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222/1981

クレアさんが皆の代わりに怒ってくれました



「まぁ、実行は全てバースラー伯爵だ。このアンネリーゼが関わっていないのははっきりしている」

「もちろんですわ。私はお父様に知恵を授けるだけ。それをどう使うかはお父様次第ですわ」

「……お父様、アンネ!」


 笑顔のまま、アンネさんがそう言った瞬間、おもむろに立ち上がったクレアさんが大きな声で叫んだ。

 この雰囲気は……以前セバスチャンさん達に怒った時以来か……どうやらクレアさんは我慢の限界だったらしい。

 俺も、苦しんでいる人々を見ているから、アンネさんの言い方にはあまり良い気はしていないんだが。


「何を暢気にそんな会話をしているの!? 実際に病になって苦しんでいる人もいるのよ! 関わっていないと言われても、納得できるわけがないでしょう! 特にアンネ! 貴女、何も罪の意識を感じていないのね!」

「ぬ……むぅ……」

「私は、魔法具を利用して利益を得る方法を考えましたけど、実行したのはお父様よ?」


 今までに見た事がないくらいの剣幕で、怒声を響かせるクレアさん。

 以前セバスチャンさんに怒った時よりも、すごい勢いだ。

 エッケンハルトさんはクレアさんの剣幕に押されているが、アンネさんの方はあっけらかんとした様子だ。

 ……やっぱり、女性は怒ってる女性に対して強いのかもな……アンネさんが特殊なのかもしれないが。


 ともあれ、俺もクレアさんと同意見だ。

 実際にラクトスの孤児院は子供達が病に、ランジ村でも大半の村人が病で苦しんでいるのを見た。

 苦しそうに咳をしている人達と、それを心配そうに見る人達を見ていたら、クレアさんのように怒るのも当然だろうと思う。

 セバスチャンさんや、ライラさんも少し眉をしかめているしな。


「実行したのは確かにバースラー伯爵でしょう! でも、貴女はそれを止める事ができたはずよ! そもそも、貴女が提案しなければ病が広がるなんてことはなかったはずなの! わかっているの!?」

「……それは……まぁ」

「苦しんでいる民を見なさい! 民だからと、私達とは違う者達だとは言わせないわよ! 民がいるから貴族がある! 貴族があるから民があるのではないのよ?! 私達を貴族たらしめているのは民のおかげなの! その民を苦しめる案……許すわけにはいかないわ!」

「うむ……うむ……」


 最初はあっけらかんとした様子だったアンネさんも、クレアさんに言い募られて段々と押され始めた。

 確かにクレアさんの言う通り、民があるから貴族がある……のだろうと思う。

 民がいなければ、自分が貴族だ! と声高に叫んでも、誰も敬ってはくれないしな。

 エッケンハルトさんも、クレアさんが言っている事は正しいと思うのか、頷いている。

 ……けど、エッケンハルトさんもクレアさんの怒りの矛先ですからね?


「ワフゥ……」

「……大丈夫、レオに怒ってるわけじゃないから」


 クレアさんが怒声を響かせる中、レオが尻尾を丸めて俺に顔を寄せて来た。

 マルチーズの頃、人の怒声というか、大きな声は苦手だったからな……小型犬にはありがちな事だけど、それを思い出したのだろう。

 レオを安心させるように撫でる。

 というか、最強の魔物と言われるシルバーフェンリルを怯えさせるクレアさんの迫力って……まぁ、レオが特別なのかもしれないが。


「でも……私は何も……」

「まだわかっていないようね! 目的はどうあれ、人々を苦しめる提案をした事が既に罪だと言っているの!」

「……伯爵家は最近、上手くいっていなかったから……」

「だからと、民を苦しめて良いとでも!? だとしたら貴族の風上にも置けないわ!」

「伯爵領の民は苦しめていないわ!」

「公爵領の民は苦しめても良いという事!? それは詭弁よ! 民は民。どこの貴族領の民であっても、全て同じ民なのよ! それを貴女は……!」

「……でも……その……」


 クレアさんの剣幕に押されているアンネさんだが、言い逃れ……というより言い訳をして矛先を逸らそうとしている。

 だが、結局はそれがクレアさんへさらに油を注ぐ形になり、延々と言い募られる。

 ……反省して謝れば、収まるかもしれないのになぁ

 クレアさんが烈火の如く怒りをぶつけてくれているおかげで、俺やセバスチャンさん、事情を知る人達は留飲を下げている状況だ。


 人を苦しめる提案をしたのはいただけないが、実行したのはバースラー伯爵。

 何の罪もないとは言わないけど、アンネさんを罰する事はできないだろうと思う。

 まぁ、反省とかは当然ながらするべきだと思うけどな。


「まだわからないようね……。それなら……レオ様!」

「ワフ!?」


 突然矛先を変えたクレアさん。

 俺に撫でられて安心していたのが嘘のように、驚いて声を上げている。


「アンネに近付いてしっかりじゃれついて下さい!」

「ちょっ! クレアさん、貴女!」

「ワフ……ワフゥ?」

「すまないレオ……俺には止める事ができなさそうだ……」

「ワフ!?……ワゥゥ」


 クレアさんの言う事に、助けてと言いたげな表情で俺を見たが、俺にはこの剣幕のクレアさんを止める事はできそうにない。

 視線を逸らして謝った俺に、レオは捨てられた子犬のような鳴き声を上げる。

 すまないレオ……無力な俺を許してくれ……いや、許してくれなくて良い……どうする事もできない俺には、お前を救う事はできないのだから……。


「さぁ、レオ様!」

「ちょっと、待ちなさい! クレアさん!」

「ワフゥ……」


 レオ自体は、アンネさんに対して嫌がる感情は無いんだろうが、クレアさんに怒られてるような気がして、あまり気が乗らないんだろう。

 だが、言い募るクレアさんは止まらない。

 アンネさんが叫びながら逃げ腰になるが、その後ろに回り背中を押す形でレオに近付く。

 仕方ない……とでも言いたげな様子で、レオが立ち上がり、大きな体でアンネさんに近付く。

 

「ほら、レオ様!」

「ワフゥ……ワフッワフッ」

「ちょ、そんな、顔を舐め……止め……」

「これでもまだ反省しないと?」


 促すクレアさんの言葉に、レオが遠慮がちにアンネさんの顔を舐め始める。

 レオに怯えていたアンネさんには、効果は絶大なのだろう、体を硬直させていた。


「……まぁ、この通り、クレアとアンネリーゼは昔から仲が良くてな……」

「お父様、その目は腐っているのですか!?」

「……仲が悪くてな」


 怒りが全てアンネさんの方へ行った事で、安心したエッケンハルトさんがまとめるように声を出す。

 しかし、その言葉を聞き咎めるクレアさんの叫びに、仲が悪いと訂正する。

 公爵家当主様とか、クレアさんの父親だとかの威厳が台無しです、エッケンハルトさん……。



読んで下さった方、皆様に感謝を。


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― 新着の感想 ―
[良い点] クレアさんの制裁が可愛いwww [気になる点] 例えば戦争で兵士が敵兵を殺したとしよう。 実際に手に掛けたのはその兵士だが、その行為を指示した将軍やそもそも兵を派遣した国に責任がないとで…
[一言]  とりあえず、アンネさんには例のワインを飲んでもらいましょうか。  何、飲んでも死にやしないよ。  しばらく、ひどい風邪をひいたようになって寝込むだけさ。
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