申し出は断る方向で相談しました
「それと、タクミさん。もう一つ聞きたいことがあるのですが……」
「はい、何でしょうか?」
レオをお互い撫でながら、まったりしていると、クレアさんはもう一つ用件があったようだ。
何か覚悟を決めているような表情をしてるな……もしかして、こちらの方が本題だったりするのかな?
「アンネ……アンネリーゼからの結婚の申し込みは、どうされるのでしょうか?」
「あぁ、その話ですか……」
「本当は、私が答えを先に聞いてしまうのは、いけないのだと思います。ですが……どうしても気になってしまって……」
クレアさんは、俺がアンネさんにどう答えるのか気になるようだ。
確かに、俺がどう答えるかで、この先どうなるかが変わるから、気持ちはわかる。
俺がもし、アンネさんと結婚する事にでもなれば、この屋敷にはいられないだろうし、伯爵を継いだアンネさんと一緒に、隣の伯爵領へと行かないといけなくなるだろうしな。
……その場合、公爵家と交わした、薬草販売の契約はどうなるんだろう……?
とか考えてみるが、俺の答えは決まっているしな。
「大丈夫ですよ。俺はアンネさんの誘いを断ります。今も、クレアさんが来るまで、どう言って断ろうかを考えていたところですから」
「そうなのですか!? ……断る……そうですか……良かった」
俺の言った言葉に、立ち上がって驚くクレアさん。
後半の言葉はよく聞き取れなかったが、ホッとした様子だ。
よっぽど、俺との薬草販売契約を気にしていたのかな?
「はい。ですが、断るとしても、どう言えば相手を傷つけずに断れるのか……こういう経験はなくてですね……ちょっと困ってます。クレアさんも、お見合いを断る時は、こんな感じだったんですか?」
「そうですか。……私の時は、おそらくタクミさんよりも気楽でしたね。こちらは公爵家、お相手側は貴族の時もあれば、平民の時もありましたが……どちらにせよ、貴族という事で結婚を迫る感じではありませんでしたから」
「そうなんですね。貴族の方から誘われた時、平民は何て断ればいいのか……悩みますね……」
ベッドに座り直すクレアさんに、エッケンハルトさんが持って来た、お見合い話の時はどうだったのかを聞いた。
貴族の中でも、公爵は爵位として最上位。
その上にあるとしたら、王家くらいなものだ。
そう考えると、クレアさんのお見合い話の時は、基本的にクレアさんが立場が上で、相手側の立場が下になる。
だとしたら、今回の俺の場合よりも断るのは楽だったのかもしれない。
「……数が多かったので、お断りするのは悩む事もありましたけどね。毎回同じ断り方というのも、相手方に失礼になりますし……」
「そうなんですね……」
数が多いと言うのも、それはそれで大変だったんだろう。
立場が上だとしても、毎日のように断り文句を考えるようなら、辟易するのも無理はない。
「もし、貴族が平民に……立場が上の人の方から結婚の誘いをした時、誘われた側はどうするんでしょう?」
「……基本的には、誘いを断る事はありませんね。特に今回の場合、貴族同士ではなく貴族が平民に……ですから。平民が貴族になれる事はほとんどありません。その中で、数少ないチャンスでもありますから」
「成る程……だからアンネさんはあんなに強気だったんですね……」
「あれは、そうですね。それもあると思います。まぁ、アンネが強気なのは、いつもの事ですけれど……」
いつもの事なのか……クレアさんを見てると、強気な貴族令嬢というのが中々想像しづらかったが、そういう事もあるみたいだ。
あれ? フェンリルの森へ行く時は強気だったか? ……いや、あれはセバスチャンさん達に対してだったな……後でクレアさんに謝られたし、あの時の事はあまり思い出さないようにしよう。
それはともかく、貴族から申し込まれたら平民は断らない……か……。
確かに貴族になれるチャンスは、そこらへんにあるとは思えないから、平民が貴族になるために、誘いを断る事は早々無いだろう事は理解できる。
それに、貴族は全て何不自由ない贅沢な暮らしができる……とか考えている人も多いだろうしな。
あまり例がない事なのか……増々、俺が断る事が難しいような気がしてきた……いや、だからと言って受ける気はないんだけどな?
「ふぅむ……どう断ったものか……」
「悩みますよね……私も経験があるのでわかります……」
クレアさんと二人、頭を悩ませながら断りの言葉を考える。
二人共、ベッドに座って手を動かしながらだ。
こういう時、間にレオのモサモサな毛があって、それを撫でてると心が休まるなぁ。
「タクミさん、こういうのはどうでしょう?」
「何か、良い考えが浮かびましたか?」
「はい。タクミさんは、今我々公爵家と薬草販売の契約を結んでいます。つまり、公爵家との繋がりが強い、と言えるわけですね?」
「そうですね。……まぁ、それだけじゃなく、この屋敷にもお世話になっていますが」
何やら思いついた様子のクレアさん。
公爵家との繋がりが強い、というのは確かだろう。
クレアさんやティルラちゃん、エッケンハルトさんはもちろん、この屋敷の使用人の皆さんには、お世話になってる事は間違いないしな。
「伯爵家の者になってしまうと、今まで通りの契約では薬草の販売が出来なくなると思います。タクミさん個人というより、伯爵家との契約になりますから」
「……そうなんですか?」
「はい。貴族はその家々で商売をするとしていますが、貴族間での契約というのは、ほとんどありません」
確か、貴族は税金の他に、自分達の暮らしの向上のために商売をする……だったか。
商売に成功すれば、領民への税金も安くする事ができるため、そうする事を推奨されてるんだとか……。
まぁ、伯爵家のような悪徳商売や、失敗をしなければ良い事なんだろうと思う。
失敗したりして、生活が困窮したら、税金を上げる貴族もいるのかもしれないが。
他領に対して商売をする事はあるだろうが、基本は自領で行うだろうし、他領に対してもその商売の先はそこに住む領民だ。
全くないわけじゃないんだろうが、貴族間での契約というのは稀な事らしい。
別の貴族を通すという事は、当然その貴族にも利益が出る事なはずで……その分出費が増える、という事かもしれない。
他領民に対して直接商売をした方が、大きな利益になるだろうからな。
日本でも、業者を通さず直売……という方が費用が少ないために、安い値段で販売できる……という利点があるしな。
……当然、不利な点もあるけどな。
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