フェンリル達が待っていました
「ユート閣下、これでよろしかったのでしょうか?」
「タクミ君の事? まぁ、安心してもらえたようだし、レオちゃんも納得してくれたからいいんだと思うよ」
タクミ君の仕事部屋を出てから、ハルトが話しかけて来るのに答える。
「しかし、セイクラムや周辺国との関わりは、もう少しタクミ殿に言っておくべきだと思うのですが……」
「言うって言っても、どう話すの? タクミ君を最重要人物としてマークしているって話すの? そんな事を言ったら、タクミ君が警戒してレオちゃんも動こうとするかもしれないよ? レオちゃんはタクミ君が大事だからね。まぁタクミ君に止められるかもしれないけど」
タクミ君達に言った事、ちょっかいを出させないという約束は本当だし、僕もハルトも権力なりなんなりを使おうとも、全力でそうするつもりだ。
けど、シルバ―フェンリルの存在が他国に伝わっているため、共にいるタクミ君が重要人物としてマークされてしまっている。
何もさせないけど、それでも注目されるというのは居心地が悪くなるものだから、そこまでの事は伝えていないんだけど、それをハルトは気にしているようだね。
タクミ君達には知らせず、接触を図ろうとするなら事前に僕たちが対処するだけでいい。
「今回セイクラムがやった事で、周辺国は迂闊には動けなくなる。何かあれば僕が動くとなれば、悪さをしようとも考えない。各国の国王やそれに近い誰かが止めるだろうからね」
「まぁ、ユート閣下を敵に回したくないでしょうからな」
「うん。色々とやってきたおかげだよねー」
そのせいで、トラウマ製造機なんて不名誉なあだ名をつけられたんだけど。
つまりは、僕が関係していて、保護もしていると周囲に知らしめる事で、何かしようとすればトラウマが刺激される。
下手をすれば新たなトラウマを植え付けられると考えて、動けなくなるわけだ。
実際に何かしてきたらそうするつもりだしね。
「ハルト、できる限り開示できる情報は開示するというのは誠実さの表れであって、好感が持てるし美徳だけど、必ずしもそれが正しく、良い方向に行くとは考えない方がいいよ。裏表がないのはいい事なんだけどね」
実直、誠実という言葉が似あうよう、そして努めようとするのはハルトや公爵家の素晴らしいところだけどね。
ジョセフィーヌちゃんもそうだったし、それは多分シルバーフェンリルとかと関わるようになって……いや、それ以前に生来の性格だったのかもしれないけど。
それは公爵家という家系に着実に流れているってわけだね。
タクミ君とも相性が良さそうだし、そのタクミ君がレオちゃんと一緒にクレアちゃんと出会ったのは、この国どころか世界にとって素晴らしい邂逅だったのだと思うよ。
「……ユート閣下のお言葉、しかと心に刻んでおきます」
「固い固い、普段のハルトはどこに行ったのかな? 僕の言葉なんて、話半分に聞いておけばいいんだよ」
「諭すような事を言っておいて、その返しは中々ないと思います、いい加減閣下」
なんて、ハルトに手を振って笑いかける僕に冷たい声で言うルグレッタ。
うんうん、やっぱりルグレッタの冷たい声って背筋がゾクゾクしていいね。
「いい加減かぁ……知ってる? いい加減って、良い加減って事なんだ。つまり適当とも言える。はは、僕に一番ふさわしい言葉じゃないかな?」
「……言葉選びを間違えました」
あれ? ルグレッタが考え込んじゃった。
適当で、適切、良い加減。
僕にピッタリだと思ったんだけどなぁ……?
