくなり、クレアさんから逃れる事ができない……目を離す事もできなさそうだ。

 アンネさんに結婚を申し込まれた時は、こんな感覚になる事はなかったのに……。


「……タクミさん」

「……ワフ!」

「っ!」

「っ!? レオ?」


 クレアさんが何を思ったのか、目を閉じて俺に身を委ねるようにした時、レオが急に吠えた。

 ……危なかった……あと数秒遅れてたら……ん? 何が危なかったんだ?


「フワゥ……ワフワフ」

「レオ、どうしたんだ?」

「……レオ様?」


 急に吠えたレオが立ち上がり、溜め息を吐きながらゆっくりと部屋の入り口に近づいて行く。


「ガウ!」

「うぉ!」

「きゃあ!」

「何と!」


 レオが後ろ足立ちになり、前足でドアノブを引っ張ってドアを開けた。

 ……レオ、お前ドアを開けられるんだな……というのは今は置いておいて、それよりもドアが開くと同時になだれ込んで来た人達だ。


「エッケンハルトさん……?」

「お父様……セバスチャンに、ティルラも?」


 部屋になだれ込んできたのは、エッケンハルトさんにセバスチャンさん、それにティルラちゃんだ。

 ティルラちゃんが小さい体で、エッケンハルトさん達の下敷きになって苦しそうだ。

 下からティルラちゃん、セバスチャンさん、エッケンハルトさんの順番で その上にシェリーが乗っていて、ちょっと楽しそうだ……これは遊びじゃないと思うが……。


「く……苦しいです……」

「おっと、すまんな」

「失礼しました」


 下敷きになって、苦しそうな声を上げたティルラちゃんに気付き、サッと体を起き上がらせたエッケンハルトさん達。


「……お父様……まさかとは思いますが……覗いていらしたので?」

「……ははは、いや……まぁ……セバスチャン?」

「……私に振るのは当主らしくないですよ、旦那様」

「ワフゥ……」

「……ティルラ?」

「は、はい! 父様が、姉様が並々ならぬ覚悟を決めて、タクミさんの部屋に行ったので、何かあるだろうからと仰っていました!」

「キャゥ、キャゥ!」

「へぇ……そうなのね……」

「ティ、ティルラ! それを言うんじゃない!」


 俺の隣に座っていたクレアさんが、ゆらりと立ち上がり、エッケンハルトさんの方へと近づきながら聞く。

 誤魔化そうとする、エッケンハルトさんとセバスチャンさんだが、低い声でティルラちゃんに声をかけた途端、綺麗に気をつけをしたティルラちゃんが、全ての事情を話した。

 シェリーもそれに同意するように頷いている。

 ドアを開けたレオは呆れたような顔で溜め息を吐いてるな……俺も似たようなもんだけど。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。


面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はブックマークを是非お願い致します。


作品を続ける上で重要なモチベーションアップになりますので、どうかよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍版 第7巻 8月29日発売】

■7巻書影■mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻口絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻挿絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


詳細ページはこちらから↓
GCノベルズ書籍紹介ページ


【コミカライズ好評連載中!】
コミックライド

【コミックス6巻8月28日発売!】
詳細ページはこちらから↓
コミックス6巻情報



作者X(旧Twitter)ページはこちら


連載作品も引き続き更新していきますのでよろしくお願いします。
神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移


完結しました!
勇者パーティを追放された万能勇者、魔王のもとで働く事を決意する~おかしな魔王とおかしな部下と管理職~

申し訳ありません、更新停止中です。
夫婦で異世界召喚されたので魔王の味方をしたら小さな女の子でした~身体強化(極限)と全魔法反射でのんびり魔界を満喫~


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