買い物に行く事になりました
「ガフ!」
「きゃー、レオ様凄いですー!」
レオが駆ける速さにテイルラちゃんは楽しそうだ。
俺が投げた枝は放物線を描き地面に落ちようとしていたが、レオは颯爽と走って追い付き、口でキャッチ。
口の端に咥えたままで俺の方へ走って戻る。
「おー。レオ、良くやったなー」
「ワウワウ」
「レオ様凄いですね!」
咥えて来た枝を受け取りながら、レオが頭を俺の手元の高さに下げたのでガシガシと撫でてやる。
ティルラちゃんも俺の真似なのか、背中に乗ったままレオの背中を優しく撫でていた。
あ、枝の端が折れてる……まぁあの勢いで咥えたら折れても当然か。
次は……そうだな……1本を投げてもあまり遠くへ投げられないし、簡単に取られるだけだ。
それなら……。
「よし、レオ次は何本かいっぺんに投げるぞ! 取れるかな?」
「レオ様頑張って!」
「ワウ!」
レオから全部取ってやると言ってるような雰囲気を感じつつ、先程拾った枝数本のうち1本残して、他の4本を纏めてさっき投げた方向に投げる。
俺が投げると同時に弾かれたように飛び出したレオが空中で1本目をキャッチ、そのまま次の枝へ向かう。
それを見ながら俺はレオが向かった方とは別の方向……レオの向かった方向が12時の方角だとしたら、3時の方角へと全力で残った1本を投げた。
さっきよりも遠く、違う方向へ投げた枝をレオは取れるかな?
……ちょっと意地悪だったか……さすがにあとでレオに謝ろう。
そう思ってた俺が見たのは、目で見えない程の足の動きで急転換をしたレオが、別方向へ投げた枝をキャッチするところだった。
えっと、口に咥えてるのは5本……あ、全部取れたのか……凄いなレオ。
これにはさすがに驚くしかない。
ただちょっとだけ、ティルラちゃんが落ちそうに背中からズレてた。
振り落とされたら危ないからな、これはもう止めておこう。
「ワウ……ワフ!」
戻って来たレオは自慢するように俺を見て、口に咥えた枝を俺に差し出した。
「レオ様凄いです! あんなに早く動いて全部キャッチするなんて!」
レオの背中に乗っているティルラちゃんは興奮しきりだ。
「レオ、まさか全部取って来るとは思わなかった。凄いなお前は」
「ワフ」
俺はちょっと得意そうな表情をしてるように見えるレオの頭を、褒めるように撫でておいた。
「ティルラちゃん、楽しいかい?」
「はい、楽しいです! こんなに楽しいのは初めてかもしれません!」
「そうか、それなら良かった」
あ、ティルラちゃんに丁寧語を使うのを忘れてた……。
まぁ、子供に畏まる必要はないか。
同じ目線で楽しんだ方が子供にとっては嬉しいだろう。
楽しそうなティルラちゃんとレオを相手にしながら、俺はしばらく裏庭で遊び続けた。
「タクミさん、そろそろ昼餉のお時間ですよ」
「タクミ様、昼食の支度が整いましたので、客間までお越し下さい」
クレアさんとセバスチャンさんが声を掛けて来るまで、時間を忘れて遊んだ俺とレオ、ティルラちゃんは屋敷に戻ってお昼を食べる事にした。
朝食後からずっと遊んでるティルラちゃんは、さすがに少し疲れた顔をしてたな。
まぁ病み上がりだから仕方ない、今日はこれでお終いにしよう……無理に遊ばせ続けるものじゃない。
そう考えてる俺も、ティルラちゃんとレオの相手をして少し疲れを感じる。
レオだけはあれだけ走り回ったのに疲れを見せず、お昼に期待してるのか尻尾を振りながら客間に向かって歩いていた。
昼食中、朝と同じように皆でテーブルにつき、おいしい料理を頂いている。
ティルラちゃんはある程度食べ進むと、はしゃぎ過ぎて疲れが出て来たのか眠そうに眼をこすり始めてる。
昼食後はお昼寝タイムかな?
子供は良く食べて良く寝てしっかり育って欲しいな。
ティルラちゃんの様子を微笑ましく見ていたクレアさんが、思い出したように声を出した。
「そういえばタクミさん。タクミさんの身の回りの物を用意しなければなりませんね」
あー、俺は何も持たずにここへ来たからな。
持っていたのは、ここに来た時に来ていた服とハンカチくらいだ。
携帯や手帳なんかは全部置いて来たな……。
「あ、でも俺……お金を持って無いんですが……」
「それなら大丈夫です。タクミさんの身の周りの準備に使う資金は当家が出します。タクミさんには私やティルラを助けて下さった恩がありますからね、これくらいはさせて下さい」
んー、昨日からずっとお礼だ何だと言われて、しっかりした食事と部屋を用意してもらってる。
ここでさらにお世話になるのは心苦しいが……かといって今無一文なのは間違いない。
この世界でお金を得るために働く事を考えるとしても、まずどうしたらいいのかすらわからない。
ここはとりあえず、厚意に甘えておこう。
遠慮するのも失礼かもしれないし、今は借りたつもりでお金を稼げるようになったら、セバスチャンさんに言ってお金を返そう。
……クレアさんに言っても受け取ってくれないかもしれないからな。
今はまだ立て替えてもらってると考える事にした。
「……では、すみませんがお願いします。ここには何も持って来ていませんので、お金も無く……」
「はい。遠慮せず受け取って下さい。それでは、昼食後は街に出て身の周りの物を買いに行きましょう」
「昼食後に街、ですか?」
「こういった物は早く準備しなくてはいけませんからね。それにここから街は馬ですぐに行ける距離です。今日中に揃えて帰れるでしょう」
「そうですか。わかりました、お世話になります」
「はい」
街か……レオに乗ってこの屋敷に来た時は他に建物らしき物は見えなかったけど、馬に乗ってという事は数キロは離れてるのかもな。
今日中に帰って来れるならそんなに離れた距離でもないんだろう。
それよりも俺、馬に乗った事無いんだが……。
「移動は馬なんですか? 馬には乗った事が無いのですが」
「それなら大丈夫です。当家が使用する馬車がありますから。それに乗れば馬に乗れなくても関係ありませんよ」
「馬車では私が御者を務めさせて頂きます」
「ワウ! ワフワフ!」
おや、レオどうしたんだ?
今までソーセージを夢中で食べていたレオが俺とクレアさん、セバスチャンさんとの話に割り込んで来た。
あれ、もしかして……。
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