――――――――――
「……なんで、フェンリル達がグループに分かれているんだ?」
騒動後のあれこれを聞いた後、クラウフェルト関連の事をやろうとしたら、アルフレットさん達に無理はしないでと止められ、執務室を追い出されたため、仕方なくレオやリーザ、クレアと共に屋敷の庭に出る。
さらに庭からも出て、フェンリル達の様子を見るために厩舎の方へ向かうと、そこでは外でいくつかのグループに分かれたフェンリル達が揃っていた。
いつもなら、整列をするくらいはするけどグループ分けとかはしていなかったはずなのに。
「どうしたんでしょうか? 確かに、いつもと違うような気がしますね」
隣にいるクレアも不思議顔だ。
首を傾げていると、リーザを乗せたレオが俺達の前にのっそりと出てきた。
「ワフ。ワッフワフワウ」
「皆ね、反省しているんだってー」
わざわざリーザがレオの鳴き声を通訳してくれるが、どちらかというと俺にではなくクレアに対してのようだ。
ともかく、レオが言うにはフェンリル達はトレンツァさんの騒動の時に暴れてしまった事を反省しているらしい。
言われて気付いたけど、一部……というかそちらが過半数以上なんだけど、いつも通り行儀よくお座りしているフェンリルを除いて、いくつかのグループに分かれているフェンリル達はそのどれもが落ち込んでいる様子だ。
いや、それでも行儀よくお座りしているんだけど、尻尾は垂れ下がり、うなだれて申し訳なさそうな雰囲気を醸し出している。
「あぁ、あっちのフェンリル達は、騒動を収めるのに協力してくれたのか。それで、申し訳なさそうなのが暴れてしまったフェンリル達……と」
「そう、なんですかね」
「なんとなく、顔というか全身でもあるんだけど、見分けるとそうなるみたいだね」
慣れだろうけど、数十体いるフェンリル達を見分けると今言ったように、申し訳なさそうなフェンリル達は確かに暴れていたので間違いなさそうだ。
クレアは一部はわかっても全部を見分けるのは難しいみたいだが。
まぁ多少は見た目や性格に個性があるにしても、パッと見はほぼ同じに見えるから仕方ない。
俺自身も、なんでそこまではっきり見分けられるのかわからないくらいだし、クレアの方が通常なんだろう。
「けど、暴れてしまったフェンリル達がグループに分かれているのはどうしてなんだ、レオ?」
「ワッフ、ワフワウワッフ」
「ふむふむ……」
どうやらフェンリル達のグループ分けには意味があったらしく、それぞれ中庭、壁の外など、暴れた場所によって分かれているようだ。
特に、トレンツァさんに強制されて森に行ったフェンリル二体と、村の方にまで行ってしまった二体のそれぞれが深く落ち込んでいる様子に見えた。
「グル……グルルゥ、グル、グルゥ」
落ち込んでいる様子のまま、ゆっくりとこちらを窺うように出てきたフェリー。
リーザに通訳してもらうと、正気を失って暴れまわってしまった事を反省し、申し訳なく思っているという事みたいだ。
まぁレオが言っていたのと同じだな。
そういえば、中庭でトレンツァさん達を捕まえるために突入したフェンリル達の中にフェリーがいたけど、あの騒動でそのまま暴れていたみたいだ。
さすがに、あんな混乱状態の中でフェリーがどこでどう暴れていたかまでは、俺にはわかっていなかったけど。
トレンツァさんがカナンビスの薬を撒いた時、離れていたフェンやリルル、厩舎のフェンリルとは違ってすぐ近くにいたんだから、巻き込まれているのも当然か。
「ワウ、ガウワウワフ!」
「グルゥ……」
レオが叱るように鳴くと、フェリーを始めとした暴れていたフェンリル組が揃って情けない声を出しつつ、うなだれていた頭をさらに下げる。
謝っているって事なんだろう。
レオの方は、仲良くなった人達を危ない目に遭わせて! みたいな事を言っているようだが。
「まぁまぁレオ。あれは、フェンリル達の心がけ次第で防げた事じゃないだろうし、俺ももっと警戒すべきだったんだ。だから、あんまり叱るのはなしな?」
