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240/1996

アンネさんから思いもよらぬ申し出がありました



 帰りながら、ちょっと不憫に思えて来たエッケンハルトさんにブドウジュースをご馳走……という事で思い出した。

 考えてみれば、ワインを煮詰めただけでジュースになるのは、ちょっと不思議な話だ。

 俺は詳しくないから、簡単に考えてブドウジュースと言っていたが……まぁ、元々甘さが強いワインだったから、ジュースとしても違和感がないのかもしれないな。


 もしかすると、この世界特有のブドウの品種だったり、ヘレーナさんが処理をする時、飲みやすくするため何か工夫をしている可能性もあるからな。

 とりあえず今は、ランジ村のワインを沸騰させて、アルコールを飛ばすとジュースになる……という事で納得しておこうと考えた。

 ラモギやロエのように、似ていても凄い効果を発揮する物……という例もあるしな。


「ぬわぁぁぁぁぁ!」

「ワフ! ワフ!」

「レオ様、はしゃいでいますね」

「……そうですね」


 そんな事を考えていた、馬車での帰り道……エッケンハルトさんを乗せたレオは、振り落とさない程度に道を爆走。

 馬車を追い越して先に行ったり、戻って来たりを繰り返している。

 レオにしがみ付いて、なんとか振り落とされないようにしながら、悲鳴にも聞こえる叫びを上げているエッケンハルトさん。

 そんな様子を、馬車の窓から見ていたクレアさんは。レオの事を微笑ましく見ている。


 叫び声を上げても、心配されない父親……ちょっと不憫だ。

 ……怖いから、俺はクレアさんを怒らせたりする事が無いように気を付けよう。

 敵に回したら怖いセバスチャンさんとは、また違った意味で怖いからな。


「それにしても、本当にシルバーフェンリルが、人の言う事を聞いていますのね?」

「レオ様は優しいのよ」


 馬車の中、アンネさんが興味深そうに走るレオを、窓から見ながら呟く。

 ……まぁ、レオは元々マルチーズで賢かったからなぁ……シルバーフェンリルではなかったから、人の言う事を聞くし、俺の言う事を特に理解してくれる。


「そして、そのシルバーフェンリルを従える人間、ですのね?」

「そうよ。アンネなら知っているでしょう? 公爵家がこの国でも、特にシルバーフェンリルを敬っている事を」

「ええ、もちろんですわ。国の歴史にも登場するシルバーフェンリルですもの。公爵家以外でも、貴族なら知っていて当然ですわ。……タクミさん、と仰ったかしら?」

「はい」


 レオ……シルバーフェンリルの事を話していたアンネさんが、外を見るのを止め、俺の方へ視線を向けて来る。

 そう言えば、こうして直接話すのは初めてか……昨日の客間では、クレアさんが怒ってすぐにレオをけしかけたからな……話す暇が無かった。

 というより、アンネさんは俺の事を、使用人か何かだと考えていた節がある。

 まぁ、確かに貴族ではないから、伯爵令嬢からすると、俺なんて特に気にする必要のない、取るに足らない路傍の石のようなものかもしれない……と思うのは、自分を卑下し過ぎかな?


「貴方が、シルバーフェンリルの主人ですのね?」

「……主人というか……相棒ですね。俺はレオを従えてるとは考えていません。対等の関係だと思っていますから」

「そうなのね……シルバーフェンリルを対等……面白そうね……」

「アンネ?」


 俺の返答を聞いたアンネさんは、何かを考え込むように俯く。

 何か最後に呟いたような気がするけど、さすがにもう感覚強化の薬草の効果が切れているため、よく聞こえない。


 ちなみに、馬車の中は広く、3人で乗っていても触れたりする事は無く、快適だ。

 座る椅子は二つあり、片方にクレアさんとアンネさん。

 逆側に俺、という形だ。

 椅子の間の両側に扉があり、どちらかから出入りし、その扉を挟むように小さな窓が、計4つある。

 外も見えるし、窓を開ければ風が入って来るから、息苦しくなる事もない。


「そうね……シルバーフェンリルを連れているのなら、良いかもしれないわね。顔も……まぁ、及第点ってところかしら?」

「……どうしたの、アンネ? また何か変な事でも……」


 俯いたまま、誰にも聞こえないような小さな声で、何やらぶつぶつ言っているアンネさん。

 その様子に、クレアさんが訝し気に聞いているが、それには反応しない。

 確か……今回の件を考えて、思いついたのがアンネさんだったか……何か嫌な予感がするな。


「タクミさん、貴方……すでに結婚をしているとか、そういう事はありませんわよね?」

「え? えぇ、まぁ……」

「何を聞いているの、アンネ?」


 俺が結婚しているかを聞いて来たアンネさん。

 生まれてこの方、結婚という言葉とは無縁だったからなぁ……時折、女性をどう扱って良いかわからない時もあるくらいだし……。

 俺には今までレオがいたからな、それで寂しくなんてなかったんだ……なかったんだ!

 そういえば、レオに早く番いを……とか言われてたっけか……ふと、そんな事を思い出した。


「貴方、私の婿になりなさい。そして、一緒に伯爵家を盛り立てて行くのです!」

「は?」

「アアアア、アンネ!? 急に何を言い出しているの!?」

「何をそんなに驚いていますの、クレアさん? 女なら、良い男がいれば婿に取りたいと思うもの、そうでしょう?」


 何やら突然、アンネさんが婿になれとのたまった。

 直接話したのは今が初めてなのに、急にどうしたんだろう?

 求婚されるのはもちろん初めてで、どう反応して良いのかわからない。

 取り乱してる様子のクレアさんだが、俺も十分に頭の中が取り乱してる。

 ……という事を考える事で、なんとか脳内の平静を保っているんだ、多分。


「シルバーフェンリルを従えている、この事だけで価値がありますわ。きっと、伯爵家のために働いてくれるでしょう!」

「そそそ、そんな……タクミさんが伯爵家に……なんて……」

「いえ、その……俺は……」

「まさかとは、と思いますけれど……断る、なんて事は致しませんわよね? 次期伯爵家当主からのお誘いですわよ?」

「えーと……」


 ぐいぐい来るな、このアンネさんは……。

 アンネさんは、確かに美人だし、話を聞く限りでは頭も悪くなさそうだ。

 クレアさんと比べると……一部物足りない胸部があるが……それを差し引いても余りある魅力が……とは、さすがに俺でも考えていない。

 美人な事は美人なんだが……残念な雰囲気が漂うような……いや、確かに街を歩けば、すれ違う男が全員振り返るような容姿ではあるんだけどな?

 でも、話したのは今が初めてだし……こんな事を突然決めるのはどうかと思うし……。

 ……俺もやっぱり、十分に混乱してるな、これ。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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― 新着の感想 ―
[一言] ずうずうしいよなあ。 犠牲者が出なかったのもタクミやレオというイレギュラーがいたからというだけで、目的は虐殺だったのだから、お家取り潰しで領地は差し押さえれ、アンネも平民になるのが妥当だろう…
[一言]  ……え~と、もしかしてタクミ君は"巨乳派"ですかねぇ(^^;a >アンネ  ……まぁ、人としてはどうあれ、"経営者"としては意外と有能だったり?(笑)
[一言] ウザいよね。打算でしか測れないツマラナイ女もグダグダ言い訳して否も是もしない男も。
2020/02/21 03:43 退会済み
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