事件後のあれこれを聞き始めました
――クレアが部屋を出てからすぐ、ライラさんやアルフレットさん達使用人さんを始め、エッケンハルトさんやユートさん、エルケリッヒさん達だけでなく、テオ君やオーリエちゃん、ヴェラさんやバルロメスさん、さらにはミリシアちゃん達従業員さんやフィリップさん達やルグリアさん達まで、屋敷にいる大勢の人達が部屋に押しかけ、ちょっとした混乱が起きた。
それだけ、多くの人に心配をかけた事でもあるから、申し訳ない。
屋敷の外では、村の人達だけでなくフェンリル達も心配して中に入りたがったようだったので、そちらにも顔を見せて無事な事を報せた。
「これだけ皆に心配かけてしまって申し訳ないけど、それだけ気にかけてもらって、うれしくもあるかなぁ」
「ワフ、ワフゥ」
「ははは、うん。ちゃんと反省しているよ」
咎めるように鳴くレオにそう言う。
エルケリッヒさんには騒動の最中に無理をしないよう言われていたのに、結局無理をして倒れてしまったとあって、マリエッタさんと一緒に懇々と説教をされてしまったからね。
起きたばかりの体には堪えたけど、俺を思っての事だから仕方ない。
「とりあえず、お腹も満たされたし……と」
七日間意識を失ったまま、寝ている状態だったみたいだけど、ずっと食事をしていなかったため、前回以上に体を労わる食事をした。
お米があるため今回はユートさんが提案した、長めに煮たおかゆを塩で味付けした簡素な物だった。
それでも、塩味が心地よくて染み渡るような感じがしたのは、それだけ体が欲していたからだろう。
ともかく、体が落ち着いて後は安静にしていればいいだけだったけど、俺が倒れた後に事件がどうなったのか聞くため、主要な人達に集まってもらった。
というよりユートさん達が、話したがっていたのもあるけど。
……先にエルケリッヒさんとマリエッタさんの説教が始まったため、まだ聞けていなかった。
「まずはタクミさんが倒れた前後の状況から話しますね? ちょっと不思議な事もあったので」
「うん」
クレア、レオ、リーザ、エッケンハルトさん、ユートさん、ルグレッタさん、それからライラさんとアルフレットさんとセバスチャンさんが執務室に集まった。
リーザとレオは、クレアもだけど俺から離れたがらなかったのもある。
皆にお茶が行き渡ったのを見計らってクレアから話し始める。
俺だけ白湯だけど、それすら美味しいと感じるなぁ。
「私がリルルに乗ってタクミさんの所に着いた頃には、地面に倒れ込んでいました」
「意識がなくなる直前、クレアの声が聞こえた気がするから、ほぼ同時くらいだったんだね」
その時の状況を思い出しているのか、俯くクレア。
本当に心配させすぎだな、俺。
もし立場を逆にしたとして、俺がクレアの所に行った時に倒れていたら生きた心地がしないだろうから、本当に申し訳ない。
「レオ様もいらっしゃいました」
「ワフ」
頷くレオ。
そういえば、レオの鳴き声も聞いた覚えがあるな。
「それからはおそらく、マクレチスでしたか――あれで掴まえていたフェンリルが自由になっていましたが、すぐにレオ様が対処して下さって――」
レオが何とかしてくれたのか、やっぱり頼りになる相棒だ。
そういえばと、俺の近くにもう一体無事なフェンリルがいたと思うんだけど、その事について聞いてみると、俺が意識を失ったのを見て取り乱し、慌てるだけで動けなかったようだ。
協力してくれたのに、目の前で倒れてしまったし後で感謝と謝罪をしておかないとな。
もちろん、他のフェンリル達もだ……元気なのは確認したけど。
「クレアとレオは別々にいたはずだけど、どうして俺の所に?」
「不思議というのはその事なんですけど」
「それについては僕から。もうレオちゃんやクレアちゃんとも話したんだけどね――」
クレアの後を継いで、ユートさんからの話。
なんでも、庭でのフェンリルの対処を終えていたクレアは、突然湧き上がる不安に突き動かされるように俺の所へ向かったらしい。
俺に何かあったのか、それともこれから何かあるのか、と感じたとか。
他方、レオの方も同じ頃に似たような感じを受けて、急いで俺の所へという事みたいだ。
クレアはともかく、レオはトレンツァさんを追いかけて森の中に入っていたのに、クレアとほぼ同時に同じ事を感じて、同じ頃に到着したのか。
それだけレオも急いで来てくれたんだろう。
「それでその感じた不安ってやつだけど、レオちゃんとクレアちゃん。それからタクミ君の間で繋がりができているみたいなんだよ。多分、クレアちゃんのネックレスを通じてかな、と僕は見ているよ」
「繋がり……? 魔力的なものとか?」
繋がりと言われても、気持ち的な部分はともかく目に見える繋がりがあるわけじゃない。
けどこの世界にある魔法や魔力ならとは考えられた。
「うーん、そうだとも言えないし、言えるというか。よくわからないんだ。レオちゃんとタクミ君の間に元々あった繋がりを、クレアちゃんのネックレスを起点にして拡張したっていう感じなんだけどね」