「ワフゥ?」
「うん、いいんだ。カナンビスの薬がどれだけ苦しいのか、俺にはわからないけど。でも、苦しくて暴れてしまうって事は仕方ないと思う」
まぁ実際に暴れるかはともかく、どうしようもない痛みや苦しみで、暴れたくなるほどの気持ちっていうのは少しくらいはわかるしな。
「タクミさんやレオ様。それから他の皆が協力してくれたのもあって、大きな被害もないですからね。悪いのはトレンツァ達であって、フェンリル達は被害に遭った方です」
「ワフ」
俺とクレアの言葉で、レオは納得したらしい。
確かに兵士さん達や村の人達など、フェンリル達を受け入れてくれて仲良くなれたけど、事態を収めるのがもっと遅く、もしくは被害が大きくなってそれこそ死人なんて出していたら、今後どうなっていたかはわからない。
けどなんにしても、クレアの言う通りトレンツァさん達が悪いのであって、フェンリル達が悪いわけではなく、むしろ被害者側だ。
もうちょっと、暴れる動きに加減というか我慢してくれればと思わなくもないけど、それだけカナンビスの強化薬は強い苦しみをフェンリル達に与えたという事でもあるからな。
「そういえば兵士さん達ですけど……」
落ち込んでいるフェンリル達を慰め、むしろマクレチスで掴まえたり、レオや兵士さん達によって多少無理やりにでも抑えたあれこれを労わる。
事態の収拾に協力してくれたフェンリル達の方は労い、褒めた。
俺やクレアだけでは手が足りなかったので、使用人さん達とかにも手伝ってもらってだが。
順番に撫でたり声をかけたりしていく中で、そういえばと思い出し、兵士さん達の様子が気になってクレアに尋ねた。
村の人達は、俺が無事に目を覚ました事を伝えた時に少し話したけど、事情を既に聞いていてフェンリル達の事を心配しているくらいだったけど。
兵士さん達の方はあまり聞いていなかったのを思い出した、大きな怪我とかはなく無事なのは聞いているけど。
「一部、フェンリルを怖がるようになった兵士もいるみたいですが、それも足が竦むとかではなく、畏れ多いというのに近い様子でしたね」
フェンリルの凄さを目の当たりにしたから、とかだろうか?
いや、それなら森の調査で遭遇した魔物を狩る時に見ているか。
場合によったら、自分にそれが向けられる可能性がある、と感じてもしそうなったらと考えてなのかもしれない。
それでも、これまで通りフェンリルに乗ったり撫でるのは問題ないらしく、恐怖心を植え付けられたとかではないみたいで少し安心した。
その兵士さん達だが、トレンツァさんを捕まえて事件が解決、調査をする必要がなくなったため、俺が寝ている間に村から離れて行っているらしい。
元々調査のためにエッケンハルトさんが集めたのだから、解決したら元居た場所に帰るのは当然か。
多くの兵士さんが、帰路に就く前に村の人達と挨拶を交わしたり、レミリクタで薬を買って行ってくれたらしいけど。
俺が寝ていたため当然ながら、クラウフェルトの業務の根幹、薬草栽培の一部は止まっていただろうけど、薬の方は大丈夫かな? 在庫を切らしていないかって意味で。
「ほーらほら、ここを撫でられるのが好きなんだったよなー。反省するのはいいけど、悪くないんだからあまり落ち込むんじゃないぞー? っと。――ミリシアちゃんの方は、大丈夫だったのかな? 薬が足りなくなったりとか」
「ガァゥ、ガァ~」
暴れてしまったフェンリルが仰向けになって降参ポーズ、というより撫でて欲しそうなのを見てワシャワシャと撫でてやると、気持ち良さそうに声を漏らした。
そうしながら、ついでに今考えていた事をクレアにも聞いてみる。
「ふふ、気持ち良さそうですね。タクミさんはレオ様だけでなく、フェンリル達が喜ぶのをよくわかっているんですね。ミリシアの方は、少々心許ないと言っていたようです。元々レミリクタはランジ村の人達に対してという側面が大きいですから、兵士達がこぞって買い求めるにはさすがに、ですかね」
