調子に乗ったのは計画通りのようでした
「では、旦那様に代わりまして……実はですな、タクミ殿。ウードという男が逆上し、私達に襲い掛かって来る事は予想されていたのです」
「……は?」
一瞬、セバスチャンさんの言っている事が理解できなかった。
連れて行かれた男、ウードが逆上する事は予想していた……。
てっきり、セバスチャンさんが男の様子に気付かず、必要以上に追い詰めて逆上したんだと思ってたんだが?
「タクミ様がランジ村に向かう時、私はこの街で調査をする……と言いましたね?」
「はい。そのために、ここまで一緒に来ましたし……」
「その時、この店の責任者であるウードを始め、関係者を調べていたのです。全てを調べられたわけではありませんが、その時にウードは言い募られれば逆上し、当たり散らす性格……との情報がありました」
「はぁ」
ランジ村に行く前、セバスチャンさんと一緒にレオに乗って、この街を経由した。
その時確かにこの店の事を調べるから……と言う事だったが、そこでウードという男の性格はしっかり調べて把握していたらしい。
「おかしく思いませんでしたか? 私が先程、ウードに対し、必要以上に言い募っていた事を……」
「……確かに、少し言い過ぎかな……と思う部分はありましたね……」
てっきりセバスチャンさんが気持ち良くなって来たから、言葉を止めずにウードを追い詰めて行ったんだと考えてた。
有能なセバスチャンさんなら、あそこまで言わずともウードを追い詰め、控えていた男達を暴れさせることなく、フィリップさん達や衛兵さん達を呼んで捕まえさせる事も可能だったのかもしれない。
というより、そっちの方がセバスチャンさんらしい……か。
「ウードを逆上させ、私達を襲うように仕向けたのですよ」
「それは……何故ですか? そんな事をしなくても、捕まえられたと思うんですけど……?」
そもそも、エッケンハルトさん側で、大元の伯爵を抑えている時点で、すぐに捕まえる事ができたように思う。
まぁ、直接ここに来て、捕まえる……という事には、俺も参加したけどさ……。
「私達を襲わせた理由ですが……」
「そこからは私が話そう」
理由を話そうとした、セバスチャンさんの言葉の途中で、エッケンハルトさんが言う。
あ、ちょっとセバスチャンさんが残念そうだ……説明するのが好きだからなぁ。
「セバスチャンの情報収集で、ウードとその周辺の者達の事がわかったのだ。その時、ここにいると言われていた兵士風の男達の事もな」
「そうなんですか……?」
「あぁ。兵士の装いで、店に来る客を脅すような事もあったらしい……警備として安心させる目的もあったみたいだが……ともあれ、その兵士達なんだが、この街、もしくは伯爵領にいるゴロツキどもでな」
「ゴロツキ……」
俺達を襲って来た男達は、言葉や剣の使い方は確かに粗暴だった。
格好は、フィリップさん達に近く、金属の鎧を着てたから、伯爵家の方で雇われた護衛か何かだと思っていたんだが、単なるゴロツキだったみたいだ。
それなら確かに、俺が簡単に対処できたのも納得できる。
薬草の効果や、店の中が狭かった事、棚に置いてある薬を傷つけないようにしていた、という条件も重なって、だけどな。
「ゴロツキどもが大した実力を持ってないのは、調べてわかっていた事だ。見掛け倒し、というやつだな。そこでだ、私がセバスチャンに言って、襲ってくるように仕向けさせたのだ」
「……それは、どうしてですか?」
捕まえるだけなら、そんな事はしなくても良いように思える。
荒事がなければないで、簡単に片付いて良かったと思うんだけどな。
「……すまない、タクミ殿。私がタクミ殿を試したのだ。正確には、鍛錬の一環として……だな。タクミ殿が鍛錬を続け、どれほどになっているのかは、昨日手合わせしてわかっていたからな。負ける事はないと確信があったのだ」
「え……それじゃあ、昨日あれだけきつい鍛錬をしたのも……?」
「もちろん、ここで戦っても大丈夫かを判断するためだ」
ゴロツキ達が大した腕では無い事がわかったうえで、俺に戦わせ、実戦経験を積ませる……という鍛錬だった、という事か……?
「タクミ殿は、先日ランジ村を救うために魔物……オークと戦ったな?」
「はい」
「私の鍛錬と、セバスチャンの教えを駆使し、見事時間を稼いで村を救って見せた。だがな、やはり魔物と人とでは違うのだ」
「魔物と人……」
「魔物は基本的に、何も考えず襲って来る。例外も当然いるがな? だが、人は考えて行動するものだ。そして、複数で集まり相手を圧倒する場合もある。魔物相手だけでなく、人相手にも、ちゃんとした実戦をして欲しかった、というのが私の考えだ」
「……そうなんですか。でもそれならそれで教えてくれていれば……」
「それだと、あまり意味がないからな。人は隙を狙って突発的に襲って来る。魔物もそうだが……今回はその咄嗟に襲って来た人間を止められるか……というのを試したのだ」
「……成る程……」
全てエッケンハルトさんの手のひらだった……という事かな?
前もってそうなる事を教えていたら、必要以上に身構えるかもしれないと考え、俺には教えず、ウードを逆上させ、俺が防げるか……という鍛錬に変えたかったらしい。
むぅ、人と魔物で違うから、経験させるため……というのはわかるが、何だか納得がいかない。
「タクミ殿が、もしこれから先、どこぞのろくでもない考えの奴らに狙われた時、自衛できるように……というのも考えていたぞ?」
「それでも、お父様は急すぎます! タクミさんは、まだ剣を習い始めて時間が浅いのですよ? それなのに、こんな事を仕向けて……」
「……それはそうなのだがな……。オークと戦った事も含めて、タクミ殿は急成長しているからな……。おそらく、鍛錬に使っていた筋肉を回復させる薬草の効果もあるんだろうが……」
不満そうな顔で、黙って説明を聞いていたクレアさんが、ここでエッケンハルトさんに対して不満を爆発させた。
昨日のアンネさんの事があるから、少々押され気味のエッケンハルトさんは、言い訳するように言っている。
確かに俺は、エッケンハルトさんの言うように、鍛錬で筋肉の疲労を感じたら、薬草を食べて筋肉を回復させている。
おかげで、普通よりも鍛錬の量を多くこなせる。
その分、人より成長が早い……のかもしれない、自分ではあまり実感はないが。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はブックマークを是非お願い致します。
作品を続ける上で重要なモチベーションアップになりますので、どうかよろしくお願い致します。