「ネックレス……」
「以前、レオ様に力を授けられたこれですね」
ほぼ常に身に着けてくれているクレアのネックレスは、俺がプレゼントした物。
レオが祝ってくれた時に、クレアのちょっとした願いみたいなのを叶えてくれる特別な物となったけど、それが俺やレオとの繋がりになっているのかもしれない。
結局はっきりしない事が多いけど、とにかくその繋がりのおかげで、レオやクレアに俺の危機みたいなのが伝わったらしい。
おそらく逆、というかレオやクレアに何か危機的な事が起これば、俺にも伝わるだろうと言うのがユートさんの見解。
まぁレオが危機的状況になるなんて、この世界で起こり得ないだろうとも言っていたし、クレアには危機的な状況になって欲しくないので、試す事はしない。
「俺が倒れた前後の状況はわかりました。俺、その後から七日間寝続けていたんですね」
寝ていた側としては、あまり実感がないけど。
「クレアとレオ様、それからリーザはずっとタクミ殿の傍から離れようとしなくてな。いつ目が覚めるかわからないが、いつ目覚めてもいいようにと」
「ずっと看病してくれていたんだね、ありがとう」
「いえ……」
クレアも一緒に、他にライラさん達使用人さんもだけど、俺の看病をしてくれていたらしい。
特にクレアは、レオやリーザと一緒に俺の部屋に泊まり込む程だったとか。
「俺の事はわかりましたけど、トレンツァさん達はどうなりました?」
あの事件を引き起こした元凶であるトレンツァさんと、セイクラム聖王国の暗部。
あれからどうなったのか気になるところだ。
「屋敷に来た暗部は全て捕えてある。トレンツァは……暗部もだが、全てユート閣下に引き渡したぞ」
「ユートさんに?」
「ワフゥ」
少し疲れた様子でそう言うエッケンハルトさんに、何故か溜め息を吐くレオ。
何かあったんだろうか?
「ちょっとね、色々とやっただけなんだよねー」
「閣下のあれは、ちょっとではありません。トレンツァは精神が壊れかけていましたよ?」
「えーっと……」
よくわからないけど、ユートさんが何かやらかしたのかな? と思って詳しく聞くと、レオもその時近くで見ていた、というより目を逸らしていたが近くにはいたらしく状況は知っていたようだ。
ただ、何が行われていたのかはユートさんは詳しく話さず、レオも言いたくなさそうだった。
エッケンハルトさんやルグレッタさんが「聞かない方がいい」と言っていたので、気になるけど気にしないよう努力する事にする。
聞いたらユートさんを見る目や、後戻りできなくなる何かがありそうだ。
「と、ともかくさ、トレンツァ達はセイクラムに対する鎖……えっと、タクミ君達に今後一切ちょっかいを出せないようにさせる道具になったから、これ以上タクミ君は気にしないでね?」
「いや、気になるけど……」
「はぁ……」
道具って言ったよな今。
ルグレッタさんが頭を抑えて溜め息を吐いているけど、ユートさんの素で出た言葉っぽい。
こちらも気になるけど、気にしすぎると危険な香りがするので、無理矢理思考を逸らす事にした。
そもそも、トレンツァさんを捕まえて裁く立場にいるわけではないから、適切――かどうかはさておき、対処してくれるなら任せるに越した事はない。
「タクミ殿には苦労を掛けてしまったうえ、結果的にはっきりしない部分が出てしまうのは申し訳ないが、ユート閣下が仰る通り、我が公爵家、そして国を挙げてセイクラム聖王国がタクミ殿に害をなす事はないと約束しよう」
「そうだよ。だから安心してねタクミ君」
「は、はぁ」
気にしないようにする方向で考えていたら、エッケンハルトさんがフォローするようにそう言うのに、ユートさんも乗っかる。
国を挙げてとまで言われたら、これ以上突っ込めないな。
エッケンハルトさんとユートさんの間で、国にも関わるような話し合いが行われていたんだろうし。
二人共レオの方を気にしている様子も見られたのは、少し不思議だったけど。
「そういえば、タクミ君。体の方は大丈夫? 意識を失った後のタクミ君を診させてもらったけど」
「まだ少し、節々が痛いくらいで、なんともない……って程じゃないけど、平気かな」
「うんうん、やっぱり僕が診た通りだったね」
強引に話を逸らすようだったけど、とりあえず改めて自分の体を確認しながら答える。
「魔力とギフトを使い過ぎたからって聞いたけど」
「うん、そうだね。マクレチスを作りすぎて、さらに魔力も多く吸われたせいだろうね。タクミ君を診た時、魔力の残りもかなり少なかったから。結構危なかったんだよ? ギフトの過剰使用だけでも危険だってのに、魔力まで少ないんだから」
「自覚していた以上に、魔力とギフトを使っちゃったみたいで。もっと気を付けないといけないなぁ」
「レオちゃんとクレアちゃんが駆け付けるのが遅かったら、もっと危険だったんだけどね――」
詳しく話を聞くと、俺は意識を失いながらもマクレチスに触れたままだったらしい。