「なんとなく、反応を見ていればわかる気がするんだよね。ふむ、やっぱり薬の在庫が厳しいかぁ。調合で大変になるかもだけど、寝ていた分薬草を作らないと」
フェンリル達がどこを撫でて欲しいかとかは、なんとなくわかるんだよなぁ。
まぁリーザとかがいなければ完全な意思疎通ができないけど、こちらの言葉は通じているし反応はかなりわかりやすいってのもあるけど。
ともかく、薬の在庫が足りなくなりそうみたいだから、張り切って薬草を作らないといけないな。
そう思っていたら、隣にいるクレアが咎めるようにこちらを見た。
「いけませんよ、タクミさん。まだ目を覚ましたばかりなんですから。無理をしないようにしないと」
「ははは。確かにそうだね。ごめん、心配をかけちゃった」
体の不調とかは感じないし、むしろ元気だと思うんだけど、それでも七日も寝続けた後なんだから無理は良くない。
クレア達にも心配させちゃったしな。
「それに、薬草畑の方で収穫と言いますか、採取して薬を作れていたようですし。今すぐにでもタクミさんが作らなければなんて状況じゃないみたいです」
「まぁ、さすがに今すぐはね。様子を見ながら、ボチボチやっていくよ。必要な薬草とかも、ミリシアちゃんと相談しないといけないし」
畑の薬草で間に合ったのなら、栽培をしていてよかった。
元々俺一人のギフトで作れる以上に、数を増やすために薬草畑を作ったんだからその甲斐があったって事だろう。
そんな風にクレアと話しながら、順番にフェンリルを撫でていく。
リーザやレオも、俺が寝ている間にフェンリル達と話していたみたいだけど、改めて何か話しつつ、俺達とは別にフェンリル達の間を移動していた。
あと、いつの間にかシェリーもいて、仰向けになっているフェンリルのお腹の上を転がって遊んでいる。
乗られているフェンリルの方は気にしていないようだけど、何やら誇らしげにしている時もあった。
まぁ楽しそうだから気にしないでいいか。
「ん? なんか地面というか土の感じが不自然なような?」
「あぁ、それですか」
特に何の変哲もない地面の土だけど、なんとなく踏んだ感触、というより見た感じに違和感を受けた。
なんというか、全体がってわけじゃないんだけど、一部が掘り返した後のようになっている。
「フェンリル達を抑えるために、兵士達が土の魔法を使った跡ですね。本当はもっとデコボコになっていたり、穴が開いたりしていたんですけど、事態が落ち着いた後に埋めて均しました」
「あぁ、成る程……」
そういえば、ここはフェンリル達が暴れていた場所でもあったっけ。
とはいえ、兵士さん達が魔法を使ったのは見ていないんだけど……ユートさんの間違いでは? と思ってさらに詳しく聞いてみると、どうやらフェンリルの突進を受け止める際に土で壁を作って勢いを殺す、なんてのをしていたらしい。
俺がマクレチスを作る間、周囲を固めてくれた盾を持った兵士さん達も、受け止める際にそうしていたらしい。
しゃがみ込んでいたし、兵士さん達の隙間からフェンリルを見ているくらいだったから気付かなかったな。
フェンリルを止めなければ! という思いが強くてあまり周りが見えていなかった部分もあるから、そのせいでもあるかな。
もう少し冷静に、周囲の状況が見られるようにならないと……同じような事はもう起こって欲しくないし、ユートさんやエッケンハルトさんがさせないよう動いてくれるみたいだけども――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
書籍版最新7巻、コミックス最新6巻好評発売中です!
是非とも、ご購入お願いいたします!
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。







