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225/1996

ワインを煮詰めて飲んでみました



「フィリップが持ち帰ったワイン樽だが……このままでは飲めないのだろう?」

「はい。セバスチャンさんからそう聞いております」

「確か……煮詰めれば飲めるとか……ひと樽分、頼む。すまないが、タクミ殿ひと樽買い取らせてくれ」

「畏まりました、すぐにご用意致します」

「え? 良いですけど……というか、買わなくてもあげますよ?」


 ヘレーナさんに頼んで、ワイン樽を一つ、熱を加えて飲む事にしたのだろう。

 ワイン樽は大量にあるから、一つくらい皆で飲むようにしても全く構わない。


「まぁ、私の面目もあるからな。一応、買い取った事にさせてくれ。それとヘレーナ、瓶数本分、何もせずに保存しておいてくれ」

「はいっ!」


 貴族でもない俺からではなく、エッケンハルトさんが買った物を皆で……という体裁なのだろうか?

 俺にはよくわからないが、ここは言われた通りにしておこう。

 さらに、ワインを処理するために移動しようとしたヘレーナさんに声を掛け、いくらかのワインは別にしておくようだ。

 多分、例の店へ持って行くためのものなんだろう。

 ワイン樽からは数十本は軽くとれる量がありそうだから、数本分くらい大した量じゃないしな。


「旦那様、こちらになります」

「ふむ……良い香りがするな……これが全てそのまま飲めないとは……フィリップ、その樽をヘレーナの所へ」

「はっ!」


 数人がかりで転がして来たワイン樽に近付き、その匂いを嗅ぐエッケンハルトさん。

 樽に使われる木と、中に入っているワインの香りが混ざって、確かに良い香りが漂っている。

 ……エッケンハルトさんは、ワインに詳しいのかな?

 お酒には強そうな見た目だし、貴族だしで、詳しくてもおかしくないか。


「さて、ヘレーナの準備が終わるまで、我々はもう一度客間に戻るか」


 エッケンハルトさん、セバスチャンさんと共に、玄関ホールを離れて客間へ戻る。

 戻った客間では、クレアさんの怒りは静まりお茶を静かに飲んでいて、レオはシェリーやティルラちゃんとじゃれ合っていた。

 ……無理矢理アンネさんの方にじゃれつかされてた時より楽しそうで良かった。

 客間に戻った時、レオに恨めしそうな眼で見られたのは……気にしない事にしよう。


 しかしアンネさん……疲れてる様子だな……自慢? の縦ロールも今は乱れていて、最初の印象はもう薄い。

 そりゃ、恐怖の対象になっているレオからじゃれつかれてたんだから、当然か。


「失礼します。旦那様、ワインの処理が終わりました」

「うむ」


 しばらく客間で何を話すともなくくつろいでいると、ヘレーナさんが入ってきて、煮沸処理の終わったワイン……もといブドウジュースを持って来てくれた。

 煮沸したから暖かいかと思っていたら、しっかり冷やされているらしく、冷たいジュースになっていた。

 ……時間的に考えて、魔法かな?


「さて、タクミ殿、レオ様。これらのワイン……ジュースは飲めると思うか?」

「俺はなんとも……レオに調べてもらわないと……ほら、レオ」

「ワフ? スンスン……ワフ!」


 セバスチャンさんとライラさん、用意してきてくれたヘレーナさん以外がテーブルにつき、皆の前に並々とブドウジュースが注がれたコップが置かれる。

 そのコップからは、やはりアルコールの匂いは無く、ブドウの香りだけしかしなかった。

 エッケンハルトさんに言われて、レオに匂いを嗅いでもらい、判別してもらう。

 首を傾げた後、力強く頷いてくれたので、大丈夫という事だろう。


「大丈夫そうですね」

「そうか、では頂こう。私も、ランジ村のワインは初めてなのでな。……できる事なら、ちゃんとしたワインで飲みたかったが……」


 エッケンハルトさんは、ランジ村のワインを飲んだ事がないらしい。

 確か、ハンネスさんはラクトスと、伯爵領の方に卸してると言っていた。

 俺が買ったワイン樽は、飲めない分で申し訳ないが、今はこれで我慢してもらおう。


「ん……」

「……ゴク」


 エッケンハルトさんを始め、クレアさんやティルラちゃん、アンネさんも置かれているコップからブドウジュースを飲み始める。

 皆、一口飲んだ後に大きく目を見開き、驚いた表情をした。

 俺も一口……うん、保管場所や煮詰める事で、味に少々不安はあったけど、ランジ村で飲んだワインと変わらず、甘くて美味しい。

 もしかしたら、熱を加えることでアルコールが飛ぶ代わりに、凝縮された……という事もあるのかもしれない……こういう事にはあまり詳しくないが。


「ワフワフ」

「キャゥー」

「お、なんだ。レオもシェリーも飲みたいのか?」

「ワフ」

「キャゥ」


 俺達がジュースを飲んでその味に驚いていると、レオとシェリーからおねだりの声が。

 どちらもブドウジュースを飲んでみたいようだ。

 レオはランジ村で、ワインには興味を示さなかったのにな……アルコールが無いからか?


「すみません、レオやシェリーが飲む分はありますか?」

「量は十分にありましたので、すぐに」


 ヘレーナさんに聞くと、レオ達の分もすぐに用意できるらしい。

 尻尾を振りながらヘレーナさんの方へ体を向けて待ってるから、楽しみなんだろうな。


「驚いたな、これ程美味いとは……」

「本当ですね。お父様、これを今まで知らなかった事が恥ずかしく思えます」

「美味しいです! もっと飲みたいです!」

「美味しいわ……これを使って病を広めるなんて……なんと罪深い……」

「貴女よ、それを考えたのは!」

「……そうだったわね」


 エッケンハルトさん達皆も、ブドウジュースの美味しさには驚いているようだ。

 皆、あっという間に飲み干してしまった。

 ヘレーナさんが空になったコップを受け取り、レオ達の分と一緒におかわりを注ぐため、持って行った。

 アンネさんも驚いているようだが、とぼけてるのか天然なのか、自分で考えた事だとクレアさんに突っ込まれてる。

 ……クレアさんの突っ込みかぁ……珍しい物が見れた。


「タクミ殿、良い事をしたな。これだけの物をあの量……無くすには惜しい」

「はい。俺も、向こうでワインを飲んで味を知っていたので、捨てるのは惜しいと思いました。しかし……」

「うん? どうしたのだ? 何か気になる事でもあったか?」

「いえ、今回の件でハンネスさん……ランジ村の村長と話したのですが……」




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はブックマークを是非お願い致します。


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犬にブドウはあかんねん、魔物化してるとはいえ不安になるね
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