セバスチャンさんが調子に乗ってしまいました
「疫病は、これを飲むだけでたちどころに治ります。……こちらの薬とは違って、です。試してみたのですが……ラモギを少量水に溶かし、しばらく放っておくと……こうなるようですな?」
そう言って示したのは、さっきと同じ薄紫の液体が入った瓶。
……ラモギを水に溶かしたら、こんな色になるのか、知らなかった。
ちゃんと病に効果がある量を水に溶かせば、もっと濃い紫になるのだろうか……?
どちらにせよ、水に溶かして放っておいた液体が、病を治せるとは思えない。
「これでもまだ、ちゃんとした薬を売っているとでも言うのですかな? 貴方は、街にある店から薬草や薬を買い占め、それらを薄め、効果がほとんど出ないようにして売り出していたのです。これは罰せられるべき行為だと思いますが……?」
「……」
セバスチャンさんに言い募られて、返す言葉の無くなった男。
俯いて、ただセバスチャンさんの言葉を聞くだけになっている。
「しかも、今回はラモギを使った薬だったようですが……相手によってはラモギとは全く関係のない薬や薬草を売りつける事もあったとか……全て、調べはついております。……もっとも、最近は我々が用意した薬草によって、この店にお客様が来る事はほとんどなかったようですが……」
「……お前が……」
「ラモギを値下げし、誰でも買えるようにした後は、さらにそれが顕著だったようですな。我々の運営する店は、連日繁盛していましたが……」
調子に乗って来たのか、気持ち良くなって来たのか……男の様子に気付かないまま、セバスチャンさんは追い詰めていく。
……なんか様子がおかしいから、その辺りで止めておいた方が良いと思うんだけど……。
追い詰める事に集中して、せっかく感覚強化の薬草で相手の様子がわかるようになっているのに、気付かないみたいだ。
「そもそもこの公爵領内で、商売の独占をしようなどと……」
「お前が、全てお前のせいかぁぁぁ!」
「!?」
「おい! お前達、こいつらを捕まえろ! こいつらのせいで、私達は商売を横取りされたんだ!」
「「「へい!」」」
急に叫んだ男が、店の奥に向かって吠える。
セバスチャンさんは、こうなるまで男の様子に気付かなかったようだ。
男の声に応えて、兵士風の男達が3人、武器を持って現れた……俺達を捕まえるか脅すか……もしかすると口封じと殺すつもりなのかもな……。
まぁ、ここで俺達が口を封じられたとしても、既にエッケンハルトさんが全て把握しているのだから、罪を重ねるだけだ。
……まったく、自棄になった犯罪者ってのは……っ!
「覚悟するんだな!」
「……遅い!」
出て来た男のうちの一人が、俺に向かってショートソードを抜いて近づいて来た。
叫びながら振り上げ、俺に向かって振り下ろすが、感覚強化の薬草のおかげで、動作は見え見え。
しかも、身体強化の薬草も食べてるから、オークよりも遅い動作で襲って来る男の攻撃なんて、全く怖くもない。
「タクミ様!」
「大丈夫です!」
素早く後ろに下がりながら、俺に声を掛けて来るセバスチャンさん。
それに答えながら、空振りして剣が地面近くにまで振り下ろした男の手を狙い、剣の腹で打ち付ける。
「ぐっ!」
痛みに耐えかね、剣を落とす男。
セバスチャンさんと違って、俺はウードとかいう奴の様子には気付いていたから、いつ何が起きても良いようにと立ち上がっていた。
気付いていなかったセバスチャンさんは、反応が遅れてたから、さすがに最初にそっちを狙われたら、怪我をしてしまってたかもしれないな。
……というかセバスチャンさん、確かに戦闘はできないって言ってましたけど、すぐに俺の後ろに隠れるとは……。
「くそっ! てめぇ!」
「やっちまえ!」
剣を落とした男が、再びそれを拾い、さらに残りの2人がカウンターを乗り越えて俺達の所へ来る。
とは言え、そこまで広くない店内だ、完全に俺達を取り囲む事はできない……今のうちに……。
「セバスチャンさん、外にいるフィリップさん達を! っ!」
「……畏まりました! すぐに戻ります!」
後ろにいるセバスチャンさんなら、すぐに店の外に出られる。
身体強化の薬草のおかげで、初老とは思えない程の動きで外へ向かうセバスチャンさん。
それを守るように、襲って来た男達のうち、まずは右手側……そちらの剣を自分の剣で受け止め、右足で左にいる他の男達の方へ蹴り飛ばす!
「ぐぅ!」
「くそっ!」
「邪魔だ、どけ!」
「お前達! 何をしている! 逃げられるぞ!」
逃げるつもりはないんだけどなぁ。
そう考えつつ、男達が立ち上がるまでの間に、剣を構え直す。
……この店が広くなくて良かった……男たちは、店を傷付けてはいけない、という意識が働いているのか、剣の振り方が単調だ。
いくら短いショートソードとは言え、横に振ったりしたら、棚やそこに置いてある商品を傷付けてしまうからな。
全て上か下、縦の攻撃とわかっているから、相手の手数が多くても対処できる。
さすがに、身体強化があって、オークより動きがのろいと言っても、三人がかりで自由に攻撃されたら、危ないからな。
「この野郎!」
「おい、邪魔だ!」
「そっちこそどけ!」
俺に対して単調な攻撃をしながら、狭い店内でガタイの良い男達が、思いっきり暴れようとするのは無理がある。
しまいには互いの体をぶつけ合ったりと、仲間内で喧嘩も始めた。
オークとの経験もあり、他の条件が重なった事で、そこまで難しい戦いにならなくて良かった。
「タクミ様、ご無事ですか!?」
「フィリップさん、ヨハンナさん!」
男達のうち、2人がお互いの頬をひっ付け合うようにしながら、振り下ろして来た剣を剣で受け止めながら、聞こえて来た叫びに答える。
ドアを開け放って突入して来たフィリップさんとヨハンナさん。
……その後、騒動はあっさり終わった。
店の中が狭い事で、フィリップさん達は腰の剣を抜く事無く男達に迫る。
近づいて来たフィリップさん達に掴まらないようにと、剣を振る男達だが、単調な剣の動きであっさり腕を掴まれ投げ飛ばされる。
一人の男がフィリップさんに掴まり、一本背負いに近い動きで投げた先にはもう一人の男。
力いっぱいぶつけられた男同士は、剣を取り上げられ、あっという間に捕縛。
残った一人はヨハンナさんによって、喉へ拳の一撃……思いっきり金属の手甲を受けてる、痛そうだ。
喉へ打撃を受けた男は、声すら出せない様子で地面に倒れた……あれ、息をするのも辛そうだなぁ。
「……そ、そんな!」
「罪を重ねるのは感心しませんな……申し開きの必要は、もはやありません」
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