マクレチスは、意思を持って魔力を流せばある程度自由に操れるけど、魔力を吸い取るのは意識があるかどうか関係なかったりする。
魔物であるからこそなんだろうけど、レオやクレアが来てくれた事で、マクレチスから引き離してくれたらしい。
あの時、意識を失う直前までマクレチスから手を離しちゃいけない、と思っていたから倒れてもそのままだったんだろう。
「魔力とギフトが原因だから、七日間寝たままでも、今こうして障害なく動けていると聞きました」
「そうなの?」
クレアの言葉に、首を傾げる。
でもよく考えたら、目が覚めた時声がかすれる程に喉が渇いていたのと、長時間寝たきりだった体の痛み以外はちゃんと起き上がれたし、動けた。
体を労わる流動食が必要だったというのはともかくとして。
「疲労に近いんだけど、疲労とは違うからね。魔力が足りない、ギフトを使うために力が足りない。だから体が寝続ける事で回復を行っていたんだよ。それらの過程では、多少長く寝てしまって体を動かさなくても、ある程度はすぐに動けるようになるんだよね。もちろん、もっと長く寝続けていたら、その限りじゃないけど」
「ギフトに関する部分は私にはわかりかねますが、魔力不足による意識障害の場合、順調に回復さえすれば筋力低下などを含め、本来考えられる障害は起こらないとされています。もっとも、タクミ様のように長い日数、意識が回復しない例は多くないようです」
「そうなんですね」
ユートさんの話にセバスチャンさんがフォローの説明をしてくれる。
あまり医療の専門的な話は分からないけど、よく考えれば七日間も寝たままだったら色々と障害が起きてもおかしくないはずなんだよな。
起きてすぐ体が動かせたから、あまり疑問には感じていなかったけど。
ただ、意識を失うくらい魔力を使い過ぎてしまうと、そのまま回復ができず魔力が枯渇して死に至るケースもあるらしいので、運が良かった部分もあるんだろう。
あと、魔力視という手段を持つユートさんが近くにいた事もラッキーだったと言えるかな。
もちろん、助けてくれたレオやクレアのおかげでもある。
魔力はともかく、ギフトの方は緊急時のためにお酒を持っていた方がいいのかな? なんてちょっと考えた。
スキットルだっけ? よく洋画とかで飲んだくれの人が持っている金属製の入れ物とか……お酒好きというわけではないのに、飲んだくれになってしまうようで少し微妙な気分になりそうだな。
このあたりの手段は要相談という事にしよう。
今回のように、過剰使用になるような事件は起こらないに越した事はないし、そうならないよう気を付けた方が良さそうだ。
「魔力、で思い出したんだけど、フェンリル達は? いや、元気なのは確認したけど、ほらあの……強制隷従具? とかで無理矢理従わされたフェンリルもいたから」
「そっちは大丈夫。今後の影響もないよ」
「カナンビスによって魔力が乱され、暴れるまでに至ったフェンリル達は、先にタクミ殿が用意してくれていたサニターティムの丸薬によって、すぐに回復したぞ」
サニターティムの丸薬はフェヤリネッテにも協力してもらったから、そのおかげでもある。
でも今こうして無事を確認してからの結果論になるけど、あの時急いでサニターティムを作らなくても事態が落ち着いてからゆっくり作ればよかったんだよな。
とにかく早く収束させ、フェンリル達の苦しみを取り除いてやりたい、という一心だったわけだけど、ちょっと冷静に考えられてなかったか。
「あの時使われたカナンビスは、効果こそ強い物でしたが、長期に影響を残すような物じゃなかったみたいです」
「強制隷従具を使うための布石、だったんだろうね」
「弱らせて従わせるだけで十分だったって事か。まぁそのサニターティムの丸薬を用意するために、結局無理しちゃったんだけど」
カナンビスの強化薬は、どうやらサニターティムの予防効果を上回るように作られただけで、影響時間みたいなのを犠牲にしていたってわけか。
以前フェンリル達が影響を受けた時は、暴れるまでではなかったから、そうして混乱を生み出したのに乗じて強制隷従具を使うために用意したんだろう。
ちなみに、トレンツァさんを探っている時に、外に出ず宿の中から不審な音が聞こえていたのは、そのカナンビスの強化薬を作るためだったようでもある。
作ってからの保存期間が短いらしく、直前に作る必要があったと、トレンツァさんから現物を押収して調べたうえ、本人からも聞き出したとか。
そのカナンビスの強化薬は、調べた後はユートさんが派手に焼却処分したみたいだ。
もちろん、フェンリルが嗅いでしまわないよう、屋敷から離れた場所まで持って行ってからだ。
かなり離れてから実行したらしいけど、それでも屋敷から火柱みたいなのが見えたらしい……恨みや怒りがこもっていたのかもしれない。
ちょっと見たかったのはここだけの話だ――。
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